第25話 砂漠
「熱い!」
大声で叫んで立ち留まる。
見上げると、焼ける様な日差しが辺りにさんさんと降り注いでいた。
そう、今は夏真っ盛り。
「どうしたんだ?」
アーリィが不思議そうに聞いてくる。
どうしたんだじゃないわよ。
なんであんたそんなにケロッとした顔をしてんのよ。
こんな糞熱い季節の、糞熱い場所を走ってるって言うのに。
視線をぐるりと一周させる。
辺り一面を覆う砂粒がキラキラと光を照り返し、黄金色に輝いていた。
そう、ここは砂漠のど真ん中。
真夏に砂漠、正に生き地獄と言っていい環境だ。
にも拘らず、アーリィはケロッとしている。
いや、まあこいつはいい。
問題は――
「なんでお嬢様は、そんなに涼しげなんですかぁ~」
体力馬鹿のアーリィがピンピンしているのは分からなくもない。
但し、そんな彼女でも汗位はかいている。
だがお嬢様は本当に涼し気な表情で、汗一つかいていなかった。
この人本当に人間か?
「この程度で音を上げている様じゃ、私の従者失格よ。ね、ペイル」
「ええ全くです。お嬢様」
お嬢様に問われてペイルが偉そうに返事する。
だがその顔からは汗が滝の様に流れ、それがやせ我慢だと言うのがバレバレだった。
きついならきついって言えばいいのに。
これだから頑固な老人は困る。
「お嬢様!日焼けは女の大敵です!せめて魔法で雨雲を出して、日差しを遮りましょう!」
せめて日陰なら頑張れる。
そんな思いから、適当な理由を付けて私はお嬢様に天候の変更を願い出た。
実際問題、体表に魔力を循環しているので紫外線による日焼けは全く大丈夫なのだが、他に理由が思い浮かばないので気づかない振りをして訴えかけておく。
駄目元という奴だ
……ていうか、何でこんなくそ熱い砂漠の中を走らにゃならんのだ?
目的地に向かう為の砂漠越えは仕方ないにしても、こんな足場の悪い場所をこの気温で走るとか。常軌を逸しているとしか思えない。
「まったく、堪え性の無い子ね」
お嬢様は大きく溜息を吐くが、こんな拷問の様な状況に耐える堪え性など糞くらえだ。
私は真夏の砂漠を走り込むために、大賢者になった訳では無い。
「しょうがないわね。但し曇だけになさい。雨は駄目よ」
「らじゃ!」
ひょっほう!久しぶりに私の願いが通じたじぇ!
私は小躍りしたい気分をグッと堪え、両手を天に向かって広げて魔法を発動させる。
「
無詠唱だと大量に魔力を喰ってしまうが関係ない。
今の私は一刻も早く、この全てを焼き尽くす熱線から解放されたいのだ。
巨大な魔法陣が空を覆い。
見る見るうちに厚い雨雲が日差しを遮り出す。
ゆがて雲は天空全てを覆い尽くし、辺りを灰色に染め上げた。
「おお、凄いな」
空を見上げ、アーリィが感嘆の声を上げる。
そう、それが普通の反応!
そして彼女の言う通り、私は凄いのだ!
これぞ大賢者パワーよ!
「私は雲だけと言ったはずだけど?」
「風はサービスです!」
さり気無く気圧もコントロールして風を発生させたのだが、どうやらバレてしまった様だ。流石お嬢様。
でも風があった方が涼しいし、別にいいっしょ?
「小遣いカットね」
「しょんなばかな!!!」
魂の叫びが砂漠に轟く。
私は只快適に過ごしたかっただけなのに、世の中はなんと理不尽なのだろうか。
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