第34話 味方でした

「いたぞ!!」


着地点の近くに、偶々私を追っていた貴族の徒弟達がいたため囲まれてしまった。

まあしょうがないので、相手をしてやるとしよう。

抱えていたままでは邪魔なので、私は女を地面に転がした。


「昨日は世話になったな。恥をかかせてくれた礼、たっぷりさせて貰うぜ」


男の一人が突っ込んできてサーベルを振るう。


だが――遅い。


遅すぎる。

この程度の腕で私と戦おうなんて、100万年早い。


私は振り下ろされたその一撃を、人差し指と中指で器用に刃を挟んで受け止めた。

そしてそのまま、指で刃をへし折ってやる。

この程度、強化された私の力なら楽勝だ。


「げぇ!?」


男が間抜けな声を上げて後ろに下がろうとする。

だがそれを許さず、私は素早くその足を足払いで刈ってやった。

更に体制の崩れた所に、顎への掌底を喰らわせておねんねさせてやる。


ふっ。

他愛ない。


「私、超強いけど?やるの?」


私の言葉に、男達は及び腰になる。

足元で転がっている女は中々の物だったが、他の奴らは糞ザコナメクジもいい所だ。


「大人しく消えるって言うんなら、見逃して上げるわよ」


「くそっ!覚えてろよ!」


私に恐れをなした負け犬共は、蜘蛛の子を散らすかの様にあっという間にその場からいなくなった。


「まったく、薄情な奴らね」


自分の側に転がる女を見て、溜息を吐いた。

掌底で吹っ飛ばした男の方は拾って連れていかれたが、私の直ぐ傍に転がっていた女は放置されてしまっている。


「ま、私に近づくのが怖かったってのはわかるけど……女性を見捨てていくとか……」


最低な奴らだ。

貴族にゴマをする徒弟など、所詮こんな物か。


こんな路地裏に女性を放っておくのもあれなので、抱えようと手を伸ばす。

瞬間女が起き上がり、腕を掴まれ投げ飛ばされた。


「くっ……もう目が覚めたの? 」


「全く、やってくれるじゃないの。まさか気絶させられちゃうなんてね」


女は体に着いた埃をパンパンと手で掃う。

ピンピンしている様だ。

細い見た目の割に、随分とタフな女である。


私は起き上がり、静かに構えた。

第二ラウンド開始だ。

今度こそ、きっちり眠らせてやる。


「ああ!待って待って待って!」


私が構えた瞬間、女が慌てたように手を振る。

降参か?


「私はあんたの敵じゃないわよ!さっきはちょっと揶揄っただけ。その拳を下ろして頂戴」


「そんな言葉を信じろと?」


何目的か知らないけど。

そんな戯言を素直に受け入れる私ではない。


「これを見なさい」


女は胸元から金貨を取り出し、私に見せびらかす。

巨乳自慢とか、どうやら彼女は死にたいよ……ん、あれ?


彼女の手にしたコインには、美しい女性が描かれている。


それはある女性を――というか、お嬢様を象った金貨だ。


その金貨はお嬢様の生誕16年を記念してつくられた物だった。

そしてそれは屋敷に使える者全て――あくまでもお嬢様子飼いの、ではあるが――に配られている。


当然、私もそれを貰っている訳だが……


「その金貨を持ってるって事は……」


金貨を持っているという事は、彼女はミャウハーゼン家所縁ゆかりの人間という事になる。


「ええ、貴方ももっているでしょ。私はお嬢様に命じられて、貴方の後を付けてたのよ」


うん、持ってない。

記念コインとして渡されたので、私は速攻売却してしまっている。

あの時はお嬢様にすっごい怒られたなぁ。

ちゃんとばれないように溶かして金として売ったのに、何故か直ぐにばれたのよねぇ。


って、そんな事はどうでもいいわ!


「お嬢様の命令で付けてた!?」


何のために?

考えるが、全く心当たりが思い浮かばない。


「ええ。革命軍の隠れ家の出入りで、貴方が誰かに付けられる可能性があったから。念の為見張ってる様に言われたのよ」


「にゃんですと!?」


私程の天才が誰かに付けられる事等在り得ない。

なぜこうも信用がないのか?


「実際、私が付けていても気づいて無かったでしょ?」


むう。

グゥの音も出なかった。


「それに、遠距離からの監視にも無警戒だったみたいだし」


それはしょうがないだろう。

魔法を禁じられているのだから。

数百m先から監視されている事に気づくとか、私の様な可憐な乙女には無理ゲー過ぎる。


「そんなの分かる訳ないでしょ?」


「別に気づく必要はないわ。目的地に移動する際、路地裏みたいな射線の通らない場所を複雑に通って行けばいいのよ。要は監視されているかもって警戒する事が重要なの」


面倒臭い。

それも超がつく程。


「それやったら給料上がるの?」


「……」


どうやら上がら無さそうだ。

私は従者で在って、間諜じゃないからなぁ。

給料が変わらないなら、そんな面倒臭い行動はとりたくない。


とは言え、何かお使いを頼まれる度に見張りを付けられるのも癪だ。

何よりそんな状態じゃ、迂闊に鼻毛を抜く事も出来やしない。


「まあいいわ。他にも対策方法があるんなら教えて頂戴」


「いいわよ。私はその為に態々貴方の前に姿を見せたんだから。ま、そしたら誰かさんにぶん殴られちゃった訳だけどね」


何か厭味ったらしく言って来るが、あれはどう考えてもあんたが悪い。

のだが……まあ色々教えてもらう訳だし、一応頭を下げておこう。


「ごめんね。私が強すぎて」


謝ったぞ。

さあ教えなさい。

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