聖剣エクスカリバーはけして作ってはいけない
ちびまるフォイ
武器屋さんは本気を出さない
「お父さんはどうして"泥の剣"ばかり作るの?」
「それはね、お前にご飯を食べさせるためだよ」
「でもお父さんは家の包丁をもっといい素材で作れるじゃない。
どうして売り物の武器はしょぼくつくるの?」
「お前にご飯を食べさせるためだよ」
「……?」
子供の頃から父親と上手く話せていなかった息子は、
やがて親子の溝が深まって武器屋のたもとを分かつことになった。
「なんで俺が泥の剣を作らなくちゃいけないんだ!!」
「それが商売なんだよ、黙って従え」
「俺はオヤジとは違う! 世界一の武器を作れる男なんだ!!」
「お前はまだなにもわかっていないだけだ!
エクスカリバーを作るなど夢物語をいつまでも信じているから!」
「向上心のないオヤジに従うくらいなら、こんな店出てってやる!」
世界最強とされた伝説上の剣「エクスカリバー」を作るべく、
息子はひとりで新しい武器屋を始めることにした。
息子は父親の店ではできなかった最強を追い求めるための修行を続けた。
「俺はもっとできる男なんだ。
あんな劣悪な泥の剣を作り続けてたら腕がさびちまう」
息子の腕はたしかだった。
出来上がった剣はこわれにくく切れ味も良かった。
新しく作った武器はまたたくまに大人気となり、息子の武器屋には行列が並んだ。
「こっちに剣をくれ!」
「もっともっと武器をくれ!」
息子は父親の店では成し得なかった大量のお金をあっという間に手にした。
「やった! やったぞ! やっぱり俺の選択は間違っていなかった!」
息子は手にした財産をため込むでもなく、散財するでもなく。
次なる最強の剣の開発のために投資した。
「もっと強い武器を作れば、もっともっとエクスカリバーに近づけるはず……!」
良い鉱石を手に、最高級の道具で、大量の人材を駆使して究極の剣を求めた。
息子の武器屋は新しい剣を出すごとに売れたものの、徐々に売上は減っていった。
「おかしいな。前より性能のいい剣を売っているはずなのに、
どうして最初よりも売れないんだ……」
原因をさぐるべく息子は街の様子を見に行った。
そこには自分の与えた高性能な武器で魔物をやすやすと狩っている村人たちがいた。
「あの、その剣よりもいい武器が売っていますよ。どうして買わないんですか?」
「え? そりゃ別にこれで魔物倒せているしね」
「でも、もっと安全に倒せるようになりますよ」
「ははは。そしたら戦いの楽しみがなくなっちゃうじゃないか」
村人は息子の作った頑丈な剣を楽しそうに振っていた。
「そういうことか……いい武器をたくさん売ってしまうと、
もうみんな新しい武器が必要なくなってしまうのか……」
息子は数日後に店をたたんで、今度はまだ武器屋がない地域へと出店した。
「いらっしゃいいらっしゃい。うちの武器はとっても性能がいいよ。
ただし、1日先着10本までだ。さあ買った買った!」
新しく出店した武器屋では、最強の剣が何本も出回らないようにセーブして販売を始めた。
武器の性能の高さもあって武器屋は大人気となった。
「売上は前よりも落ち着けど、これなら長いスパンで武器を売り続けることができるぞ」
以前では強い武器がみんなの手に行き届きすぎて需要がなくなってしまった。
今度は大丈夫だろうと息子は安心していた。
けれど、今回もじょじょに武器屋に足を運ぶ人が減っていった。
「変だなぁ……なんで売れないんだろう」
店で待っていても客が来ないので、息子はわざわざダンジョンへ出張販売しに行った。
ダンジョンで見たのは自分の武器を振り回している魔物だった。
「うそだろ……」
おそらく冒険者から奪ったであろう最高級の剣を振り回し、
迎え撃つ冒険者たちをめった切りにしていた。
悪いことに冒険者が手にしているのは、魔物よりも性能の低い武器。
かち合えばどっちに軍配があがるかはあきらか。
「おい! どうしていい武器を持っていかないんだ!?」
瀕死の冒険者に息子は問いただした。
「手に入らねぇからしょうがないだろ!
それにこっちは冒険に出なくちゃ稼げないんだ!」
息子はどうして客が来なくなったのかを悟った。
ただでさえ流通量が少ない強い武器を魔物が手にしてしまったので、
劣悪な武器しか持っていない冒険者は一網打尽にされてしまった。
だから武器を必要とする人そのものが減ってしまった。
息子の武器屋はどんどん売上が下がっていってしまった。
武器屋を続けていくには最高級の鍛冶台も炉も手放し、高品質な鉱石も諦めるしかなかった。
せいぜい今作れるのはすぐに壊れる"泥の剣"だけだった。
「くそぉ……これじゃエクスカリバーなんて作れない。オヤジと一緒じゃないか……」
父親がなぜ泥の剣しか作っていなかったのか。
すぐに壊れて買い換える必要のあるものを作り続けることで、
常に一定の売上を出せるようにしていたことを理解してしまった。
それが嫌で家を出てきたというのに……。
そこにひとりの男がやってきた。
かつて装飾品や工芸品を作っていた職人だった。
「あのう、ここでバイトってやっていますか」
「バイト? ああ、でもうちの武器は売れないからお金はそんなに出せないよ」
「うちの装飾品もそれは同じです。これ一本じゃやっていけなくて……」
「あんた装飾品の店をやっているのか?」
「ええ、でも冒険者なんか装飾品や工芸品なんか買ってくれなくて困っているんですよ」
「ちょっと力を貸してくれないか!」
武器屋は装飾品と協力して新しい武器を作った。
するとまたたく間に店は大繁盛となった。
「大成功だ! あんたのおかげだよ! ありがとう!」
「こちらこそ、私も力になれて光栄です!!」
息子の武器屋で作られた新製品「エクスカリバー」は大人気の商品となった。
きらびやかで豪華な装飾の施された剣は見るからに強そう。
中身はいくらでも量産できる泥の剣であることは、もはや誰にもわからないほどだった。
聖剣エクスカリバーはけして作ってはいけない ちびまるフォイ @firestorage
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