第6話 出会いの出会い
アダム(仮)は愉快そうに笑う。
悪い夢を見ているようだ。
しかし自分で言って恥ずかしくないのかね?アダムとイヴだなんて。
「アダム(仮)、ところで貴方はなぁに?」
「吾輩、見ての通りのゴキブ……」
「アダム!アダムって言った?!あなたの名前アダムって言うのね!」
「グフフ、イヴたんは恥ずかしがり屋でござるな」
「いや会話のキャッチボールしようぜ」
なんだこいつ、喋れば喋るほどに疲れるな。
ていうか、聞きたいことはそうじゃなーい!
「なんであなた、見た目は(メガネをつけていること以外)完璧にGなのに、喋れるし知性がそこまであるの?」
「イヴたんは勘違いしておられるようだが、吾輩はGではなく、メガネである」
「ちょっと待って。とりあえずイヴたんはやめて欲しいし、何言ってるのか分かんない」
「ではイヴイヴがよろしいかな?吾輩がメガネというのはこういうことですぞ」
いや、イヴイヴもできればやめて欲しい。
アダム(仮)はスチャッとメガネを外す。その途端、眩いばかりの後光が差して見えるアダム(仮)の素顔は、G界のイケメンであった―――。
―――自分でも何を言っているか分からない。ただ、自分がGになったせいか、G的感覚で美的センスを感じているのか、目の前のアダム(仮)は紛うことなきイケメンに分類されるGだとわかった。
「え?は??え???」
「びっくりしておられますな、そう吾輩こそがG界のイケメンと名高いアダムでござる!」
「え?は??え???」
意味が分からん。メガネが喋っている。パーティメガネのように鼻と口もメガネとワンセットで付いているタイプ。ちなみにメガネはイケメンとは思わない。むしろ瓶底グルグルでイモったい。
「ごめん、こいつがうるさくて」
イケメンGも喋り出す。メガネは心外ですぞ!なんて叫んでいる。まるで腹話術を見せられているようだ。
「え?は??え??」
「混乱させてしまってごめんね。僕はラメイス。このメガネは自身をアダムと名乗っているけれど、厨二病の戯れだとでも思って」
「失敬な!厨二病の戯れとは!!吾輩は誰がなんと言おうとアダムでありまして!うんぬんかんぬん」
うんぬんかんぬん言っているアダム(仮)は放っておいて、ラメイスと名乗った彼がどうやらG本体という認識で良さそうだ。おまけにアダム(仮)よりも常識を持ち合わせているみたいだ。
「僕とアダム(仮)は、気付いたら一緒にいたんだけど、見ての通り彼はメガネで無生物だからね。でもどういった訳か、自分で考えて喋れるし、どうやら生物みたいなんだけど、如何せんメガネだからね。よく僕の体を貸してあげているんだ。どうやらメガネとして装着したら、僕は僕の体を操れない代わりに、アダム(仮)が僕の体を操れるみたいでね」
ラメイスにまでアダム(仮)呼ばわりされてるじゃん、ぷぷっウケる~。
てかアダム(仮)きもいな。メガネのくせに寄生できるってことでしょ?しかもラメイスも普通に体貸してあげているみたいだけれど、後遺症とか大丈夫なわけ??え、なんなのこいつら?
「きもいな」
思わず本音が漏れる。
「ほら、イヴちゃんが引いてるよ。なんとかしなよアダム(仮)」
「グフフ、それでは吾輩が責任を取ってイヴイヴをお嫁さんに」
「きもいな」
なんだよお嫁さんって!寄生の間違いでしょ!!
そりゃアダム(仮)からしたら、ラメイス以外の寄生先ができて嬉しいんだろうね!
ドン引きの姿勢で2人(2匹?)から距離を置く。
「おやおや、嫌われてしまいましたか。イヴイヴは恥ずかしがり屋さんゆえ、仕方ありませんなぁ。ゆっくり関係を深めてゆきましょうぞ」
「そのセリフのせいでイヴちゃんちょっと怖がってるよ」
「吾輩、紳士ゆえ安心してください。無理矢理体を乗っ取ろうなどと言語道断!お顔にかけて頂くのは信頼関係を築いてから、と信条のもとに生きておりまする」
「喋れば喋るほどに変なやつだけど、悪いヤツじゃないんだよ。僕の体を使って悪いこととかしないからね」
信用ならない、特にメガネ。変な喋り方だし、変な思考回路だ。何よりメガネだし。
「まぁまぁ。僕ら初めてイヴちゃんみたいな意思疎通のできる個体に出会えて喜んでいるんだ」
「そうなのであります!イヴイヴは相当お若いとお見受けしますが、おいくつでしょうか?いや失敬、女性に年齢を聞くものではありませんが、なんせ我々10年近く生きてきて初めてイヴイヴのような存在と出会いましたゆえ」
「は?10年も生きてんの??Gの寿命って精々2~3年でしょ。メガネは知らないけど」
「まぁまぁイヴイヴ、どうしてゴキブリについてちょっと詳しいのかは触れないでおくでありますが、メガネが喋っている時点で我々の常識は通用しないのでは?」
「メガネのくせに冷静にもっともな事を言ってやがる!」
なるほどつまり元の世界の常識で考えようというのが間違いなのね。そりゃそうか、なんてったって魔法も使えるんだもんね、この世界。
てことは私のキュートな足が時速300kmを出せないのではなく、そもそも時速300kmも出せるような身体構造じゃないんだな、きっと。
「ちなみに我々、伊達に10年近く生きておりませんぞ」
自分で自分の鈍足に納得していたところで、目の前をバビュンと黒い影が走る。黒い影の後に、巻き起こった風のせいで細かい砂埃が舞う。
辺りをカサカサと……いや、カサカサという表現は最早適切ではない。辺りをサッと移動して、また私の目の前まで来たラメイス on アダム(仮)、つまりアダム(仮)は両手を腰にあてて得意顔で立っている。
なるほど、これが本当の「風になる」ってことか。
目測だけでしかないが、これは時速300kmを優に超えている。マッハいったんじゃない?いや戦闘機かよ。音速を超えるとは優秀すぎん?
どうやら、この世界のGは私の想像以上に優秀な体を持っているらしい。
え?じゃあ私めちゃくちゃ雑魚なのでは?
落ち込む私を慰めるかのようにアダム(仮)を外したラメイスが言う。
「大丈夫だよイヴちゃん。同じ体のはずなのに、アダム(仮)が操っている時と僕が実際に動かす時じゃ全然動きが違うから」
そう言いながらラメイスはカサカサと動き回る。
なるほど、実にGらしい動きだ。
それを見た私はふと思う。つまり外殻は関係なく、個々の能力値に依存するということか。
アダム(仮)の能力ってどれだけ凄いの!
きっと今、私の目はキラキラと輝いていることだろう。 好奇心を抑えきれずに、鑑定を使おうとする。G生イチドキドキしてるかも!さぁ、見せてちょうだい"鑑定よ"!
瞬間、パァーっと目の前が真っ暗になり、意識が遠のく。
え、待って待って。また死―――。
生まれ変わったら私なんてGになればいい(笑)って冗談だったんですが きらめき潤 @miiiiiinnnnn
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