第13話 ペナルティ

「お嬢様!お待たせしました!」


必要な素材をすべて手に入れ終えた私は、洞窟の外へと勢いよく飛び出した。

外で待つお嬢様の前に、片膝を付くかの様なお辞儀っぽい形で華麗に着地。

その状態から顔を上げ、報告を元気よく行う。


とにかく元気に。

勢いよく。

全てを吹き飛ばすかの如く。


そう、私のミスを吹き飛ばすのだ!!


「30秒オーバーね」


駄目だった。


「さて、ペナルティーは何がいいかしら」


高々30秒オーバーくらい、大目に見て欲しいものだ。

しかし諦めるのは早い。

洞窟ダンジョン内では想定外の人助けトラブルに見舞われたのだ。

その辺りを是非とも考慮して頂くべく、陳情つかまつろう。


「ある程度のトラブルも考慮した上での制限時間だもの。お目こぼしは無しよ」


お嬢様は私の考えを先回りして駄目出ししてくる。

相変わらず超能力張りの勘の冴えだ。


「さて、ペナルティは決まったわ。小遣いカットよ」


「えええぇぇぇぇぇ!?それは後生です!お嬢様!」


私はお嬢様の従者として、相当な額の給与を与えられていた。

何せミャウハーゼン家はこの国の名門中の名門にあたる。

そこに仕える者への報酬は、当然末端であってもウハウハレベルだ。


私はその半分を実家に仕送りしているのだが、残り半分だけでも生活には全く困らない。

それ所か、一般家庭より遥かに贅沢できる程のお金がある……のだが。


ここで第2の制限しばりが私を苦しめる。

それはこの旅の間、支払われた給与には一切手を付けてはいけないというものだ。まあ流石に家への仕送りは別だが。


とにかく、これが厄介だった。

基本の旅費はお嬢様が出してくれるので、取り敢えず生活には困らない。

だが折角の旅だ。

色々買い食いしたり、お土産等を買いたいと思うのが人情。


だがそれら個人的消費への支払いは、第2の縛りにより全て冒険者報酬おこづかいで賄わなければならなくなってしまっている。

その為、今の私は金欠状態だ。


はっきり言って、冒険者の報酬はしょぼかった。

セレブの私が満足できるような額には程遠い。

その現状でも不満たらたらなのに、そこから更にカットなど正に地獄。


私はその場に跪き、両手を合わせて涙目でお嬢様に懇願する。

贅沢したいと。


「お嬢様!私がお嬢様に仕えるのは、ぶっちゃけお金の為なんです!この旅を少しでも楽しみたいんです!だから小遣いカットだけは勘弁して下さい!」


お嬢様に隠し事は出来ない。

ならば全てを曝け出し、己が魂の叫びをぶつけるのみ!


届け!

我が願い!


「駄目よ」


駄目だった。

神も仏も無いとは正にこの事だ。


だが諦めきるのはまだ早い。

此処からはカット率の勝負だ。

この交渉に私の生活ぜいたくが懸かっている。


いざ尋常に勝負!


「人助けをしたんだから5%ぐらいで勘弁して下さい」


私の言葉にお嬢様は黙って首を横に振る。

まあこれは想定の範囲内。

最初大股で踏み込み、後で譲歩する。

それは交渉の基本だ。


「ぬぅぅ……だ、だったら15%で……」


この程度なら、頑張って冒険者として働けば挽回できる率だ。

私は、私の予定ライフスタイルを貫きたい。

お願い!首を縦に振って!!


「駄目よ。小遣いは99%カットよ。でも人助けを考慮して、95%にしておいてあげるわ」


お嬢様の天使の様な悪魔な笑顔。

彼女の言葉を脳が拒否して、私はその場で気を失った。

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