第18話 無双
3体のバジリスク。
1体をルークが切り捨て、ハンスが足止めしているうちにパフュームが2体を魔法で屠る。
中々良い連携だ。
一人一人の腕も超がつく程ではないが、他の仕事でも十分通用していける実力といえる。正直何故彼らが冒険者をやっているのか分からない。
これだけ戦えるのなら、引く手数多だろうに。
「冒険者と言えど、1級までくれば馬鹿にできないものよ。少しは見る目が変わったかしら?」
どうやらお嬢様はその事を私に伝える為に、あえて彼らと共同で依頼を受けた様だ。まあ能力面は多少評価するが、冒険者が社会の底辺である事に変わりはない。
お嬢様には悪いが、私が彼等へと向ける感情に大きな変化はなかった。
「はぁ……まあ……」
まあそれをはっきり口にする気も無いので、曖昧に返事を返しておく。
大人の対応って奴だ。
「無駄だったみたいね。まあいいわ」
お嬢様は小さく溜息を吐いて、帰って来たルーク達に声をかける。
「見事な連携でした。今度は此方の力をお見せする番ですね」
そう宣言するとお嬢様は上空を見上げ、息を吸って大きく吐き出す。
「!?」
何をやったのか分からない。
分からないが……間違いなくお嬢様は今、何かやった。
それだけはわかる。
「お嬢さん達の力をかい?別に無理しなくていいんだぜ。バジ――」
「お気遣いありがとうございます。ですが私達も腕には自信がありますので、残りのバジリスクは私達の方で始末してみせます」
ハンスの言葉をお嬢様が遮って宣言する。
ここまでは戦闘を彼らに任せる様に言われていた。
どうやらここから解禁の様だ。
「そんな無茶な……」
2級のお前達には無理だという感情が浮かんでいるのが、その目からありありと見て取れた。
確かに只の2級冒険者なら、一匹相手でもきついのかもしれない。
だが私達は違う。
私達は全員大賢者だ。
魔法を縛っていても、これぐらい全く問題ない。
「私達なら問題ない。それよりも貴方達は巻き込まれない様、じっとしておく事だ」
巻き込まれない様……そのペイルの言葉の意味をあたしは理解する。
森がざわついているのだ。
明かに先程迄とは違う。
森の中に満ちる殺気。
それと無数の気配。
そこでお嬢様がさっき何をしたのか察する。
集めたのだ。
探すのが面倒だから。
森の中にいる全てのバジリスクを。
まったくお嬢様は面妖な技を使ってくれるものだ。
「巻き込まれないって、何を言って……」
「ひっ」
ペイルの言葉に疑問を投げかけようとするパフューム。
その言葉を遮るかのように、ハンスが悲鳴を上げる。
どうやら彼も気づいた様だ。
「ま、不味いぞ!?囲まれてる!!とんでもない数だ!!」
「何だって?何にだ!?」
「バジリスクだよ!!10匹以上はいる!こんな数に襲われたら一溜まりも無いぞ!!」
見ると目の端に涙が浮かんでいる。
まあノンアクだと安心しきっていたバジリスクが、殺気を放って此方へ大挙してきているのだ。それもまあ無理無いだろう。
「嘘だろ……」
「皆さん。大人しくしててくださいね。動き回られると。守るのが面倒何で」
取り敢えず、動かれると邪魔くさいので釘をさしておく。
私は肩を左右に振って鳴らし、魔力を全身に循環させる。
準備オッケーだ。
どんとこい。
「ひぃぃぃぃ」
森の木々の隙間から、無数のバジリスク達が姿を現した。
その様を見てハンスが情けなく悲鳴を上げる。
五月蠅いわね、まったく。
「行きますよ」
お嬢様が光の速さで飛び出した。
森の木々を足場に縦横無尽に飛び回り、その手刀が軌道を描く度にバジリスク達の首が飛んでいく。
流石お嬢様。
芸術的な動きだ。
私も負けていられない。
手近なバジリスクへと突っ込み、その頭部を拳で粉砕する。
まずは一匹目!
ペイルの方を見ると、彼はルーク達の側で静かに構えているが見えた。
どうやら彼らを守る役を買って出た様だ。
流石腐っても元執事長だ。
細かいケアに抜かりない。
ルーク達は放っておいても大丈夫そうなので、私は目の前の敵に集中する。
とは言っても、戦いはほんの1分足らずで終わってしまった分けだが……
お嬢様がえぐ過ぎる。
30匹近くいたバジリスクの8割を持って行かれてしまった。
ホント規格外だ。
この人は。
「は、ははは……あんたら何者だ?」
ハンスが尻もちを付いて、乾いた笑いと共に当然の疑問を投げかけてきた。
「冒険者ですよ。多少は腕がたつだけの」
「多少って……正直、君達みたいな規格外の強さを見たのは初めてだよ」
そりゃそうだろう。
私はともかく、お嬢様レベルの人間なんて世の中そうそう転がってはいない。
見た事があるってんなら、何処で見たのか教えて欲しいぐらいだ。
「貴方達もまだまだ伸びるはずです。現状に慢心せず、努力を続けていればいつかきっと実を結ぶはずですよ」
お嬢様がこういったのだ。
きっと彼らにはまだまだ伸びしろがあるのだろう。
見所の無い人間にアドバイスする程、お嬢様は甘くはないからね。
「そ、そうですか。精進します」
「私達は先に失礼しますので、申し訳ないのですが牙の回収をお願いしても宜しいですか?」
「え、ええ。分かりました」
お嬢様ナイス!
バジリスクの討伐はその牙を持ち帰って証明する事に成っている。
正直涎が付いて気持ち悪い作業なのだが、それをどさくさ紛れて見事に相手に押し付けた。
流石はお嬢様だ。
因みにバジリスクの呪いは死ぬと効果が消える仕様だ。
その為、死後の唾液に触れても問題無かったりする。
でないと牙回収とか、普通の冒険者じゃ危なっかしくてやってられないからね。
こうしてガルザスでの初クエストを私達は終え。
当然今回の無双っぷりは数日で噂になり、それ以降2級にも拘らず1級の仕事を問題なく請け負えるようになった。
どうやらお嬢様の狙いはこれだった様だ。
お嬢様恐るべし。
でも身分を隠しての旅なのに、こんなに目立っていいのだろうか?
そう疑問に思わなくも無いが、まあ冒険者限定の知名度だし問題無いのだろう。
私達の冒険者ランク上げは順調に続く。
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