Chapter-2:画面上のデジャヴ

レビューサイトの一番上。そこには先ほどとは違うレビューが書き込まれていた。おそらく燐たちがプレイしている間に書かれたのだろう。

『開始した直後、NPCと話してたら突然落ちたんだがあり得ないだろjk』

「同じことが起きた人がいるみたいね」

レビューをスクロールしつつ有紗が呟く。燐も後ろから覗き込んでみる。どうやらご丁寧にも固定のハンネ付きの人である。

燐がそのハンネを確認する前に有紗が更新ボタンを押す。するとその書き込みにツリーができていた。

『私も同じことになりました……!』

『マジか!?』

燐が今度こそハンネを確認する。

「な……っ!?」

「どうしたのよ、燐……えっ?」

突然息を呑んだ燐に有紗が不審げな視線を向ける。燐がそっとパソコンの画面の一部を指さす。そのまま燐の指した箇所へと視線を滑らせた有紗もまた同様に息を呑んだ。

「これって……!」

「ドラゴファイアとみーにゃ、だ」

最初に書き込みした人がドラゴファイア、それに返信してツリーを作ったのがみーにゃ。

あのNPCたちと同じ名前だ。もしかして本当に中の人がいたとでもいうのか。

「有紗、ちょっと代わってくれ」

有紗がパソコンの前を燐に譲る。燐はキーボードをパチパチと叩いて書き込みを開始する。MEGALONAMEと書かれた入力欄、おそらくハンネを入力する箇所に「メガロマ」と入れる。

『俺も全く同じ症状が起きた。しかも再起動をかけたらゲームが見つからなくなった』

反応はわずか十秒ほどで返ってきた。どれだけ即レスなんだ。

『メガロマだと!?NPCと名前被っただろお前www』

どうやらドラゴファイアの方からだ。燐が無言で返信する。

『いや、俺の方のNPCは違う名前だった』

『ハァ?そんなわけあるかそんなわけあるか!』

『俺の方のNPCは「DRAGOFIRE」と「MIYNYA」だったぞ。二人組で話しかけてきた』

『は?それ僕のハンネなんだが。茶化し目的なら帰ってくんね?』

『茶化しなどではない!本当にその二人が出てきたんだ!』

『嘘松乙』

「なんであいつは信じてくれないんだ!」

パァン、とキーボードを両手で叩く。後ろの有紗の視線もかなりイラついているようだ。このままでは堂々巡りだ。一体どうすればいいのか。そう思いつつも重い手で更新ボタンを押す。

『あの、みぃの方は「MEGALOMA」って人がNPCで出てきました……よ?』

今度はみーにゃの方だ。ドラゴファイアの方も『そうだそうだ』と同意をしている。

『もしかしてそいつ、ピンク髪のキャラじゃなかったか?俺の方はDRAGOFIREが黄緑の髪でMIYNYAが水色の髪だった』

あの二人はキャラのグラフィックについて何も話していない。ここでキャラグラを当てたら少しは話を聞く気になってくれるかもしれない。

『確かにピンク頭だったし、俺のPCは黄緑髪だった。あとそいつ、キャラクターセレクトで左から二番目にいたよな?』

『それが俺の選んだキャラクターだ。もしかしたら遠隔通信とかが仕込まれててMMORPGみたいになってたのかもしれない。そしたら俺らのプレイ画面が立場逆転してるのも頷ける』

少し長文すぎたかもしれない。返信してから燐はそんなことを思った。

数分が経ってから、今度はみーにゃの方からレスが来た。

『なんだか気味が悪いですね……。他にも奇妙なことがあって、みぃ、最初水色のキャラクターが自分に似てて怖かったんですよ。だから黄色の子を選ぼうとしたんですけど……全く反応してくれなくて』

同じだ。燐は有紗の方を見た。燐が有紗そっくりのキャラクターを選ぼうとした時も、ゲームは全く反応してくれなかった。有紗は相変わらず画面を凝視している。いつの間にかドラゴファイアからもレスがついていた。

『俺はその画面はすんなり通ったな。黄緑の奴、なんか自分に似てたから一発目でそれ選んだんだよ』

『黄色い人以外そっくりさんがいるって何か怖いですね……』

そこまで見た有紗がキーボードを奪って書き込む。

『はろー!メガロマの友人です!隣からずっと覗いてたのよ。あの黄色い奴、あたしにそっくりだったわ!』

あー、と燐がキーボードを奪い返そうとしている間に有紗はそれだけのことを打ち込んで返信する。おい馬鹿、と燐がキーボードを取り返した時にはすでにドラゴファイアからのレスがついていた。

『マジでか……つまりあのキャラたちは四人ともそっくりさんがいるってことでFA?』

どうやら信じてくれたようだ。

それにしても不気味なゲームだ。あれからスマホの方などでどれだけ検索してもあのメガロフラッシュはヒットしない。それと自分たちに似たキャラクターたち。誰か四人の共通の知り合いが製作者だったりするのだろうか。

『とにかく文字じゃ伝わりにくい。どこかで会えたりはしないか?もっと詳しく知りたい』

燐がさらに返信する。実際に会えば本当にあのキャラクターたちとそっくりなのかもわかるだろう。

『みぃは構わないですよ』

『俺もおk。どこ集合にする?俺は東京内なら』

『みぃも東京内なら大丈夫です』

どちらも東京在住なのだろうか。燐や有紗の家も東京、秋葉原だ。都合がいい。

『アキバのアトレとかどうだ?それなりに有名だろう』

『いいですね。お昼ご飯にひっかけて行けますし』

『さんせー』

燐は時計を見た。十一時過ぎ、少し遅くはなるが確かに昼食をとりながら話すことはできるだろう。

というか今からアトレまで出て昼食にひっかけられる、そしてそれを否定しないということは二人とももしかして近所に住んでいるのかもしれない。

『わかった。では十二時にアトレ前集合だ』

そう打ち込むと燐はパソコンをスリープモードへ移行させ、有紗と共に荷物をまとめ始めた。


「燐、準備できた?」

部屋の出口で有紗が仁王立ちしている。

「おう、今行く……」

突然、部屋の電気が切れた。昼間でもカーテンを閉め切って照明に頼っていた燐の部屋は瞬く間に真っ暗になる。

「て、停電か!?大丈夫か有紗!」

手探りでスマホを探す。有紗からの返事はない。やがてスマホを掴んだ燐はサッとそれを立ち上げライトを点ける。スマホの背面から放たれた強い光が部屋の出口を照らす。誰もいない。

「あ、りさ……?」

支度のできていた鞄を掴んで、部屋の外に出る。左右に伸びる廊下へ光を向けてみるが、どこにも有紗はいない。

「おい有紗、隠れるなんて趣味悪いぞ!」

またしても返事はない。

しばらくしてやっと電気が復旧した。燐の背後の部屋が再び明るくなる。

「有紗ー!」

「ごめん燐、こっちよ!」

声のした方を向くと、廊下の先に有紗が立っていた。驚いてあそこまで逃げたのだろうか。きっとそうだ、有紗は昔から怖がりだった。

「ごめんね、びっくりして向こうまで逃げちゃった」

やっぱり。

燐が有紗の分の鞄を放り投げる。あわてて有紗がそれを受け取る。

「行くぞ。少し急がないと間に合わんかもしれん」

「あっちょっと、待ちなさいよ燐!」

足早に階段を駆け降りていく燐に続いて、有紗も一段飛ばしに階段を飛び降りた。

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