第31話 施設という名の軍役

レイゲン国。

この国では隣国との小競り合い――戦争――が耐えない。

だがこの国に徴兵制度はなかった。


警邏や街の門番等は勿論いる。

だがその存在は、あくまでも通常時における街の治安と安全を守るのが仕事であり、戦時における軍人ではなかった。

その為、基本的に彼らは戦争には参加しない。


では戦争が起これば、誰が戦うのか?


それは貴族達だ。

貴族とその徒弟が軍人として扱われ、国の為に命を張って戦うのだ。

だからこそ、この国では貴族の権力が強いとも言えた。


まあそこはどうでもいい。

いや、昨日絡んできた48番みたいな理不尽があるからどうでもいいって頃は無いのだが、そこはまあおいておく。


重要なのは徒弟と呼ばれる者達の事だ。

貴族の徒弟には2種類あり。

1つは貴族に胡麻を磨る者だ。


彼らは貴族からのおこぼれを貰う為に、自ら進んで従っている。

そのため、戦時になれば手柄を立てるチャンスとばかりに張り切る輩が大半だった。


まあ此方は全く問題ない。

問題なのはもう一つの方。


それは親の居ない孤児達だ。

この国には、孤児達を守るシステムが存在していなかった。

親を失ったり、親から捨てられた子供達は誰かに引き取ってもらうか、引き取り手がいない様なら貴族の運営する施設に入るしかないのだ。


当然、貴族達は慈善事業で施設を運営したりなんかしていない。

施設に入った子供達は徒弟――貴族の盾――となる事が義務付けられていた。


子供達は何時戦場に送られてもいい様に厳しい訓練を課せられ、その最中に命を落とす者も少なくはないという。


行き場がなく。

選択肢の無い子供を自分達の道具として利用するシステム。

正に糞としか言いようがない。


「子供達の刻印を消すために、魔法を使いたいと?」


子供達は施設に入った時点で、消えない刻印を施される。

貴族の所有物たる証を。


「はい」


「それは脱走者を匿うのと、同じ意味があるのだけれど?」


それは分かっている。

貴族の物を盗むのだ。

バレればただでは済まないだろう。

まあだが、裏を返せばバレなければ良いだけとも言える。


「昨日貴族にお仕置きしたのは、彼らが対外的な面子を重視するからよ?決して侮った訳では無いわ」


私達は昨日、無理難題を吹っかけて来た貴族を蹴散らしている。

だが彼らは貴族特権を使って、衛兵に私達を捕まえさせる様な事はしないだろう。


流石の貴族も、国に仕える衛兵達を私用には使えないからだ。

衛兵を動かしたり、指名手配を行うには、何があったか国に報告しなければならなくなる。


そうなると、国の矛であり盾である貴族様が女子供にやられたという恥ずべき報告をする事になってしまう。

軍人としての面子が地に落ちる以上、それは絶対やって来ない。


国を動かされると流石に面倒だったろうが、それがない以上、報復にやってくる徒弟をぶちのめし続ければそのうち相手も諦めるだろう。

それを見越して、お嬢様は問答無用で48番を懲らしめている。


「分かっています。でも私は、あの子達を放っては置けません」


一応頼み事のていではあるが。

例えお嬢様に反対されても、私は彼らの刻印は消すつもりだ。

というか、実はもう消してある。


だから今更反対されても後の祭りだ。

勿論、最悪私がミャウハ―ゼン家を首になる事も覚悟の上だった。


「どうせもう、刻印は消してしまっているんでしょ?」


バレてた。

まあお嬢様に隠していても無駄か。


「仕方ない子ね。これは貸しよ」


許された!

大勝利!


「それで?どうする積もり?」


刻印があったため、レイ達は真面に働けず置き引きなんかの犯罪に手を染めていた。それが消えた今なら、犯罪に手を染めなくても生きて行ける筈。

特にレイは体力がかなりあるので、自分一人で生きて行くだけなら余裕だろう。


問題は、まだ小さい子供達だ。

彼らに働いて生きて行けと言うのは難しいだろう。

レイが彼らの面倒を見ると言ってはいたが、10人以上を養うとなれば普通に働いたのでは厳しい。


それだけの数を養うには、そこそこの稼ぎが必要だ。


「2-3人見込みのありそうな子達がいたので、その子達を鍛えようかと」


レイを含めた年長組3人の身体能力は悪く無かった。

そこらに転がっている衛兵より、よほど腕は立つだろう。


正直……余り気は進まないのだが。

彼らに、私は冒険者になる事を薦めて見ようと思う。

なんだかんだ言って、腕さえ立てば冒険者は結構稼げる仕事なのだ。


勿論危険は付き纏うだろうが、安全マージンを常に多くとる様、きっちり指導してやればなんとかやって行けるはず。


「ですので、その間長期休暇を頂けないでしょうか?」


出来れば半年は欲しい。

それが無理ならせめて3か月は……


「休暇は必要ないわ」


「へ……」


「その子達の引き取り先には、少々心当たりがあります。そこに任せましょう」


心当たり?

この国にも知り合いとかがいるのだろうか。

流石お嬢様。顔が広い。

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