Chapter-3:オフ会のような日

数十分後、アトレ前。

「……それにしてもみーにゃがお前だったとは、みのり」

黄緑色の髪をした少年が水色の髪の少女を前にしてずり落ちた眼鏡を直した。彼はドラゴファイア、もとい天乃原あまのはら竜吾りゅうご。そしてその前で状況を理解できていないように首を傾げる少女が竜吾の幼馴染でみーにゃこと仮城かりしろみのりだった。

「りゅーくんがドラゴファイアさんなのはみぃわかってましたよー?」

「なっ、なんでだ……?僕は現実リアルに関するようなこと何も話してないと思うんだが」

竜吾に見破れなかったものがみのりに見破れるものなのか?みのりは基本的に周りの変化に鈍い人間だ。列なんかに並んでる時も順番が進んだのに気付かず追い抜かれてしまうことも多い。そんなぼんやりとしたこの少女が自分とあのネット上の人物を正しく結びつけることができていたことに竜吾は驚きを隠せなかった。

「りゅーくんがネットでは口が悪い人になるの、知ってます」

そういうの良くないと思います、と続ける。竜吾は思わずがくりとずっこけたような気分になった。

ネット上にはあんな煽り口調の奴らなんて掃いて捨てるほどいる。そんな中で口調だけで判断したなどただの勘に等しいではないか。

「いやそれだけかい!」

「だめですか?」

だめじゃない。だめじゃないけど、もし違う人だったらどうするつもりだったんだこいつは。

「あのな、みのり……」

「あ、あの人たちですよ!たぶん」

竜吾の言葉を遮って、こっちですよー!と手を振るみのり。その視線の先にはピンク髪の男とその後ろを歩く金髪の女。確かメガロマとかいったか。

「あぁ、メガロマとやらか」

竜吾もそちらに向かって一礼した。ピンク髪の奴は背が高い。もしかしたら年上かもしれないし、気を遣っておいて損はないだろう。


「燐、あの人たちじゃない?」

有紗の指の十数メートル先には水色の髪の少女がいた。大きく手を振っている。確かにあのドット絵のキャラクターと似たカラーリングをした人だ。奥に黄緑髪の奴も見える。

「多分そうだな。待たせてるかもしれない、行くぞ」

若干早足になった燐に有紗が必死でついていく。ちょっとあんた速いのよ、やら気を使いなさいよ、などと小言が背後から聞こえてきたが燐はその全てを華麗にスルーした。

「お前たちがドラゴファイアとみーにゃか」

ぺこりと頭を下げた少年と振っていた手を下ろしてこんにちわですねー、と笑う少女に燐が言った。

「そうですよー、みぃがみーにゃで仮城みのりです。隣のがりゅーくんで、みぃのご近所さんのクラスメイトです」

「僕がドラゴファイアの中の人の天乃原竜吾です。恐らくあなたより年下だと思います」

燐は軽く目を見開いた。このドラゴファイア、もとい竜吾の態度はネットでの応酬のときとは似ても似つかない。あの煽り節全開の中の人がこれほど礼儀正しいとは。

「……何年生なんだ?」

「高一ですね」

隣のみのりも頷いている。嘘は言っていないようだ。

「奇遇ね!あたしと燐も高校一年生よ」

燐の後ろから有紗が笑いながら言う。確かに燐は背が高く、年上に見られてもおかしくはない。

竜吾が気の抜けた顔で燐を見上げた。それから数回目をぱちくりとさせる。

「う」

「う?」

燐が首を捻る。

「うっそだろぉー!?」

竜吾が叫んだ。その後も同い年に敬語使ってたのか僕、何だこいつ身長でマウントとる気か?などと独り言が聞こえてきた。

キョロ充だ、こいつ。

燐が呆れたような目で竜吾を見下ろす。頭を抱える竜吾の後ろからみのりがひょっこりと顔を出した。

「メガロマさんとそっちのお友達さんは、なんて名前なんですか?」

ことん、と首をかしげる仕草がかわいい。オタクに優しい街・秋葉原に集う人々なら例外なくこう思っただろう。何この子超萌える。

「あぁ、確かに言いそびれてたな。俺は八葉野燐だ。で、こっちが」

「浦瀬有紗よ、よろしくね」

そんな仕草をものともせず燐がいたって冷静に返す。その萌えを心の奥に押し込んでなんとか有紗もその後に続ける。

「りんくんと、ありさちゃんでいいですか?」

合ってるわよーっ、と慌てるみのりの頭をがしがしと撫でる有紗を尻目に燐が未だ頭を抱える竜吾の方を向いた。この男は燐が年上でなかったことがよほどショックなのか、見上げる目が若干恨み混じりなように見える。

「ここ、アトレ前だぞ。近所迷惑だ」


「ごめんなさいね、遅れちゃって」

アトレ内のカフェ。各自注文を頼んだ後ボックス席に座った四人が会話を再開する。

「いきなり停電なんてしちゃってびっくりしたのよ」

「こいつ怖がりだからな」

「悪かったわね!」

茶化した燐に有紗が食ってかかる。その様子を見てみのりが楽しげに笑っていた。

「そうそう、あんな感じの停電今朝もあったよな」

竜吾の声にありましたねー、とみのりが笑いながら返す。

「何時くらいだ?それ」

「大体七時位じゃないか?」

「寝てたから気付かんかったな……」

そういえばどんな夢を見てたんだっけ。何か悲しいような、救われないような夢だった気がする。ただその後無断で部屋に上がって無慈悲にもタオルケットを強奪していった有紗のインパクトですっかり頭から飛んでおり、思い出せる気もしなかった。元々はっきり思い出せる夢の方が珍しいくらいのものだ。

不健康だな、やら早起きしましょうよー、などという声に燐はぷいと顔をそっぽ向ける。

その後四人は色々と談笑しつつ運ばれてきた遅めの昼食をとる。そして食べ終わった頃。

「そういえば本題なんだが、あのゲームのこと」

キャラクターとか以外にも気になることができた、と燐が言う。周りの三人が先を促す中、燐はスマホを数回操作してその画面を三人に向けた。


『このゲーム内で起こったことが、数日後に現実でも起こるんだ』


あのレビューサイトの、竜吾が文句をつけるよりも前の日付のコメントだった。

「『数日後』ってわけじゃなかったんだが……俺らは、あのゲームの中でお互いに会った。で、その直後にゲームがブラックアウトしたんだ」

ここまではいいか、と周りを見る。三人が頷いた。

「その後俺らはこのサイトで会って会話して、そのすぐ後停電した」

これって偶然か?

四人が会った直後に暗くなる。あまりにもゲームと似ている。燐はこれがこのレビューと同じ現象なのでは、と考えていた。原因はわからないが。

「偶然じゃないか?だって僕らゲームみたいに顔合わせてたわけじゃないし」

竜吾がばっさりと切り捨てる。彼はあまりこういうオカルト地味たものを信じないのかもしれない。

「でしたら、今顔を合わせてるこの状態で停電が起きたら今度こそ偶然じゃないと言えるのかもしれませんね」

みのりが天井から下がる洒落たランプを見上げながら呟いた。ランプは風のない室内なのにも関わらず不安定にゆらゆらと揺れている。

「それ……」

その場にいた三人は揃って同じ言葉を頭に浮かべた。

「フラグ、だ」

ぶつん、とカフェを含めた見える限り全ての電気が消えた。

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