第21話 沙汰

「ミア。彼女の回復をしてあげて」


そう言われて「え?」となる。

折角苦労して倒したのに、回復させたら私の苦労が無駄になってしまうのだが。


「貴方の怪我も一緒に回復していいわよ」


「ラジャ!」


さっきからほっぺが痛くて仕方が無かったのだ。

顔は女の命。

さっさと治そう。


私はまず自分の顔面から回復させる。

当たり前だよね。

そして鏡でチェックして異常がないか確かめた。


よし、いつも通りの美人だ!


次いで獣人の女――アーリィに近づき、そのダメージを魔法で回復させてやった。


「何のつもりだ……」


「お嬢様の命令だからよ」


何か考えがあるのだろう。

少々危険な気もするが、まあ仮に暴れだしたら今度こそお嬢様がぼこぼこにしてくれる事だろう。


「話しなさい。貴方が何故こんな連中と行動していたのかを」


こんな連中と言うのは、そこらに散らばっている11人分の元人間の事だ。

髭ももう拷問を済ませ昇天済みである。


転がってるオブジェがグロイし血生臭いしで、さっさとこの場を立ち去りたい気分。

もしここに何も知らない冒険者がやってきたら、絶対悲鳴を上げるだろうな。


「殺せ……」


「良いから話しなさい」


「私は獣人……それが理由だ」


この世界の覇権は人間のものだ。

亜人である彼女にとって、暮らし辛い世界ではあるだろう。

だが――


「いやいやいや!そんなもん暗殺者になる理由にはならないでしょ!」


獣人の一言で話を完結させようとしたので、私はつい口を挟んでしまった。


獣人は確かに差別されている。

それは間違いない

人の街に住むには審査が厳しかったり、街の出入りでもチェックが厳しいなどだ。


他にもこまごまとした物は幾つかある。

ペット禁止の場所には出入りを禁止されているとか。

散髪禁止とか。

あとは公衆浴場を断られるとかもだ。

だから確かに色々と不便だとは思う。


とは言え。

だから獣人は暗殺者になる、が成り立つ程の迫害を受けている訳ではない筈。

昔はともかく、今は何処の国もその辺りはある程度法整備されているのだから。


普通に考えたら他に理由がある筈だ。

それこそ、人を切りたくて仕方なかったでござるって理由の方が納得がいくというもの。


「貴方の首に賞金が掛かっているのは知っています。全てお話しなさい」


「え!?こいつ賞金首なんですか?」


通常は犯罪を犯して指名手配される事はあっても、その首に懸賞金が掛かる事はまずない。

賞金は、国を揺るがすような罪を犯した大罪人に国が掛けるか。

高位の貴族を手にかけた者が、その親類に掛けられてしまうのが基本だ。


女はお嬢様の言葉を聞き、観念したのぽつりぽつりと自分の身の上を語り出した。


「私は南にあるサベーツ国の生まれだ」


聞いた事の無い国だ。

たぶん小さな国なのだろう。


「その国にある、獣人達の小さな集落で私達はひっそりと生活をしていた」


そのままひっそり暮らしとけよ。

態々よその国まで来て暗殺に精出すな。


とか一瞬思ったが。

余計な事は口にせず、私は黙って彼女の話に耳を傾けた。

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