第6話 ゴブリン討伐
ここはバルバラ森林地帯。
ネスタの街から南に歩いた場所に広がっている、自然豊かなところだ。
依頼書に記載されている目撃者の情報では、近隣の村人がこの森に出入りするゴブリンを見かけたのが三日前。
ゴブリンは放置しておくと、爆発的に数を増やす。
力の弱いモンスターだが、戦う術を持たない村人にとっては脅威となる。
俺達には迅速な対処が求められる。
それを言われなくても、当然俺達は時間をかける気はない。
何故なら、一日にできるだけ多くのクエストを受注したいからだ。
「アーシェ。準備はいいか?」
「もちろん。さっさと片付けてしまいましょ」
俺達はバルバラ森林地帯へと、足を踏み入れた。
周囲に注意を払いながら、道沿いに歩いて行く。
「ゴブリン討伐っていっても、どうやって探せばいいのかしら? 闇雲に探してたら日が暮れてしまうわよ」
「ゴブリンがいるってことは、この森のどこかに巣があるはずだ。まず、その巣を見つける」
「それで、マリーさんに洞窟の場所を聞いていたのね?」
「ああ」
クエストを受注した際、俺はバルバラ森林地帯にある洞窟の場所を聞いていた。
ゴブリンは元々あった洞窟を、巣として利用していると考えたからだ。
これも、この半年間で得た知識だった。
マリーさんから教えられた洞窟は全部で三つ。
どれもバルバラ森林地帯の浅い場所に点在していた。
近い洞窟から順番に回るが、二つ目まではもぬけの殻だった。
ゴブリンが生息していた形跡も見当たらない。
俺の予想は外れていたかと、考えながら歩いていたその時、微かに物音が聞こえた。
アーシェを見ると彼女も気づいたようで、物音を立てないように黙って頷いた。
俺達は身を低くして目を凝らすと、木々の隙間からゴブリンが覆い茂る草木をかき分けながら歩いているのが確認できた。
「ゴブリンだ。一匹だけのようだな。仲間がいるかもしれないから、後をつけよう」
「ええ。わかったわ」
仲間を呼ばれたら困るから、息を潜めたのではない。
ゴブリンの目撃情報は複数体。
しかし、それが同一個体か別の固体なのかはわからない。
だが、俺は後者の方だと考えた。
ゴブリンの習性からして、集団で生息している可能性が高かったからだ。
なので、このゴブリンが集団で生息している巣があるのなら、そこまで案内してもらえばいい。
そう考えて、俺はアーシェに目配せして、ゴブリンを見失わないようについて行った。
読みどおり、ゴブリンは三つ目の洞窟に入っていった。
マリーさんの話では、この洞窟は昔からあり構造は一本道で、深くはないと聞いている。
俺達は洞窟の前まで歩いて行く。
「さて、始めるか」
俺は松明に火をつけて、もう片方の手で剣を抜いた。
アーシェも拳同士を合わせて、気合い十分だ。
互いに頷き合って、洞窟に入った。
入ってすぐに、松明の灯りに気づいた二匹のゴブリンが振り返った。
有無を言わさず飛びかかってきたので、瞬時に二匹共斬り伏せた。
足下には上下に分断されたゴブリンの死体が転がっている。
その音に気づいたのか、洞窟の奥からわらわらとゴブリンが近づいて来る。
「結構多いわね。ようし、私もやるわよ」
「アーシェ。俺にやらせてくれ。スキルを試してみたい」
俺は【剣士】に転職して習得したスキル、《ソニックウェーブ》を放った。
剣を振った軌跡状に衝撃波が発生し、それはゴブリンに近づくにつれ大きくなっていく。
風の刃がゴブリンを襲う。
抵抗虚しく斬り裂かれるゴブリンの、悲鳴だけが洞窟に木霊する。
ゴブリンは密集していたが、後ろの方にいたヤツも絶命していた。
レベル差もあるんだろうが、ゴブリン程度じゃ一撃か。
「流石、シスンね。ここにいたのは全滅したみたいだし、奥に行きましょ」
「ああ。そうしよう」
洞窟の一番奥まで進むと、ゴブリンの集団が待ち構えていた。
「次は、あたしにやらせて」
アーシェが俺を押しのけて前に出る。
俺が返事をする前に、アーシェはゴブリンに向かって駆け出した。
そして、ゴブリンの顔面を殴りつける。
「《ホーリーブロウ》!」
殴られたゴブリンの頭は破裂した。
別にスキルを使わなくても同じ結果になったと思うが、アーシェは俺に触発されたのだろう。
そして、次の瞬間、悲鳴を上げたのはアーシェだった。
「わっ! えっ、ヤダっ!」
破裂したゴブリンの血や体液、そして肉片が体に付着したようだ。
俺はおかしくて吹き出しそうになったが、思い留まる。
アーシェに聞こえたら、怒られるからな。
俺の方に数匹のゴブリンが走って逃げてくる。
どうやら、アーシェに恐れをなして逃げる気らしい。
だけど、ここは通さない。
俺は一匹残らず、屍へと変えた。
アーシェの方へ目をやると、怒り狂った彼女が縦横無尽に暴れているのが見えた。
ほどなくゴブリンは全滅するだろう。
***
俺達はこの日、六件の討伐クエストを達成した。
最後のクエストを終えた頃には、夜になっていたので冒険者ギルドへの報告は、明日の朝にすることにした。
宿に戻り、一階の食堂兼酒場で遅めの夕食を摂る。
「乾杯!」
「かんぱーい!」
俺達は酒が飲めないので、お茶で乾杯をした。
節約したい気持ちもあるが、今日は初めてアーシェとクエスト達成のお祝いを兼ねて、少し奮発した。
運ばれてくる料理に舌鼓を打ち、俺達は腹を満たしてから就寝した。
***
「クエスト達成を確認しました。こちらが報酬のお金です。持ち帰っていただいたモンスターの素材を換金した分も含んでいますので、確認してください」
昨日のと合わせると俺達はそれぞれ6000点を獲得している。
この調子なら、五日ほどでEランクに昇格できそうだ。
マリーさんによると、初心者Fランクの冒険者が初心者卒業――所謂、Eランクに昇格――するまでは、大体一ヶ月前後かかるらしい。
そう考えると俺達の稼ぎ方は相当早い部類だ。
それから俺達は、毎日クエストに励んだ。
ランクが上がると、より効率の良いクエストが受けられる。
なので、二週間を過ぎた頃には週に一度は休息日を作って、アーシェと買い物したり街を散策したりと楽しむ余裕が出てきた。
一ヶ月もすると貯まったお金で少し手狭だが一軒家を借り、家具や生活必需品を揃えて俺達の拠点とした。
「俺達が自分で稼いだお金で家を持てるなんて、爺ちゃんにも良い報告ができるな」
「まだ、借家だけどね。だから、もっと稼いで大きな家を買いましょ!」
その翌日からもクエストに精を出し、ネスタの街に住んで二ヶ月が過ぎる頃には、俺達はBランク冒険者になっていた。
そして、冒険者ポイントは520000点に達しようとしていた。
二ヶ月もこの街にいると、他の冒険者や街の人とも馴染んできた。
よく顔を合わせる冒険者とは互いに情報交換したり、街の人からはモンスターを討伐した御礼を言われたりすることも増えてきた。
マリーさんも、今実力、人気共に急上昇の俺達の担当ということで、冒険者ギルド内で出世したようだ。
その御礼にマリーさんからは凄く感謝をされて、家に置く家具をプレゼントしてもらえた。
「頼りにされるって、何かいいなぁ。期待に応えられるように、みんなが暮らしやすい街にするためにも、モンスターをもっと狩らないと」
「そうね。みんながシスンの凄さに気づいてくれて、私は本当に嬉しいわ。【光輝ある剣】のヤツらは今頃どうしているかしらね。シスンを辞めさせたことを後悔してたりして」
「うーん。それは、どうだろう……」
久し振りに【光輝ある剣】のメンバーを思い出す。
彼らは上手くやっているだろうか。
俺は今の生活が充実していたので、すっかり彼らの存在を忘れていたのだ。
それより、次のAランクに上がるには、まだまだポイントが足りない。
Aランククエストのドラゴン討伐のクエストは、未だに達成されていない。
先日もAランクパーティーが挑んだが、大怪我をして命からがら逃げ帰って来ていたのだ。
だから、俺達がAランクになってドラゴンを討伐しないといけない。
今は街に被害は出ていないが、だからといって安心はできないのだから。
俺がAランクに必要なポイントを計算していると、掲示板の人だかりがざわつき始めた。
アーシェが俺の脇腹を肘でつついて振り向かせる。
「ん? 何かあったか?」
「あれ……。ねぇ、見て」
アーシェの視線の先に顔を向けると、掲示板の前で依頼書を頭上に掲げている女の人がいた。
冒険者には見えない。
依頼主だろうか。
旅芸人の踊り子のような、扇情的な衣装を身に纏っている。
「誰かぁ、このクエストを一緒にやりませんかぁ?」
おっとりして間延びした口調。
しかし口調とは裏腹に、困ったような表情で近くの冒険者に声をかけている。
だが、すげなく断られている。
そんな彼女と、俺の目が合う。
「あ、話を聞いてくれますかぁ?」
「え? 俺か?」
俺は自分を指して確認する。
踊り子風の女の人は俺達に駆け寄って、手にした依頼書を差し出した。
「お願いですぅ。私と一緒にドラゴンを討伐してくださぁい」
それは、俺達が狙っていたドラゴン討伐クエストの依頼書だった。
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