「水蜜桃《すいみつとう》を貪る」

いがいがの産毛。 

皮をめくると瑞々しいのに。


届いたばかりの桃。

持ってきたけれど、ナイフがない。

皮を剥こうと爪を立てた。


「ふうん」

あなたは、私の手から桃を奪う。

シャツのすそでくるむと、両手でころころまわす。

磨かれた桃を陽にかざし、一番赤いところに、皮ごとかぶりつく。


「んまい」

あなたの口の端に滴が光る。


「ほい」

差し出された桃に刻まれた歯型。

不揃いに縁取られた内側は

柔らかそうな白い果肉。


その横にそっと歯をあてる。

軽い弾力の後、吸い込まれるように導かれ、

甘い蜜の虜になる。

もうひと口、もうひと口。貪る私。

視界の端には、あきれ顔。


これは、あなたのハート。

素っ気無いけど、本当は優しい。

だから、独り占めするのだ。


「種までいける」

「さよか !」


あなたが脚を放り出す。

河原を吹く風が、素足を撫でていく。


「あ、馬の鼻、伸びるしぃ」


雲を追うあなたの横顔。

目尻と一緒に、八重歯も笑う。

種になった、あなたのハート。

帰ったら庭に植えよう。


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