第10話 ぼこぼこ

「やめろ!ポチを離せ!」


「そうよ!ポチを離しなさいよ」


「こいつは俺の捕まえた獲物だ。ガキに指図される謂れはねぇ!どっか行きやがれ糞ガキ共」


男は太い腕を振って子供達を追い払う。

その右手にはぐったりとしてやせ細った犬が握られていた。


「違うわ!ポチは僕達が飼ってたんだ!」


「は!何が飼ってただ!こいつはいつも外でふらふらしてたじゃねぇか!」


男の言う通り、ポチと呼ばれた犬はいつも通りをフラフラとうろついていた。

明かに野良犬だ。


「そ、それは……」


「僕達の家じゃ飼えないから……」


「でもちゃんと餌は上げてたわ!」


「こんなやせっぽっちでか?笑わせるな!」


私達はいつもポチに餌を上げていた。

だが家がそれほど裕福ではない為、皆で持ち寄っても与えられる量は少なく。

ポチはいつも腹を空かせてやせ細っていた。


確かに不十分だったのは認める。

きちんと餌を与えられなかった事。

住む家を与えてやれなかった事。


だが――だからと言って真面に働きもせず、路銀が尽きたからといって私達のポチを捕まえて食べる等という暴挙、絶対に許される筈がない。

しかし、無力な子供であった私達にはどうする事も出来なかった。


結局ポチは男に無理やり連れていかれてしまい。

2度と私達の前に姿を見せる事はなかった。


それが悔しくて、悲しくて。

その日から、私は冒険者なる社会のゴミ共を嫌うようになったのだ。


冒険者死すべし。


「よう、さっきはずいぶん恥を書かせてくれたじゃねぇか」


先程ギルドで絡んできたモヒカンの男が私の前に立ちふさがる。

その周りに、人相の悪い男共が数人。

どうやら私の後を付けて来ていた様だ。


ま、気づいててわざとこの人目のない路地裏に誘導したんだけどね。


「冒険者みたいなゴミに、恥を感じる知性が備わっているなんて驚きね」


「おいおい姉ちゃん。状況が見えてないのかい?あんたこれから酷い目に合うんだぜ、ひひひ」


モヒカンのすぐ隣の、逆モヒカンの様な落ち武者頭がナイフを舐めながら気持ち悪い笑い声を上げる。

こいつは鉄分でも足りないのだろうか?

そんなにナイフの味が好きなら舌に刺しておけばいいのに。


魔力を全身から薄く放射した。

私の放った魔力は他人の魔力に反応する。


その反応から、辺りに人がいない事は確認できた。


これで遠慮なくこいつらをぶち殺せるというものだ。

まあ本当に殺すわけではないのだが、半殺しにする所を誰かに見られると通報されて厄介なので、念の為にね。


因みにペイルとはあの後分かれて別行動している。

彼には宿に帰ったお嬢様――待ち時間があると分かった瞬間一人で宿に帰ってしまっていた――の元へ先に返って貰い。

私は後を付けて来たこいつらを此処へ誘い込み、今に至るという訳だ。


「おいおい、怖くて声も出ねーんじゃねぇの?」


「安心しな、お嬢ちゃん。大人しくしてりゃ痛い目には合わせたりしね――」


蛙面の、禿男の顔面に私の拳が炸裂する。

喰らった男は潰れた鼻から血を飛ばし、白目をむいてあおむけに倒れた。

まずは一匹目。


「てめぇ!ふざ――ぎゃあああぐぁ」


激高した髭達磨の男の足をローキックでへし折り、叫び声が五月蠅かったのでそのまま顎を砕いておねんねさせる。

この時点で、二人目の男に比べて一人目の男に対するお仕置きが緩かったなと反省し、倒れている男に徐に近づいてその腕の骨を踏み抜いた。


蹴り折った時はそうでもなかったが、踏み折るのって音も感触も最悪だわ。


「ひぃぃぃぃ」


2人が瞬く間にやられ戦意喪失したのか、ナイフ大好き男とモヒカンが悲鳴を上げてその場から逃げようとする。

その姿を見て、私はあきれ果てた。

仲間を見捨てて逃げるとか、本当に最低の奴らだ。


もちろん、そんな奴らを逃がしはしない。


素早く相手の脇を通って追い越し、前に回り込む。

まずはモヒカンの両足と顎を、次いで逆モヒカンの両手と顎をへし折ってやった。

仲間を見捨てようとした彼等には、骨一本分サービスだ。


「ったく、口ほどにもない」


所詮社会の底辺である冒険者などこの程度だ。

私はゴミ共を残してさっさとその場を立ち去った。

一応死なれては寝覚めが悪いので、途中街の衛兵に怪我人が倒れていたと伝えておいてやる。


我ながら本当に優しいわ。

きっとお嬢様ならこんなものでは済まなかっただろう。

相手したのが私で良かったと、精々神様に感謝する事ね。


しかし冒険者共をボコったお陰で気分は晴れた。

上機嫌になった私は、夕暮れの路地をスキップしながら宿に向かうのだった。

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