第15話 城塞都市

城塞都市ガルザスはその名の通り、まるで巨大な砦の様な景観をしている。

此処は昔隣国と戦争をしていた時に作られた、戦いの要となった場所らしい。

そのため外壁は高く堅牢にできている。


まあ私の魔法なら一発で風穴開けられるけどね。


魔法無しの拳だとどうだろうか?

お嬢様なら笑顔でやってのけそうだけど、流石に私では少し無理があるか。

まあそんな事はどうでもいい。


今私達は出入りの審査待ちだった。

もう戦争なんてとっくに終わってるというのに、街への出入りは厳重なチェックが行われている。

全くビビり過ぎよね。


「長いですねぇ……」


私はちらりと正門の隣にある大きな通路へと目をやる。

そっちはお貴族様や、金を持っている商人専用となっていた。

この国屈指の名門貴族であるミャウハーゼン家御一行なのだから、本来私達もそちらの通路を使う筈なのだが。


悲しいかな。

今の私達は身分を隠しているため、ただの一冒険者に過ぎない。

そのため黙って待つしかなかった。

あーだる。


「やっと順番が回ってきましたね」


待つ事一時間。

やっと私達の順番が回って来た。

此処の木っ端役人共は仕事が遅すぎる。

私が上司なら今頃全員首にして、スムーズな形態に生まれ変わっていた事だろう。


「冒険者か……」


下卑た顔の役人が、お嬢様を舐める様に値踏みする。

キモッ。


「惜しいねぇ。冒険者なんかより、あんたなら他の仕事に就いた方が稼ぎたい放題だろうに」


余りの不快な発言に一瞬ぶん殴ってやろうかとも思ったが、ここで騒ぎを起こすのは不味い。仕方ないので心の中で100回ぶちのめすだけに留めておいた。


ちらりとお嬢様を見ると、何事も無い様に無視している。

流石お嬢様だ。


「何か隠していないだろうな?」


役人が下卑た厭らしい顔でお嬢様に手を伸ばす。

明かにその手はお嬢様のたわわに実った果実へと向けられていた。

たぶん振りだけだろうとは思うが、万一触れそうになったらこいつを殺すとしよう。

きっとお嬢様も許してくれる筈だ。


マジで殺しても良いよね?


「ゲインズ!」


「う、只の冗談だ。マジになんなよ」


流石にその行動を見かねたのか、長身の兵士がその腕を止めた。

役人――ゲインズ通称Gと呼称しよう――は顔色を変えて、言い訳をする。

どうやらかなりヘタレの様だ。


下品な上にヘタレとか、男として終わってるわね。

しかし――


長身の彼は結構イケメンね。

結構好みのタイプだわ。


「ああ、いや。そう言うのは困ります」


急に彼が照れた様に顔を背ける。

どうやらまた独り言を口走っていた様だ。

私も気恥ずかしさから顔を背ける。

いらぬ恥をかいてしまった。


何とかしてこの癖を直さないと。

旅の恥はかき捨てなんて言うけれど、流石に垂れ流しはきつい。


「ちっ、オーケーだ。言っていいぞ」


職務中に舌打ちとか。

何処まで腐ってるんだかこの男は。


まあとにかくオーケーが出たので、私達は大手を振って街へと踏み込んだ。

門を抜けた所でちらりと私は後ろを振り返る。


また会えるかな?


イケメンとの出会いは貴重だ。

訓練時代や、ミャウハーゼン家で内勤していたころは碌な男が居なかった。

そのため、私はこの歳まで恋愛のれの字も無かったのだ。


そう!

私は乾いていた!

恋愛という潤いに!


折角の旅。

開放的な外の世界。

目指すしかない!ラブロマンスを!


けどその前に、私にはすべきことがある。

それは――


「お嬢様!お腹が空きました!早くお昼が食べたいです!」


人は恋愛などしなくとも生きていける。

だが食事をしなければ生物は生きてはいけない。


つまり、色気より食い気だ!

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