第11話 ソロダンジョン

「此処ね」


目の前にぽっかりと口を開けた洞窟ダンジョンを前に、お嬢様が仁王立ちで呟く。


私達は今、冒険者としてのランクを上げるためにクエストに勤しんでいた。

冒険者は基本底辺なわけだが。

その中でも最下層の3級では余りにもあれだという事で、少しはランクを上げておこうという事になったのだ。


この洞窟へも、特殊な魔物の素材を手に入れる為にやって来ていた。


「別に走らなくても良かったんでは?期限は1週間でしたし……」


ここへは走って来ていた。

徒歩だと本来片道2日程かかる道のりだが、馬より速く走れる私達はこの洞窟のある山の中腹に約3時間弱で辿り着いていた。

別に早く終わらせてもボーナスなど出ない以上、特段急ぐ必要など無い筈なのだが。


「早く終わらせればその分早く次のクエストへと移れるでしょう?一か所に長居する意味はないもの。さっさと等級を上げてしまいましょう」


成程、と納得する。

私としてはゆっくり観光していくぐらいが丁度良いのだが、お嬢様はどうやらさっさと旅を続けたい様だ。


「じゃあ私はここで待っているから。30分以内に終わらせて来るように」


「え!?」


お嬢様の言葉に思わず疑問符の声を上げる。


「あの?言っている意味がよく分からないんですが」


30分はまあ別に構わない。

魔力の反射で魔物の位置は大体特定できるだろうから。

時間的にはそれ程無理のある物ではない。


問題は――私一人で行かなければいかないという点だ。


「私、暗くてじめじめした所は嫌いなの。だからいってらっしゃい」


お嬢様は目も眩むような眩しい笑顔で手を振って来る。

ダンジョンに入らないなら、この人何しにここ迄走って来たんだ?


「もちろん。貴方がずるをしない様、見張る為よ」


「ええ!?」


心を読まれたのか。

私の疑問がズバンと直球で返って来た。


「だって貴方、ずるして魔法を使うでしょ?」


「つ!使いませんよ!」


もちろん使います。。

ええ、当然。


因みにペイルは別の仕事でこの場にはいない。

つまりお嬢様さえいなければ不正し放題だった訳だが……全く、もう少し信用して欲しいものだ。


「さ、いってらっしゃい」


「はーい」


しょうがない。

でも私もこんな暗くてじめじめした所、あんまり一人では入りたくないんだけどなぁ。

こんな事なら、こっちのクエストはペイルに押し付ければよかった。


使えないちびっ子だわ、全く。


渋々と洞窟へと入る。

中はひんやりと涼しく、そしてカビ臭かった。

足場もかなり悪い。


まあ身体強化してるから足場の悪さは全く問題ないが、臭いだけはどうにもならない。

魔法を使いたくて仕方がないのだが、振り返ると同時にお嬢様の声が洞窟の外から飛んでくる。


「魔法を使ったらペナルティよ」


むうぅぅぅ。


私は唸る。

この距離では魔法を使えば絶対バレてしまうだろう。

観念した私は大きく溜息を吐き、洞窟の奥へと進むのだった。

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