第27話 異国の貴族

「初めまして、バラル・バラーケル殿。私はペイル・セバースと申します。我々に何か御用でしょうか?」


ペイルが一歩前に出て用件を尋ねる。

普段なら出しゃばりめとか思うところだけど、貴族の相手は面倒臭いので今回ばかりは有難い。


「ああ、突然の不躾。失礼する。実はそこの女性を私に譲って欲しいのだ」


そう言ってバラルがアーリィを指さした。

何言ってんだこいつは?


「彼女はそこの貴人レディの従者なのだろう?彼女を私の妻として迎え入れたいのだ。どうか譲って頂けないだろうか」


言いたい事は何となく理解できた。

要はアーリィに一目ぼれしたという事だろう。

確かにアーリィは美人な方だが、私やお嬢様程ではない。


美女2人を差し置いて、筋肉質なアーリィに惚れるとは。

この男、目が腐っているのだろうか?


「申し訳ありませんが、彼女は私の所有物ではありません」


お嬢様のその言葉で気づいたが、この国の貴族は従者を自身の所有物と考えている様だった。全くふざけた話である。


「私は彼女の冒険者仲間でしかありません。彼女に惚れたと仰るなら、直接口説かれるのが宜しいかと」


「なんだ。君も平民か?てっきり異国の貴族かと思ったが、全く紛らわしい事だ」


バラルの口調がガラリと変わる。

どうやら貴族至上主義の様だ。

趣味が悪い上に性格も悪いとか終わってる。


「ならば口説くまでも無いだろう。何せこのバラル・バラールケの42番目の妻になれるのだ。この世にそれを断る女など――」


「お断りする」


バラルの言葉を食い気味に遮って、アーリィは断りを入れた。

すっぱりと。


「馬鹿な!?平民如きが私の誘いを蹴るなどあり得ん!」


あり得んも何も、綺麗さっぱり断られてるわよ。

あんた。

だいたいアーリィは貴族に妹を殺されているのだ。

こんないけ好かない貴族野郎にオーケーなど出すはずがない。


つーか42番目とか。

ばっかじゃないの?


「では、我々はこれで失礼します」


そういうとお嬢様は、ごちゃごちゃ喚いている男を無視してすたすたと歩きだす。

それに私達も続いた。


「待て!私に恥をかかせて、只で済むと思っているのか!?」


かかせるも何も、そっちが勝手にかいたのだ。

私達が関知する謂れなど無い。


そのまま無視して歩こうとすると、バラルが腰に下げていた片刃のサーベルを抜き放つ。

そしてそれが合図となって、彼の背後にいた護衛の男達が私達を囲う。


「君には私の妻になって貰う。断れば、お仲間が痛い目を見る事に成るぞ」


まるでチンピラの様なセリフだ。


私達を囲む男達の手には、バラルと同じタイプのサーベルが握られている。

どうやら只の脅しではなく、本気で狼藉を働く気の様だ。


しかしこれだけ大っぴらに、大通りでで刃傷沙汰を起こすとは……


どうやらこの国は腐りきっているみたいね。

偉い国に来てしまったもんだわ。


正直この男達に、私達をどうこうする力はない。

だが相手は貴族だ。

下手に手を出すと後々厄介な事に成る。

取り敢えず、お嬢様の指示を待つとしよう。


「後悔する事に成りますよ?」


お嬢様のその一言を聞いて、私は戦闘態勢へと素早く移行する。

今のは手を出してきたら、ぼこぼこにしますよという意味だ。

その証拠に、ペイルも戦闘に備えている。


「ふん。冒険者如きが、付け上がるなよ」


この状況で一番留意しなければいけないのは――アーリィだった。

彼女の目は冷たく冷え切り。

明かに殺意の籠った眼差しをバラルへと向けている。


妹の件があるのだ。

腐った貴族に対する気持ちは分かる。

だが流石に死人を出されては不味い。


仕方が無いので、私は彼女のフォローに回ってやり過ぎない様ブレーキをかけるとしよう。あー、めんど。


「ふん、痛い目を見なければ分からない様だな」


望んだ返事が来ない事にイラついたのか、バラルが剣を頭上に掲げた。

それが合図となって男達が襲い掛かってくる。


私はアーリィの動きを――と思ったが、どうやらそんな心配はいらない様だ。


何故なら、男達は一瞬でお嬢様の手によって制圧されてしまったからだ。

私やアーリィに動く隙も与えず6人の男を転がすとか、最早神業レベルとしか言いようがない。


さすおじょ。


「ぐ……、貴様何をした!」


地面に転がるバラルが顔だけ上げて唾を飛ばす。

どうやら首から下は動けない様だ。


「答える義理はありません。では失礼致しします」


そういうと、お嬢様は何事もなかったかの様に歩き出す。


まあ取り敢えず、一件落着。


……かな。


こうして、レイゲン国での波乱の始まりが幕を開けた。

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