「自分のことを人権派弁護士だと思い込んでる最強除霊師」が「自分のことをマナー講師だと思い込んでるこっくりさん」とかをできるだけ苦しめずにポリコレ安楽除霊しようと頑張るけど結局ワンパン残虐除霊しちゃう話
第13話 自分のことを中の人だと思い込んでるVTuber その7
第13話 自分のことを中の人だと思い込んでるVTuber その7
『ダメ……みたいだね……』
「くそ……っ! 何でこんなことに……!」
先生が拳をテーブルに叩きつける。テーブルに置いていた僕の左手に振動が伝わってきて、あきたての穴を刺激した。クソ痛ぇ。
結果から言うと、鈴木律子はダメだった。完全に自我を失っていた。人形になっていた。
京華院ラクナが中に入っているときは完全に生きた人間として動けるし話せるし笑えるし怒れるし食べることも出すこともできる――全て京華院ラクナの思うがままに。しかし、京華院ラクナが抜けた瞬間、鈴木律子は人形に戻る。五感は間違いなくあるようだが、感情はおそらくない。できるのは、起きていることと眠ること、そして無意識化での排泄――それだけだ。
鈴木律子は完全に『自分のことを京華院ラクナのアバターだと思い込んでいる』のだ。
だからこそ未だにクソガキアニメが自由に鈴木さんに出入りできるのだろう。京華院ラクナと鈴木律子、両方の認識が正しいものに戻らない限り、二人の関係も正しい形には戻らないのだ。
まぁ、自分の中に入る存在さえこの世から消えてなくなれば、自分のことをアバターなどと思いようもなくなるわけだが。
「わかったでしょう、先生。もうやるしかありませんよ。京華院ラクナを除霊してください」
「ふざけるなッ!! 出来る訳なかろう!! まだ手は尽くしていないではないか! 情けないことに、霊能力者としても弁護士としても、私に出来ることはもはや残されていない……しかし! まだ医療という手段はある! 可能性は残されて」
「ないでしょう。一毛も残されてないでしょう。現実を見てください、先生。ここに確かに存在している怪異によって奪われた自我を、医療でどうやって取り戻すんですか?」
「そ、それは……っ!」
『いいんです、大丈夫ですよ、千夜さん。わたしも伊吹さんの言う通りだと思います。わたしを、除霊してください』
「――ラクナ君……っ」
京華院ラクナが『お願いします』と言ってペコリと頭を下げる。
『あはは……いいんです、律子のためですから。それにたぶん、わたしは悪霊だと思います。律子のことが好きで好きで仕方ないんです。きっとまたいつか暴走してしまうと思います。嫉妬もするし、嫉妬と愛情の裏返しで律子のことを恨んでしまうときだって来るかもしれないし、律子を守るつもりで律子を傷つけてしまうこともあるかもしない。わたしはやっぱり消えるべきなんです。だから、この自我を除霊するだけじゃなく、「京華院ラクナ」という存在ごと消してはくれませんか? 律子が元に戻ったら、今回のことを説明して、京華院ラクナとしての活動は完全に引退するよう説き伏せてください。京華院ラクナというアバターが残っていて、そこに律子が入っていたら――きっとまたわたしは、地獄からでも這い上がってきちゃうから』
京華院ラクナは自嘲気味に笑ってそう言う。何かしんみりとしているが、ぶっちゃけ言ってることはめっちゃ怖い。一番厄介なストーカーだ。あとサラッと余計な仕事付け加えるのはやめてほしい。うちは除霊事務所だ。除霊以上のことはしない。
そもそも鈴木さんに京華院ラクナを捨てさせるのは無理だともう判明してる。あの人はあの人で京華院ラクナストーカーだからな。つーか『京華院ラクナ』の権利握ってんの事務所だろ。そういう仕事は弁護士とかに頼め。
「しかし……っ!」
『大丈夫ですよ、千夜さん。言ってるじゃないですか、わたしは律子なんだって。だから律子が元気で生きていてくれれば、わたしは生きてるんです。逆に律子がこんな状態じゃ、わたしは死んでるも同然です。つまり、わたしは消えることで生きれるんですよ♪ うふふ♪ ……でも、痛いのはちょっと怖いなぁ。痛い……ですよね……?』
「めっちゃ痛いぞ。先生は最強除霊師だからな。手の甲に包丁突き立てるのの十億倍は痛い」
「伊吹君! 君は何故いつもそうやって……!」
「誤魔化しても仕方ないでしょう。それが現実なんだから。幻想持たせておいて裏切る方が残酷ですよ」
『あはは、怖いなぁ……ちょっとだけ……でもっ、平気です♪ 覚悟は決まってます♪ お願いします、千夜さん♪』
鈴を転がすような軽やかな声。パソコンの中でにっこりと微笑む京華院ラクナの体は小刻みに震えていた。僕のスマホの中のピッチャーは九番打者に満塁ホームランを打たれてプルプルと震えていた。くそぉ、また炎上だ。ふざけやがって。このやり場のない怒りをどこにぶつけようか。よし、橋下徹のツイッターにクソリプでも送り付けよう。事務所のアカウントで。
「無理だ……私には出来ない……っ、この子を苦しめることなど……! この子をあのような目に遭わせてしまえば、私は二度と立ち直れないだろう……!」
先生もプルプルと震えていた。割とあっさりと立ち直られたカシマさんの立場はどうなるんだ。まぁこの人、女子供には特に甘いからな。
『うふふ♪ 本当に気にしないでいいんですよ♪ もう悔いなんてありませんから♪ ただ、一つだけ……律子はこれからも配信活動を続けていくと思うんですけれど、もう絶対痴漢が好きとか言うのだけはやめるように、強く言い聞かせてやってください……それだけはどうしても心配で……』
言っても、聞く耳持つかどうかは別の話だけどな。ああいうアホは一度痛い目見ないとわからないからな――とか言ったら先生にぶっ殺されるだろうけど、もちろん「一度痴漢されてみろ」なんてことをフェミニストの僕が言うわけがない。
僕が意図しているのは、例えば――あ。
「いい方法、ありますよ。苦しませずに一瞬で京華院ラクナを殺す方法。しかも、一石三鳥です」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます