over extended. α やさしいあなたの爪先

 すべてを失った日があった。心がこわれて、わたしは。大事なものをすべて。台無しにした。

 どうにでもなれと思った。どうなってもいい。どうでもいい。

 深く長い内偵の果てに辿り着いたのは、どこまでも憂鬱な、灰色の索漠。何もなく、そして、どこへも行けない。

 雨のなか。あれは、朝だったか。街中をさまよい歩いて、そして、どこか分からない街角で。

 うつむいて歩いていたから。あなたの爪先を。この靴を、見た。そして、わたしはあなたに拾われて。だから。わたしはこの靴を捨てたくない。心のなくなっていたわたしが最初に見た、あなたの証、だから。

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