第9話 幸せは逃げていく
『はぁー…。』
「どうしたのちゃん美優?ため息なんてしちゃって?ため息は幸せが逃げるよ?」
『これくらいで逃げる幸せなら逃げれば良いのよ。』
「ほら、こんな至言があってね。"ほろ酔いは幸せ。ガチ酔いは死合わせ"ってね?」
『二日酔いの大学生が考えたのかな?』
「ちゃん美優、いつもより元気ないね。」
『そうかなー…。』
「転職成功したと喜んだのも束の間、その就職した企業のレベルについてけれず、2ヶ月で戦力外通告を受けて試用期間内で辞めさせられることになった社会人くらい元気ないよ!」
『例えが具体的過ぎない?私達女子高生だよ?』
「ちゃん美優のメンタルレベルを分かりやすく伝えてあげたのに。」
『誰によ!?』
「あの美しい空を流れる雲に。」
『会話してくれませんか!?』
「でも、ちゃん美優、苦しそうな顔してた。お茶だと思って飲んだら醤油入ってた時の顔してた。」
『それは、苦しいわね。』
「初めての遠足で心ウキウキさせてたけど、当日に風邪ひいてしまい、行けなかった時の小学一年生みたいな顔してた。」
『やけに具体的なのは何?誰かの経験談なの?』
「あの時、私はみんなの楽しむ姿を想像しながらベットの上でお粥を食べてたっけな。」
『奈緒の経験談なの!?』
「まぁ、ちゃん美優。いくらみんなからピンクの女優みたいだって騒がれてるからって、そんな落ち込む事ないよ。」
『はい?今なんて言った?』
「落ち込む事ないよ。」
『その前よ!!!ピンクの女優!!!?はぁぁー!?』
「それで悩んでた訳じゃないの?ため息してたし。」
『今、大きな悩みが出来ちゃったわよ!!!』
「そっかぁ。可哀想に。」
『なんで他人事なのよ!!いや、奈緒からしたら他人事だけど!』
「テンション高いなー、醤油でも飲む?」
『お茶を飲ませろーいっ!』
「まぁ。聞いてくれ。不慮の事故みたいなものだったんだ。」
『凄いなっ!今日会話する気ないのねっ!?』
「クラスメイトにさ、"ちゃん美優って泣きぼくろがあるよね?"って聞かれたの。」
『ちゃん美優って呼び方が広まってることには突っ込まないでおくわ。』
「でね。"泣きぼくろはちゃん美優のチャームポイントだよ。そのチャームポイントで男を魅了できるようなピンクの女優を目指してるらしいよ。"って思わず口が走ってしまって。」
『奈緒のせいなの!?しかも口走るって、無意識じゃないよね!?悪意100%で喋ったでしょ?』
「不慮の事故です!」
『故意でしょうよっ!』
「もー。頭が固いなー。股は緩いけど。」
『刻むわよ?』
「殺人鬼みたいな眼をしてる…。ごめんって。」
『ごめんで済むなら霊柩車要らないわね。』
「私、遺体になって運ばれてませんか!?」
『もう?情報過多で頭壊れそうよ。』
「そもそもね!ちゃん美優!私はね!ちゃん美優がため息ついた訳を知りたいの!こんなくだらない話をしたい訳じゃないんだよっ!」
『はぁぁー!?骨ごと畳むわよ?』
「畳むって脅し文句初めて聞いた。」
『でも、奈緒が関係するからね。私の悩み。』
「私が?もしかしてこの私の美しさが原因なの!?」
『地球がひっくり返って滅んでもありえないわ。』
「地球滅ぶなら、ひっくり返る必要ないよね!?」
『私、この前奈緒から漫画借りてたじゃない?』
「うん。貸した。」
『その漫画にね。お茶を溢しちゃったのよ。』
「およよ?」
『正確に話すとね。まず、喉が乾いてて、冷蔵庫にあったペットボトル開けて飲んだら醤油だったの。』
「あれ?どこかで聞いたことあるぞ?その話。」
『そして噴き出したら、その先に奈緒から借りてた漫画があって。』
「え?私の漫画、醤油まみれ???」
『うん!!!』
「うわ!すっごい満面の笑み。」
『はー!スッキリしたっ!言うの面倒だったんだよね!言うの面倒だったんだよね!でも奈緒のおかげで言えたよ!ありがとね!』
「面倒って2回も言うかね!?それにまず、私に"ありがとう"以外に言うことがあるでしょ!!!!」
『うん??なんだろ??髪切った?』
「タモリさんかっ!!!」
『ほんと肩の荷が降りた!やっぱり持つべきものは友達ね!』
「私は肩に荷が乗ったよ。はぁー。高かったのにあの漫画。」
『どうしたのため息なんかついて。幸せ逃げるわよ?』
「これくらいで逃げる幸せなら逃げれば良いのよ。」
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