第28話 幸運の女神に愛された女

「こい!こい!!」


私の目の前で、数字の刻まれた円盤が勢いよく周る。

その中を銀の玉が躍る様に跳ねた。


「こいぃぃ!!!」


円盤の勢いは次第に弱まっていき。

銀玉は9の数字が刻まれたポケットで動きを止める。


私の……勝ちだ。


「よっしゃああああ!!」


私は右手を力強く天に突き上げ、自らの勝利に歓喜する。


「9ね。はい、飴ちゃん9個」


「飴ちゃんゲットだぜぇ!」


私はおばちゃんから手渡された飴を、迷わず全て包み紙から取り出し口に放り込んだ。口の中に幸せの甘みが広がる。

正にそれは勝利の味だ。


「おまけのルーレットで9引いたからって、よくそこまで喜べるな?」


ルーレットには0から9の数字が並び、出た目の数だけおまけとして飴が貰えるシステムだ。

そこで私は9を引き。


アーリィは――


「じょぶぅんがぁ0らったからって、しっひょはひゃめていひゃひゃきたいわへ(自分が0だったからって、嫉妬は止めて頂きたいわね)」


正に圧倒的な運命力。

運0女は、幸運の女神に愛された私に平伏すがいい。


「何を言ってるのか全く分からん」


「一気に口に放り込む馬鹿がいるか。お前はもう少しマナーを覚えたらどうだ」


「だまりぇ!」


ふん、運1男が私に意見するなど100年早い。

因みに運の数字は、オマケのルーレットで貰った飴の数と連動している。

つまりアーリィとペイルは、仲良くドベとブービーを引き当てたという訳だ。


そんな負け犬共の遠吠えなど、私の心には届かんよ。


「まあいい、用も済んだしもう帰るぞ」


私とペイル、それにアーリィはサンドランナー討伐クエ用の物資の買い出しに――お嬢様は宿について冒険者用衣装にお召し替えをして、そのまま一人で何処かに行ってしまったので3人で――来ていた。


「ふぇいふぇい」


ペイルに一々指図されるのは腹立たしいが、確かに必要な物はほぼ買い揃え終えている。此処は老人の顔を立てて、従ってやるとしよう。


あー、飴ちゃんおいし。


暑い気候のせいか、飴にはほんのりと塩味が混ざっていた。

それが甘さを引き立てていい味してる


私は地面に下ろしていたリュックを背負う。


背負う……せお……あれ!?


「う……ぐぅっ!リュックが無い!?」


口の中に入っている飴を力技で丸呑みし、叫ぶ!

置いておいたリュックが見当たらん!


「それなら子供が持って行ったぞ?」


「は?」


え?

子供が持って行った?

アーリィの言葉に私を目を丸める。


アーリィの指さす方向を見ると、男の子が私のリュックを持って路地裏に入って行くのが見えた。


嘘でしょ!?


ていうか――


「なんでさっさと言わないのよ!」


目の前でパーティーメンバーの荷物が盗まれたってのに、何でこの女はそんなに暢気に構えているのだろうか?

馬鹿なの?


「荷物を運ぶのを怠ける為に雇ったのかと思ったんだが、違ったのか?」


「違うわ!」


確かに。私にはは怠け者の気質がある。

だが私にとって、基本はお金>怠惰なのだ。

以前ならともかく、あの程度の荷物如きに無駄金など使う分けが無い。


アーリィに文句を言いたい所だったが、余り離れすぎると魔力によるソナー感知の外に逃げられてしまう。

とっとと追い駆けないと。


しかし、あのリュックは際限なく物の入るマジックアイテムだ。

買い物して色々突っ込んであるから、軽く50キロは下らない。

子供がよくもそんな物を持って行けたものだと感心する。


まあだからと言って、見逃してやるつもりは更々ない。

私は素早く人込みを抜けて、子供の逃げた路地裏に飛び込むのだった。

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