第16話 大型クエスト
私達は今、森の中をえっちらおっちら進んでいた。
普段の私達に比べれば、この行軍は超がつく程の鈍行に等しい。
理由は至って単純。
今の私達には同行者がいるからだ。
1級冒険者の肩書を持つ同行者が。
事は2日前に遡る。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「この緊急クエストの、バジリスク討伐を受けたいんですが」
城塞都市ガルザスは大きな街だ。
冒険者ギルドもそれに比例してか大きく、清潔感があった。
必然的に、そこに居る冒険者の質も高くなる。
間違っても依然絡んできたモヒカンの様な輩は居ない。
同じ冒険者ギルドだというのに、まったく偉い違いだ。
一瞬やるじゃんと感心したが。
よくよく考えたら前の所が酷かっただけで、本来こっちが普通なのだ。
底を見せてからましな部分を見せて印象を操作する。
そんな安い手に危うく騙される所だった。
「申し訳ありません。其方は1級以上の方への御依頼となっておりますので」
げ、本当だ。
報酬が良かったから何も考えず受けようとしたが、確かに下の方に小さく要1級と書いてあった。
もっとでかでかと書いてよね。
紛らわしい。
ま、私が勝手に見落としただけなんだけどね。
心の中で悪態吐くぐらい構わないでしょ。
今回は口にも出していないし、オールオッケーよ。
「あれ?君は確か……」
諦めてカウンターから離れようとすると、後ろにいた男性と目が合う。
彼だ。
昨日役人に睨みを利かしてくれたイケメンの。
「あなたは……衛兵さんですよね?」
なんで衛兵をしていた彼がこんば場所に?
そう思い尋ねた。
何か事件だろうか?
「ああ、いや。先日のあれは只のバイトで、
ええー。
冒険者なんかやってるのかぁ。
イケメンなのに勿体ない。
密かに再会を期待してはいたが、冒険者では話にならない。
私のワクワクを返せ!
て言うか、門番をバイトの冒険者に任せるとか、この街の治安は大丈夫かと色々心配になってくる。
「そ、そうなんですか?じゃあ私はこれで」
イケメンであろうと
そそくさとその場を去ろうとすると、手にしていた依頼書を目ざとく見つけた彼が私を呼び止める。
「ひょっとして、その依頼を受けるのかい?」
「え、ええ。でも私達2級だから受けられないみたいで。だから返してこようと」
「そうなのかい?実は僕達もそのクエストを受けようと思ってたんだけど、先を越されたからみたいだから諦めて別のクエストを受けようとしていたんだ。もしよかったら、僕達と一緒にそのクエストを受けないか?報酬は折半って事で」
「え!?」
彼の思わぬ提案に、思わず声を上げる。
1級と2級で折半などあり得ない。
本来なら破格の提案なのだろう。
だが正直他の人間がいても、私達にとっては足手纏いにしかならない。
善意は買うが、ハッキリ言って有難迷惑だ。
此処は丁寧にお断りさせて貰うとしよう。
「是非お願いしますわ」
「へっ?」
私のお断りの言葉より早く、鈴の音が転がる様な美しい響きが返事を返す。
みると、いつの間にか私達の直ぐ傍にお嬢様がやって来ていた。
「お、おじょ……あ、いや。いいの?ローズ?」
この旅の間中、私は人前ではお嬢様の事をローズと呼ぶ事になっている。
お嬢様や、本名よみでは身分が直ぐにばれてしまいかねないからだ。
当然人前では敬語も無しだ。
っていうか何で?
普通に考えればお断り一択の話だというのに、お嬢様の考えている事がよく分からない。
「ええ、1級の方とご一緒できる機会なんて少ないでしょうから。しかも条件的には破格なのだから、断る理由はないでしょう?よろしくお願いします」
そういうとお嬢様はにっこりと微笑んで、例の彼へと右手を伸ばす。
おずおずと躊躇いながら彼はその手を握る。
見ると顔は真っ赤だ。
まあお嬢様クラスの美女は世界に何人もいない。
そんな相手の手を冒険者如きが握ったのだ。
舞い上がるのも無理はないだろう。
「あ、ああ。宜しくたのむよ」
こうして私達は彼――ルーク――のパーティーと組んでバジリスク退治へと向かう事になる。
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