第104話 VS【勇者】ウェイン(デス寄生)

 先に動いたのはデスだった。

 剣を振り上げて、振り下ろす。

 俺はその攻撃を弾き返した。


 しかし、デスの攻撃は止まらない。

 すぐに次の攻撃を繰り出してくる。

 俺は慎重に捌いていく。


「コノ体ハ中々イイゾ。人間ニシテハ上出来ダ」


 やはりウェイン王子自体の身体能力が影響している。

 今の時点ではほぼ互角だろうか。


「最近マデ使ッテイタ体ハ、魔族ノ老イボレダッタカラナ」


 シリウスを吸収するまでの話か。

 どんな魔族か知らないが、ウェイン王子の体と比べれば物足りなかっただろう。

 デスは今、己の力を存分に発揮できているに違いない。


「魔族の元四天王ダッタラシイガ、イカンセン年老イテイタカラナ。ヤハリ、若イ体ハ使イヤスイ」

「……なんだと?」


 前に寄生していた体は、魔族の元四天王だって?

 そういえば、マグダレーナさんが元四天王の残り三人について言っていたな。

 ひとりは爺ちゃんに斬られたのでもういない。

 残る二人は爺ちゃんに負けて、どこかへ去ったと。

 その内のひとりがデスに寄生されていたというのか!?


「我ノ攻撃ヲ、ドコマデ凌ゲルカナ? 《ブレイブモード》」

「何っ……!?」


 その瞬間、デスの動きが加速した。

 《ブレイブモード》を使うのかっ……!?


 ウェイン王子の持つスキルを使ってくるとは予想していたが、身体能力をさらに向上させる《ブレイブモード》まで使ってくるとは思わなかった。

 格段にデスの動きが速くなる。


 だったら、俺も対抗するしかない!

 そうでないとデスの動きについていけなくなるからだ。


「《ブレイブモード》ォォォォッ!」


 デスがニヤリと笑った。

 直後、鋭い剣筋が俺の首を狙う。


 防いだ!

 だが、攻撃は一度で止まらない。

 たまらず俺は《剣閃結界》でデスの猛攻を凌ぐ。


「くっ……!」


 しかし、五度目の攻撃に耐えきれなかった俺は、後方へと吹っ飛ばされた。

 固い地面に叩きつけられながら転がっていく。


「くそっ……!」


 地面に左手をついて起き上がると同時に、俺は右手を振るって《地走り》を放った。

 俺の剣が地面を穿ち、デスに向かって衝撃波が飛んでいく。


「クダラン技ダ」


 デスは剣を横に薙いで《地走り》の勢いを完全に殺した。


 これが効くとは思っていない。

 《地走り》を放つと同時に、俺はデスに向かって駆けていた。


「おおおおおおおっ! 《煉獄炎剣》ッ!」


 デスに迫った俺は炎を纏った剣を振るう。

 当てるつもりはない。

 この程度のダメージではデスを傷つけることはできないし、いたずらにウェイン王子の体を痛めつけるだけだからだ。


 なんとか僅かな隙さえできてくれれば、と思ったが、それを見透かしたようにデスがあざ笑う。


「コノ体ヲ傷ツケルコトガ恐イカ?」

「そうだな……、正直どう戦えばいいかわからない」


 俺が攻撃を当てないとわかってたから全く動じなかったのか。


「【剣聖】! 絶対に王子を傷つけるなよ!」


 カルスが声を張り上げる。


「わかっています」


 俺はカルスにそう答えると、デスに向かって《残影剣》を繰り出した。

 デスは涼しい顔で、死角から襲いかかる俺の攻撃を捌いていく。

 予想どおり、触手を倒した【剣聖】のスキルでも通用しないか。


 となると、剣の神から伝授された《星河剣神》しかないだろう。

 剣の神がデスを倒せると言ったスキルだ。


 そう考えながら、俺はデスと剣をぶつけ合った。

 俺の動きにことごとく対応してくる。

 デスの一撃が重い。

 しかし、やつのほうが先に《ブレイブモード》が切れるはずだ。

 その瞬間に勝負を決める。


 俺はその時を待つ。

 デスの放つ、おそらくウェイン王子の【勇者】のスキルを《剣閃結界》で防ぎつつ反撃する。


 さっき《ブレイブモード》を使った感覚からすると、そろそろ効果は切れるはずだ。

 あと少しだけ、デスの攻撃を凌げば――!


「何カ狙ッテイルノカ?」


 デスが初めてうしろへ下がった。

 警戒して距離を取ったか。

 だけど、それは悪手だ。

 これで《ブレイブモード》が切れるまでの時間を安全に稼ぐことができる。

 たった僅かな時間だが、俺たちの戦いにとっては致命的な差だ。


「《ブレイブモード》ノ効果切レヲマッテイルナラ無駄ダ」

「……何?」


 何を言っているんだ?

 デスは動かない。

 こうしている間にも《ブレイブモード》の効果切れは迫っている。

 デスこそ何か狙っているのか?


「人間ヨ、絶望ヲソノ身ニ刻ンデヤロウ」


 デスが剣を構えた。


「《ブレイブモード》」

「なっ……!」


 二度目の《ブレイブモード》!?

 馬鹿な!

 予想を超えたデスの行動。

 今まさにデスは効果切れの迫った《ブレイブモード》を新たに発動し、効果時間を上書きしたのだ。


 対して俺の《ブレイブモード》には僅かな時間しか残されていない。

 デスと違って、俺には二度も《ブレイブモード》を使うだけの体力も魔力もない。

 それに使用後の疲労はかなりのものだ。

 すなわち、俺の《ブレイブモード》が切れたときに待っているのは――死だけだ。


「くっ……!」


 こうなれば攻めるしかない。

 デスが俺の攻撃を凌げば……負ける!


「はああああああああああああっ!」

「無謀ナ攻撃ダナ。最後ノ最後デ焦ッタカ」


 俺はありったけの攻撃を叩き込む。

 残された時間を気にしながらも、フェイントを入れて死角を狙う。

 全力の攻撃だ。

 俺の力のすべてを、この封印剣に乗せる。


「うおおおおおおおおおおおおっ!」

「サッキマデト違イ、攻撃ガ雑過ギル。少シハ楽シマセテクレルト思ッタガ、所詮ハ人間カ」


 俺のすべての攻撃をデスは防いだ。


「死ネ。――《シャイニング》」


 ここでウェイン王子の言っていた【勇者】最大のスキルか!

 すかさず俺は攻撃を止め、《剣閃結界》を展開する。


「ぐっ……!」


 だが一度は受け止めたものの、あまりの力に《剣閃結界》が解けた。

 なおもデスの放った《シャイニング》が俺の左腕に食い込んでいく。

 その剣は骨にまで達しようとしていた。


 それでも、俺は右手に持った剣を振り上げた。


「駄目だ、やめろッ! 王子に手を出すなぁぁぁっ!」


 カルスの絶叫が俺の背中に叩きつけられる。


 黙ってろ……!

 今は集中させてくれ、これがデスを倒す最初で最後のチャンスなんだっ!


「――人間、ナニヲ……!?」


 何かを察したデスが剣を抜こうとするが、俺の左腕に食い込んだ剣は簡単には抜けない。


「【剣聖】ッ! やめろぉぉぉぉぉっ!」

「うるさいっ、集中させてくれ! ……デスだけを斬る!」


 デスはすぐに剣を諦め手を離し、俺から距離を取ろうとする。

 だが、俺の剣はすでにデスの動きを捉えている。

 もう逃げられない。

 ここで――すべての決着をつける!


 

「はああああああああっ! 《星河剣神》!」


 

 俺の剣から一筋の閃光が走り、デスが寄生しているウェイン王子の頭から腰の辺りまで一直線に軌跡を描いた。

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