第7話 自分のことを中の人だと思い込んでるVTuber その1

「そんなに鼻息荒くして何してるんですか、先生」

「仕事だ」


 カシマさん事件解決から一週間後。事務所に出勤すると先生が顔を真っ赤にしてパソコンに噛り付いていた。ていうかツイッターで橋下徹とレスバしていた。平日の真っ昼間っから何やってんだこの人達。


「ホント何やってんですか。弁護士相手に口喧嘩で勝てるわけないでしょう」

「私も弁護士なのだが!? くそぉ、この悪徳弁護士め、何が維新だ! またもや政権におもねるような発言を……!」

「どうでもいいですけど事務所のアカウントでやらないでくださいよ。本当に法律事務所だと思われちゃうでしょう」

「本当に法律事務所なのだよ!」


 うちの事務所のアカウント名は先生の強い要望によって『黒沼千夜法律事務所』となっている。が、五百人のフォロワーのうち四百人は本当の姿を知ってくれている。ただしその全てがちょっと頭のおかしいオカルトオタクみたいな人かちょっと頭のいいオカルトビジネス関係の人なのでなかなか仕事には繋がらない。後者の人達からはインタビューやメディア出演のオファーが来ることもあるのだが、先生が絶対引き受けてはくれないし、そもそも先生は除霊や霊視ができるだけで怪異について詳しいわけではないので彼らが求めるようなことはあまりできなかったりする。除霊シーンに関しても絶対テレビとかで流せないし。ちなみに残りの百人はフェミニストの方々である。


「そういうことは一度でも法律関係の仕事してから言いましょうね。扇風機的なものつけていいですか」

「あのー……すんまへん、何度もピンポン押したんやけど……壊れとるで、これ……」


 僕がクーラーのスイッチを入れたその時、部屋にひょこっと、三十歳ぐらいの女性が顔を覗かせてきた。


「依頼ですね! どうぞどうぞ!」


 僕は営業スマイルを浮かべて、彼女を部屋に引き入れ、ソファに座らせる。


「あ、すんまへん。ていうか部屋暑っ」

「で、今日はどんなご相談でしょうか?」

「実はガールズちゃんねるを見て来たんやけど」

「うちは法律事務所だ。伊吹君、丁重にお引き取り頂け」

「待ってぇや! 何でそんなに冷たいんや!? なぁ、ほんまに困ってんねんて……うち、ユーチューブで配信業をしてるんやけど、アカウントを乗っ取らてしもうて……」

「弁護士案件来た!」


 先生が目をキラキラと輝かせて身を乗り出す。

 アカウント乗っ取りだと……? 何でそんな相談を除霊事務所に……まさかこの女、頭がおかしいのか?


「頼んます! 除霊してや! うちのラクナが乗っ取られてしもたんや……うちに!」

「「…………は……?」」


 どうやら除霊案件だったようだ。でもやっぱり頭はめちゃくちゃおかしかった。





「ほう。ぶいちゅぅばぁ……とは何だ、伊吹君」

「ブイチューバーです。バーチャルユーチューバーです。流行ってるんです。アニメ調のアバターに声や動きをあてて動画サイトで配信する人のことです」


 ホントこの人何も知らないな。まぁ除霊師だし世俗のことに関して疎いのは仕方ないか。除霊師だし。市民感覚とか持つ必要ないもんな、除霊師だから。


「ちゃうで、伊吹さん。人間が声をあてたキャラクターの方がブイチューバーや。うちはそう思ってる」


 依頼人――鈴木すずき律子りつこさんがセミロングの黒髪を揺らして前のめってくるが心底どうでもいい。


「なるほど。まぁ、そういう形での情報発信も面白いし、エンタメやメディアの在り方に多様性が生まれるのは好ましいことだ。で、鈴木君のアバターの、えーと」

「『辛くな陰茎』ちゃんです、先生」

京華院けいかいんラクナや。何ちゅう並び替えしてくれてんねん」

「鈴木君のアバターである京華院ラクナが見知らぬ誰かに乗っ取られた、と」

「そうやけど……そうやないねん……見てもろうた方が早いわな。うちは基本ライブ配信で活動してるんやけど、これが昨夜の雑談生配信のアーカイブ」


 鈴木さんがおずおずと差し出してきたスマホを僕と先生で覗き込む。

 画面上で、セーラー服をまとった2Dの黒髪少女が滑らかに動きながら声を発する。


『でねー、この前マシュマロでラクナーさんに薦めてもらった漫画なんだけどさぁ、酷いよぉ。もう。わたし、ああいうの読まないってばー。あ、ロビンソン加納さん、スパチャありがとー♪ え? 変? 何が? わたし? えー、やめてよー。どしたの、みんなー。わたし初めからこうだったじゃんねー、うふふ♪』


 ふーん、こんな感じなのか。京華院ラクナは一方的に語り続けるわけではなく、画面右に流れる視聴者コメントを拾いながら対話するように言葉を綴っていた。

 うん、てか声たか。全体的に鈴木さん本人と全然雰囲気が違う。ガサツっぽい鈴木さんとお淑やかな感じの京華院ラクナ。そもそも年齢が全く違う。京華院ラクナは見た目的に中学生ぐらいだろう。中の人の半分以下の設定だ。


「なるほど。キャラ作りですか。大変ですね、ブイチューバーも」

「うーむ、正直私には話している内容はほとんど理解出来なかったのだが……まぁ、そういうものなのではないか、伊吹君。役者が全く別の人格を演じるからこそ、バーチャルなのだろう? それにキャラクターも愛らしくていいではないか。きっと子ども達から支持を集めているのだろう。まぁ私はもっと力強い女性像を表現したキャラクターの方が好みだがな」


 聞いてねーよ。

 僕と先生の反応が気に食わなかったのか、俯き加減の鈴木さんは気まずそうに口を開き、


「ちゃうんや……これ、配信したの、うちやないんや……」

「え、あ、ああ、そうであったな。乗っ取られてしまったという話であったもんな。見知らぬ誰かに勝手に自分のアカウントとアバターを使って配信されてしまった、ということか。うむ、この件は是非、私に任せてくれ!」

「確かに声が違いますもんね。何となく似てる気もしますけど、鈴木さんの声はこんなに特徴的にキャピキャピしてないですもん。もっと特徴的にファンキーで特徴的にガラ悪い感じですもん」

「いや、声はうちやねんけど……コホン――あ、そうそう、それでさー♪ 昨日ね、ココナちゃんとスフォリアテッラ食べに行ってさー、そうそうそう、バーチャル原宿のお店ー♪ え、スフォリアテッラだよ、スフォリアテッラ。えー、みんな知らないのー? 遅れてるぅ♪ ――な?」

「え、すご……鈴木さん、霊能力者的なアレですか?」


 完全にさっきまで見ていた京華院ラクナと同じ声・同じ喋り方をしていた。どうやって語尾に音符つけるんだ。あとスフォリアテッラって何だ。ポリコレ用語?


「いや、もともと売れない声優やってん、うち。演技力にも自信あるし、唯一無二の声も持っとる自負がある……せやからな、そういうことなんや……これは絶対うちの声なんや……うちの喋りなんや……」

「ふむ。なるほど、そういうことか」

「どういうことですか、鈴木さん、もっと要領よく説明してください。先生もわかってる風な顔浮かべてますけど絶対わかってないんで」

「うちやけど、うちやないんや! ラクナが、うちの声を使って勝手に配信しとるんや! 乗っ取られたんや、ラクナにうちのラクナを! ラクナは自分のことを自立した存在だと思い込んでるんや!」


 鈴木さんが頭を抱えて悲痛な叫びを上げる。

 え、マジかよ。つまり……、


「アバターに自我が芽生えちゃったってことですか……?」


 自分のことを自立した存在だと思い込んでるブイチューバー――そうであるなら、これは確かに怪異ということになるのだろう。たぶん。


「何かわかりますか、先生。先生が大好きな自立したヒロインですよ」

「私の仕事ではないということは分かった。本当に自立してどうする。お引き取り願おうか、鈴木君」

「何でや!? 最強除霊師黒沼千夜さんやろ!?」

「弁護士だ。はぁ……それに何かの勘違いという可能性もあるだろう? どれ、もう一度アーカイブを見せてくれないかい」


 先生が鈴木さんからスマホを受け取り、先ほどの動画を凝視する。


「ふむ…………ふむ…………うーん……………………あ、怖っ……ひっ……………………やはり何もないようだな。うん、この動画からは何も感じられなかった。怪異でも何でもない」

「嘘やん!? めっちゃ青ざめとるやんけ! なぁ、やっぱりヤバかったんやろ!? 絶対おかしいんやって、これだけやないもん! うちの過去の配信アーカイブとかツイッターの投稿とかが勝手に削除されてたりすんねん!」


 何だそれ、それが本当なら、確かに本人からしたら相当気味悪いだろうな。

 先生もさすがに何かしらの手を打とうと思い始めたのか、顎に手を当て、思案顔を浮かべながら、


「……削除されていた動画やツイートの数はどのくらいだい?」

「数までは正確に数えてへんけど、アーカイブ動画に関してはもう八割以上やな……デビューしたのが二年前なんやけど、最初の三、四か月以外のもんは軒並み飛んだわ……ツイートも同じで、初期のやつが消されることはないんやけど……あれやな、うちらがバズって以降のもんが消されてる感じやな、動画もツイートも」

「デビュー三、四か月目にバズったんですか」

「見られるで、バズったきっかけの配信。アーカイブは消えてしもうたけど、ラクナーが投稿してる切り抜き動画があるさかい」

「ラクナー? 切り抜き動画? とは何だい?」

「ラクナーはうちらのファンのことや。切り抜きっちゅうのは、配信者が配信した動画の一部を、視聴者が抜粋・編集したもののことやな」

「それをラクナーが勝手に投稿しているということか? 何だそれは、明らかな著作権侵害ではないか!」


 つーかファンネームきも。


「ええねん、収益化してるわけやないねんから。弁護士みたいなこと言わんといてや。えーと……これや、この時の配信がうちらのターニングポイントやったんや」


 再び鈴木さんのスマホを覗き込む。つか自分のアバターがデカデカと描かれたスマホケースとか使うな。どんだけ自分大好きなんだ。


『あ、言うてなかったんやっけー。そうそうそう、うち痴漢ものやないと濡れないねんなぁ。いやほんま、ほんまー。うん? まぁ基本は電車やね、他のシチュもええけど、やっぱリアル感ある方が感情移入しやすいねん。いや最初は嫌やってんけどぉ、嫌は好きの裏返しって言うやんかぁ。そうそうそう、痴漢願望あんねん、そうそう、される方される方。痴漢最高やねんなぁ、マジで。あ、こっぱみじ助先生の新刊なぁ、分かっとるやん、さすがラクナーや! やっぱ彼氏持ちの子やないと犯されがいがないねん! あの人の表現は肉体的にも精神的にもめっちゃ暴力的やけん、うちも読んでてめっちゃ被害者の女の子に、え? 口調? あー、うちは元々』


 僕は再生開始三十秒で停止ボタンを押した。暴力事件が起こりそうだったからである。怪異はたくさん殴ってほしいが、人間を殴るとお巡りさんと弁護士さんを呼ばなくてはいけなくなって面倒くさいからである。


「な、な、な……っ、何を……っ、ち、痴漢だと……っ? 痴漢を擁護、どころか賛美するような主張をユーチューブに垂れ流しているのか、君は!?」


 先生が充血した目を見開いてプルプルと震えている。今年一番小刻みに震えている。


「いや、ちゃうちゃうちゃう。痴漢やなくて、痴漢ものな。漫画とかAVの話や。まぁ感情移入はすんねんけど」

「だとしても! 許されんぞ、痴漢を肯定するなんて!」

「いや別にフィクションの話やんけ……見たい人が見るだけやし……」

「性教育が遅れているこの国でそんなものを流通させては、誤った知識を植え付けれらて実際に痴漢行為に走る者が出ても全くおかしくはない! そのような作品が目に入れば性暴力サバイバーがフラッシュバックを起こしてしまう可能性だってある! 痴漢をテーマにした娯楽作品など、はっきり言って、女性をモノとして消費することを目的とした性的搾取に他ならない! 私だって表現の自由は当然守っていきたいと考えているが、ネット上でのゾーニングに限界がある以上……というかそもそも君のチャンネルは全年齢対象ではないか! 何故アダルトコンテンツの話をしているのだ!?」


 先生が拳をテーブルに叩きつけたせいでコーヒーカップが倒れる。

 ああ! 僕が先生のためにこだわりにこだわり抜いて淹れた、オーガニック&フェアトレードコーヒーの皮を被った(てかシール貼って偽装した)、農薬&化学肥料マシマシ発展途上国スペシャル搾取ブレンドが……!


「そないなこと、うちに言われてもな……」

「まぁあなたの性癖や趣味なんかに興味ないっていうかどうでもいいんですけど、そんな話をこんな萌えキャラにさせたらオタクが引くんじゃないですか? 童貞には刺激が強いと思いますよ」

「ええねん、ええねん。むしろ売れ線や。エロ・変態方面で目立つんが一番簡単にお客呼べんねん。ブイチューバー界で手っ取り早くバズりたいんならマニアックな性癖はマストやで」


 何だそのイカれた業界。


「お客に喜んでもらうためには手段なんて選んでられへんねん。なんも知らんお嬢さんに批判されたないわ。まぁとにかくこの配信で痴漢好きカミングアウトしてから、うちらもバズったわけなんやけど……考えてみればこれ以降の動画ばかりやな、消えてもうたのは。何か関係があるんやろか?」

「どうですか先生」

「いや痴漢についての話が終わっていないのだが」

「どうですか先生」

「…………うーむ、私が京華院ラクナの『勝手に配信動画』から感じたオーラは、戸惑い・不安・焦燥――何よりも『恐怖』だったのだよな……」

「恐怖? 京華院ラクナが――怪異側が、恐怖を感じてたってことですか?」

「うむ。私もそういうケースは初めてだったから初見では見逃してしまったし、気付いた時は正直ゾッとしてしまったよ……だが、少なくとも誰かに危害を加えようという意思は全く感じられないな。鈴木君に対して攻撃的なアクションを取ることはあり得ないと断言してよいだろう。不気味に思うところはあるだろうが、実害はないのだ。何も対処する必要はない」

「いやいやいや思いっきり実害出とるやんけ!? 勝手に別人キャラで配信されてんねん! 動画消されてんねん! 事務所からもめっちゃ怒られてんやで!? ラクナが勝手にやってるって説明しても信じてもらえへんねん……!」


 事務所入ってたのかよ。てかブイチューバーに事務所とかあんのかよ。


「ならば方法は二つだな。まずは事務所を辞めて個人で活動するという方法。これでも自我を持った京華院ラクナが勝手な行動を取ってしまうことに変わりはないだろうが、誰かから叱られるということはなくなる。または、京華院ラクナとして活動することは辞めて、別のアバターを使って配信するという選択だな。この場合でも、京華院ラクナは自我を持ったブイチューバーとして一人勝手に活動し続けるだろうが、君の活動には全く影響は及ばずに済むことになる。君は京華院ラクナではなくなるのだから」

「な……っ、な……っ、な……っ」


 鈴木さんは目を見開いて、口をパクパクとさせている。肩をピクピクと震わせている。先生が痴漢配信を目にしたときと同じ反応だ。


「二つ目の方法の発展として――この手は出来れば避けるべきなのだが――京華院ラクナのアカウントを削除してしまえばよい。そして二度と京華院ラクナとして活動することはしない。京華院ラクナという存在ごと抹消してしまうのだ。そうすれば『自分のことを自立した存在だと思い込んだブイチューバー』はいなくなる。私が手を下すまでもない。というか絶対手は下したくないしな。ユーチューブの規約に則ってアカウントを削除するというのが、一番苦痛を与えず、尊厳を保たせたまま、京華院ラクナを消滅させることが出来る方法に違いない。ただし、繰り返すようだが、これは最終手段にしてくれ。誰に対する敵意も悪意も持っていない怪異を除霊しなければならない理由などないのだから」

「~~~~っ! ふざけんなや! 却下や、却下! 全部却下! うちとラクナは二人で一つなんや! ラクナを捨てるなんてありえへん!」

「ならば消去法で最初の案だな。京華院ラクナに勝手に動かれることは受け入れるしかないが、個人で活動することで誰に咎められることもなくなる」

「アホか! そないなこと事務所が許してくれるわけないやろ! 元々ラクナは事務所に用意してもらったアバターやで!? ラクナだけ貰って事務所辞めます、なんて通るか!」

「む。そうだったか。それはすまなかった。そこら辺の事情は聞いていなかったものでな。出来れば事務所との契約書を持ってきてもらいたかったところだが……まぁ、しかし、そういうことなら全ての権利は事務所と、京華院ラクナをデザインしたイラストレーターが持っているということになるだろうな」

「じゃあどうすんねん! あんたが提案してきた方法全部ゴミやないか!」

「どうする、と言われてもな……そもそも鈴木君。君は私に何を求めているんだい? 君は私のことを除霊師だと思い込んで、ここを訪れたのだろう?」

「だから……っ! ラクナの自我だけ除霊してくれ言うとんねん! ラクナの中身は、ラクナの魂は――うちだけなんやから!」

「そんな都合の良いことなど出来ん」


 眉一つ動かさず、真顔で淡々と言い放つ先生。鈴木さんは顔を真っ赤に上気させて、勢いよく立ち上がり、


「話にならんわ! この似非オカルト詐欺師! もうあんたなんかに頼らへん! 帰る!」

「似非オカルト詐欺師ではない。人権派弁護士だ」


 酷い。これはさすがに酷い。助けを求めて縋り付いてきた依頼人をこのまま帰すなんて僕にはとてもできない。


「待ってください、鈴木さん! 相談料払ってください!」

「払うか! なんも解決してもろてへんのに、何で相談だけで金払わなアカンねん! 弁護士か!」


 引き止める僕を振り払って、鈴木さんは事務所から出て行ってしまった。酷すぎる。勝手に助けを求めて縋り付いてきたくせに金も払わず帰るとは。


「はぁ……まいったな。作り手の情熱が乗り移って無機物が意思を持ってしまうということは太古からあるらしいが……まさかアバターとはな……同情はするが……」

「最強除霊師と言えども、さすがにディスプレイの中の二次元キャラを殴ることはできませんでしたか」

「いや、おそらく出来る。生配信中の京華院ラクナにディスプレイの上から物理的にデコピンすれば、自我だけ除霊して、自我のない着ぐるみ状態の京華院ラクナだけを残せるはずだ」

「えー……」


 ディスプレイの上からデコピンって何だよ。何でもありかよ。あんたやっぱり最強除霊師だよ。


「だったらさっさとヤっちゃってくださいよ……見ました? チャンネル登録者数、十万寸前でしたよ。投げ銭……って言うんですか、結構な金額払ってチャット欄に書き込んでる視聴者もいましたし。稼いでるはずですよ、あの人。デコピン一発で六桁はむしり取れたはずです」

「むしり取るなよ……とにかくダメだ。彼女は何も悪いことなどしていないのだ。除霊など出来ん。まぁ、共存していけばいいではないか。鈴木君には我慢してもらうしかないだろうな」


 僕が淹れ直したスペシャル児童労働ブレンドを美味しそうに啜りながら先生はのん気に宣う。さすが霊には甘いが人には厳しい除霊師。人権派ならぬ霊権派除霊師。どうでもいいけど金だけは稼いでほしい。


「それに、鈴木君も言っていたではないか。自分とラクナは二人で一つ、だとな」

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