第26話 レイゲン
「ふぅぅ、やっと着いたぁ~」
目の前に、デカイ門がぱっくりと口を開けている。
ここは私達のいた国、ブルームーン王国の南に位置する小国レイゲンだ。
私達はギルドの依頼を受け、国境を越えてこの国へとやって来ている。
依頼内容は竜退治。
まあ竜と言っても本格的な竜種ではなく、サンドランナーと呼ばれる竜の亜種だ。
こいつは小柄で素早く、砂漠を疾走する魔物で。
最近こいつの増殖によって、この国ではキャラバン等にかなりの被害が出ているらしい。
別に強い魔物では無いのだが。
砂漠を高速で移動するうえ逃げ足が速い為、とにかく退治しづらい魔物だそうだ。
しかも知能が高いため、罠を張って対処する事も難しいらしい。
レイゲン国ではこの厄介者にかなり頭を悩ませており、国内外に向けて討伐を大々的に募る程だった。
当然その依頼は冒険者ギルドにも来ており。私達の破竹の勢いの快進撃を買ったガルザスのギルド長立っての頼みで、私達は此処へとやって来ていた。
サンドランナー一匹につき1万ゴルダ。
正に破格の依頼と言っていい。
実はここに来る途中、サンドランナーを既に10匹ほど狩ってある。
一人頭2万5千ゴルダの計算だ。
まあ私はお小遣いカットの刑により2万ゴルダになってしまうが、それだけあれば十分豪遊できるだろう。
そう思うと、暑さと疲労が綺麗に吹っ飛んで行く。
「よし!今夜は豪遊するぞぉ!」
「さっきまで不満たらたらだったのに、切り替えの早い奴だな」
「それが私の良い所よ!」
アーリィの呆れた様な声に、私は自信満々にバシッと答えた。
刹那に生きる。
それが私の生き様なのだ。
「喉元過ぎれば熱さを忘れる。学習しない奴の典型例だな」
若さとは何か?
それは振り返らない事。
ペイルには私の若さが妬ましくて仕方ないのだろう。
可哀そうだからスルーしておいてあげよう。
私達はつつがなく門を抜け、真っすぐに冒険者ギルドへと向かう。
途中私は街の中をじろじろと観察する。
よその国。
しかも糞熱い砂漠の国に来るのは初めての事だった私には、すべてが物珍しく映る。
街並み自体は石造りが多い点を除けば、ブルームーンとそこまで変わらないかな。
だけど砂漠の国だけあって、皆顔が黒く日焼けしている。
そして全員もれなく、だぼだぼのゆるっとした長袖のローブを着用していた。
「話には聞いて居たけど。本当に長袖なのねぇ」
暑くて乾燥している場所は長袖の方が良いとは聞てはいたが、実際に南の国に来てそれを目の当たりにするとやはり驚かされる。
百聞は一見に如かずっていうしね。
因みに私は半そでのシャツに長ズボン。
ブーツという井出達だ。
一応最初は長袖も試したのだが、ぶっちゃけ半袖の方が涼しかったのでフード付きのジャケットを途中で脱いで砂漠を渡って来た。
日焼けに関しては、魔力を体表で循環させているので問題ないしね。
但し髪は砂でばさばさになってしまったが。
因みにお嬢様は高級な真っ赤なドレスに、その上から白のレースを羽織っている。
その頭部には深紅の薔薇をあしらった唾付きの帽子を優美にかぶり、足元には赤いピンヒール。
まるでこれから社交界に出向かんばかりの姿だ。
彼女はこの格好で砂漠を舞う様に、軽やかに渡って来ている。
しかもその髪や衣服には砂粒一つ付いていない。
相変わらず、意味不明なぐらい人間離れしたお方だ。
アーリィは私と同じような格好をしている。
半袖のシャツにズボン。
そして背には大剣だ。
彼女は魔力を体表に循環させている訳では無いが、どうやら獣人は暑さに強いらしく日焼けも殆どしないそうだ。
彼女の故郷は此処と同じ様に暑い国だそうだが、そこでも半袖で平気で生活していたらしい。
流石獣人。
人間とは体の作りが違う。
ペイルは何時ものブラウンの爺臭い長そでにズボン。
以上。
「しっかし見られてますねぇ」
私やアーリィが半袖だから見られている訳ではない。
当然原因はお嬢様だ。
ド派手な格好をした絶世の美女なのだから、見るなという方が無理があるだろう。
大通りを歩いていると、前方からラクダが数頭近づいて来た――この国は馬の代わりにラクダが乗り物として飼いならされており、馬に変わって商隊や貴族の足として使われている。
ラクダは私達の少し前方で止まったかと思うと、一人の男がラクダから飛び降りて私達の前に歩いてきた。
護衛らしき男達がその男の後に続く。
どうやらそこそこ偉いさんの様だ。
「初めまして。私はレイゲン108家族、序列48位に当たるバラールケの嫡男。バラル・バラールケと申します」
レイゲンは王家を中心に108の貴族が存在していると言う。
この国の貴族には序列と呼ばれる階級が存在しており、数字が若ければ若い程より上位の貴族となっている。
48位だと中よりちょい上といった所だろう。
金回りはなかなか良いようで、身に着けている衣類が上質なのはもとより。
金銀ダイヤで出来た装飾品を首や腕にじゃらじゃら巻き付けている。
はっきり言って、お金を持っている事をアピールするだけの悪趣味極まりない格好だ。
顔は濃い目のイケメンなのだが、格好のせいで全く興味が沸いてこない。
残念イケメンとはこの事。
しかし、この男は一体何の用で私たちに声をかけてきたのだろうか?
普段ならお嬢様への挨拶と判断できるが、あいにく私達は身分を隠しているので、今はただの
貴族が馬車から降りて、私達に挨拶に来る理由はないはずなのだが?
そう思い。
私は軽く首を捻った。
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