第37話 不穏な空気

冒険者ギルドを出ると、慌ただしくラクダが街中を走っているのが目に付いた。

どうも町全体の雰囲気が悪い。


まあ理由は分かる。

上位貴族の一族が昨晩皆殺しにあったからだ。


その犯人も……まあだいたい予想がついた。

恐らく、ペイルとアーリィの2人だろう。


サンドランナー狩りを終えて帰った私はへとへとだったのだが、2人の雰囲気がいつもと違う事は一目でわかった。

何せ血の匂いまでさせていたわけだし。

まあそれが何かを確信したのは、翌朝からのこの騒ぎがあってこそだが。


しかし何故私に伏せられているのかが不思議だ。

子供達を革命軍に預けた時点で、覚悟はできているのだが……ひょっとして信用されてない?


だったらちょっとショックだ。


「まあ考えても仕方ないか」


私は細かい事は気にしない事にして、帰途に就いた。

その途中、ラクダを駆る10数人の男達と道ですれ違う。

その瞬間、嫌な予感が背筋に走った。

彼らの向かっている方角は、革命軍の隠れ家のある方向だったからだ。


「まさか……ねぇ」


街が殺気立っている為、そう感じるだけだ。

あれだけ入り組んだ場所、そう簡単に見つかるはずがない。

筈がない……が。


気づけば私は駆けていた。


男達がラクダから降り、半分が路地裏に入り込んでいく。

そこは見覚えがある。

何故なら、私が革命軍の隠れ家に向かう時に通った道だからだ。


「参ったわね」


残り半分が居酒屋の正面を固めている。

加勢したいところだが、このままでは顔が見られてしまう。

かと言って殺すわけにもいかない。


その時、視界の端に露店が見えた。

私はそこに駆け寄り、仮面を手に取る。

出来れば厚手のニカブとかの方がカッコいいのだが、贅沢を言ってはいられなかった。突入迄もうあまり時間も無さそうだ。


急いでそれを顔に被った私は、路地裏の方に飛び込む。

狭い路地裏を進むと、隠れ家の入り口であるバーの裏口に男達が群がっているのが見えた。


突入待ちだろう。

もしくは、裏口から逃げようとした相手を捉えるつもりか。

何方にせよ、宜しくない。


私は音もたてずに壁を蹴って高く跳躍する。

そして相手の頭上から、落下しながら男の一人を蹴り飛ばした。


「な!?なんだぁ?」


敵は全部で5人。

いや、最初に一人蹴飛ばし、今鳩尾に拳を叩き込んだ。

残りは3人。


2人倒されたところで、やっと何が起きたのか分かった男達は身構える。

だが遅い。

私の爪先が男の腹部を捉え、沈める。


残りは2人。

いや、0だった。

男達の背後に何者かが着地し、そのまま二人を気絶させた。


「ひょっとして、私の手助けは邪魔だったかしら?」


そこには、ティア様の命で動いていた間諜の姿があった。

どうやらこのアジトは彼女が見守っていた様だ。

彼女の腕なら、兵士の10や20は敵では無いだろう。


「よく襲撃が分かったわね?」


「町で偶々見かけて、なんとなくね」


「へぇ、良い勘してるじゃない」


「そんな事より、いいの?」


私は裏口を指さす。

店内からはどたばたと大きな音がしている。

正面に居た兵士達が突撃したのだろう。


こんな所でおしゃべりしている場合ではないのではなかろうか?


「ああ、大丈夫よ。今ここには革命軍のリーダーが来てるからね。彼、強いわよ」


筋肉達磨のおっさんの事をを思い出す。

確かにあの人なら強そうだ。


「成程」


そうこう話している内に、店内が静かになった。

どうやら終わった様だ。


「終わったみたいね。んじゃ、帰るわ」


どうやら冗談抜きで私が駆けつける必要は無かった様だ。

あー、無駄な事した。


「リーダーにはあって行かないの?」


「用事がある訳でもなし、別にいいわよ」


イケメンならともかく、筋肉達磨さんの顔など一々拝む必要はない。

あたしは手をひらひらと振って、その場を立ち去った。

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