第2話 転生ライフ①

 魔法が使えると分かったからには、鍛えなきゃ!そうだ!筋トレだ!!!


 …………この身体で鍛える意味あるのかな?Gの身体能力って凄いって言うよね!いやでも猫とか犬とかでも運動神経悪い子いるもんね。過信は禁物よ、私。

 そうと決まれば、早速走り込みでもしようかな。

 時速300kmと噂の俊足を見せてあげる!陸上はあんまり分からないけれど、クラウチングスタートの体勢をとる。


「さん、に、いち、はいっ!」


 その時私は風になった、確かにそう感じた―――。

 そんな一文が頭に浮かぶ。

 しかし実際は人間もびっくりののろさだった。まっすぐ進んでるつもりなのに、右へ行ったり左へ行ったり。全速力なのに、これじゃあすぐに人間に殺されそうな……。


「……ゼェッゼェッ」


 息切れも半端ない。体力なさすぎでしょ。時速300kmはどうした。このGにあるまじき姿よ!!


「まさか、この姿になっても前世の運動音痴引き継いでる?」


 乾いた笑いしか出ない。いやいや、Gの姿で前世の運動能力は詰んでる、確実に。真っ先に死ぬ予感しかしないよ。

 こうなったら、やっぱり筋トレだ!!毎日辛くても腕立て腹筋背筋エトセトラ!


「そうよ私。Gになったっていうだけでお先真っ暗。明るい未来なんて想像出来ないけれど、今を全力で生きなくちゃ!」


 素晴らしいポジティブシンキング。この楽観的かつ前向きな考えのみが私の強みであり長所だ。それ以外は触れちゃダメ。


 とりあえず腕立てを始める。なんだこの細腕は。不安しかないが、緊張した面持ちでゆっくりと腕を曲げる。曲げきった!と、同時に倒れ込む。


「なんなの、私の身体へっぽこすぎない??」


 正直しんどい。超しんどい。こんな姿になったんだから、それに見合った身体能力にしといてよ。神様に今度会ったら文句言う。絶対言う。


「……」


 もう疲れたから休もう。今日は色々とあったもんだ。いきなり目の前でG様が殺生されたり、魔法が使えたり。

 前途多難な始まりだけれど、少しだけワクワクしている自分もいる。また明日になったら筋トレ頑張ろう。

 真っ暗ないい感じの寝床で今日1日を振り返りながら眠る。


「プチッ」


 おかしい。ひっそり密やかに眠っていただけなのに、再び命が絶たれる音がした。気づいた時には再誕後である。


「……朝だ」


 私すぐ死んでない?1日で2回も死んだね!またGとして蘇ることかできたが、これがもし回数制限ありだとしたら……。考えてぶるっと体を震わせる。命は大切に。


「今日は何をしようかな?」


 辺りを見渡す。薄暗い埃まみれの空間。きっと家具の裏とかそんな感じだと思う。

 思えば、最初に生まれた時は何故か1匹だけだったし、人目に付くところだった。2回目は兄弟たくさんのじめじめした場所。水場周りだったように思う。そして今回。1つ共通して言えるのは誰かの家だということ。


「まぁ、何はともあれ長生きしないと」


 今度こそ長生きをする。そう強く決心して筋トレをすることにした。


「さん、に、いち、はいっ!」


 走り込みを始める。するとどうだろう、昨日のよたよたへろへろ走りより少しマシになってる気がする。


「どうしたのマイボディー。私の秘めたる力がついに??」


 アホなことを言ってると自覚しながら考えてみる。


 1、昨日の走り込みが実を結んだ。その時は死んでも能力が引き継がれるということかな。

 2、今日の新しい身体は、昨日の身体よりも少しだけ運動神経が良い。なるほど、単純にありえそう。

 3、死ぬことによってパワーアップする。どこぞの星の戦闘民族か。いや、彼らは死にかけてから回復することによってパワーアップしていたはず。ちょっと違うね。


「最もありえそうなのは2番かな。でも1番だったら嬉しいし、3番なんて死んだもん勝ちってことでしょ。怖いなぁ」


 まぁ、1番の可能性もあるってことは、筋トレは欠かせないね!そう思った私は、走り込みを再開する。

 何回か繰り返していると、少しずつだが速くなっている気がする。


「うーん。なんか成長したって明確に分かるようにしたいなぁ」


 速くなっている気がする、マシになっている気がする、でも気のせいかもしれない。実際、速くなっているかどうか、いまいち自信が無い。

 ウンウンと唸っていると閃いた。


「あ!こういう時の定番スキル!!"鑑定"とかって使えないかなっ??」


 名案だ!と早速使えないか色々試してみる。

 鑑定!!と声高らかに叫んでみたり、触覚に意識を集中してみたり、目に力を込めたり。


「なんで使えないの……」


 がっくりと項垂れる。あれが使えるのって異世界転生のお決まりじゃなかったのか。でも魔法が使えるってことは鑑定か、似たようなものが使える可能性って十分にあるのよね。

 考えながらも筋トレは続ける。



 走り込みだけを数時間も続けていた結果、鑑定を使わずとも十分に成長を感じられる程になった。


「すごい!すごいわ私!!無限の可能性を感じる!!!」


 少し天狗になっているが見逃してほしい。気づけば、胸を張ってGですと言えるくらいには俊敏になったように思う。……まだ運動神経悪いGの範囲内だが。


「最初と比べると格段によくなった。やればできるものね」


 前世ではどうだっただろう。なにか始めてはすぐできないと諦めていたように思う。もしずっと続けていたら、私でも何かできることがあったかもしれない。今さら何を思ったところでだけれど。


 少ししんみりしてしまった。Gになってからそんなに経ってないのに、もうホームシックだなんて。


「しっかりするのよ私!今を生きるしかないんだから!!」


 ぺちっと前脚でほっぺを叩く。気合いの入れ直しは十分。次は腹筋だ!!


「いーち、にぃ……さ、さんっ」


 だめだ。腹筋もへっぽこである。どれだけふよふよした生活を送ってきたんだい?まいぼでー。


「それでもやらなきゃっ!いけない時がっ!!」


 ふんすふんすーっと鼻息荒くしながら腹筋に励む。きっと私の顔は真っ赤になっていることだろう。いや実際には黒光りしてるんだけどね。



 一心不乱に腹筋に取り組んだ結果、腹筋もマシになった気がする。


「うぅーん。やっぱり鑑定とかできないかな」


 鍛えられた(と思っている)お腹を擦りながら呟く。

 どれくらいのスピードでどれくらいの成長ができているのか、そうしたことが分かるだけでありがたいのだけれど。

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