4_貴族と庶民との距離は遠いようでやっぱり遠い ①
『えーっ、アイツを誘うって正気か!?』
『あぁ。一応奴も同じ学年の同級生だからな』
『でもよぉ、あの圭だぜ? 一緒に連れて歩いたらどんなトラブルを呼び込むか』
『けどさ。一緒に遊ぶことで奴の心に変化が生まれて、今後騒ぎを起こさなくなるかもしれないぞ?』
『一理あるけど――大地はどう思う?』
『うーん。アイツを誘うのは抵抗あるけど、それに賭けてもいいかもな』
『大地がそう言うなら、もう俺は何も言わないけど……』
『うし、じゃあ圭が持ってるかもしれない最後の良心を信じて誘ってみようか』
「ッタックヨー」
現在は日本史の授業中――なんだが、担当教師が急用で出張したので自習時間になっている。
教師がいないのをいいことにクラスの連中は勉強もせずに友達と雑談してやがる。
ったく、学生の本分は勉強だろっつーの。
そんな俺は優等生で偉いので、一人教科書をひたすらめくり続けている。
中身の文章は一切読まず、ただひたすら最後まで高速でめくっては、また最初に戻ってめくりなおす。これを十何往復としているところだ。
『圭は何がしたいんだ?』
『しーっ。関わると不幸になるぞ』
『相変わらず訳分かんねー野郎だよなぁ』
出たよ。本日も発動いたしましたってか。俺様に対する嫉妬口撃。
「ヲ前等ヨォ。イイ加減嫉妬スル行為カラ卒業シロヤ。モウガキジャネーンダゼ?」
「「………………」」
俺を羨むギャラリーどもは揃って俺を無視して黙り込む。
「ケッ、根性ナシガ。オトトイキヤガレッテンダ。シッシッ!」
バカなクラスメイトの存在を脳内で抹消し、再び教科書をめくる業務に取りかかる。
さっきよりも更に素早く! 華麗に! エクセレントに!!
ベリッ――
「ヤッベ、ページガ破レチマッタ」
ちょっとばかりエレガントにめくりすぎたか。にしても軟弱な紙だな。お前胸板不足!
テープで破れた部分を修復していると、一人の男子生徒が俺の席の前までやってきた。
こいつは――誰だっけ?
名前が分からんが、俺の人生には全く影響しないので覚える気もない。
「……お前は一体何をやってるんだよ」
「見テノ通リ、真面目ニ自習ヲシテルトコロダ」
「教科書にガムテープ貼ったら印字されてる文字が隠れちまわないか……? ま、まぁいいや。今週の日曜日さ、お前暇?」
「ナンデダ?」
「他のクラスの奴らも交えてカラオケに行こうって話になったんだよ。で、せっかくだからお前も誘ってみようかなと思ってな」
「ホホウ。ナカナカ見所ガアル若造ジャネーノ。仕ッ方ネーナァ! ソノ日ハ一日中予定ガ埋マッテタンダガ、全テキャンセルシテソノイベントニ参加シテヤルヨ! アリガタク思イナサイ!」
「本当は予定なんてなんにもないくせに……」
「何カ言ッタカ?」
「なんでもない。じゃあ他の奴にもお前が参加するって伝えとくから」
♪
「遅ぇ!」
「圭の野郎は何やってんだ!」
「待ち合わせ時間を十五分オーバー。誰か連絡した方がいいんじゃねえの? なぁ大地」
「…………誰か圭の連絡先知ってる人ー」
「「「………………」」」
「さすがに事前に連絡先を聞いておくべきだっ――」
「イヨウクソカスドモ! 揃イモ揃ッテ不細工ナ面晒シテンナ!」
やってきましたカラオケ当日。
ふっ、十五分の遅刻か。まぁ一般的には許容の範囲内であろう。
なぜ、この俺様が遅刻したのか。それは――
「お、お前……その恰好……」
「自宅にそんなアイテムあったのか……」
「メタラーみたいな服装だな――思いっきり失敗してるけど」
「ミタイジャナクテ、ソノモノダヨ。歌ウカラニハ、外見カラ整理セネバナルマイ」
光沢を蓄えた黒のジャケット。至る所に穴が開いており、かつピチピチと言えなくもないジーンズ。そして人をどうにかできるんじゃないかってくらい尖った靴。完璧だぜ!
「なるまいじゃねーだろ。まずは謝るところからはじめるんじゃないのか?」
「オウオウドウシタ永田大地。俺ノイケテル雰囲気ニ動揺シテルノカ?」
「確かに逝けてはいるな、うん。で?」
「DE? って何ダヨ」
永田大地含め、メンバー全員がゴミを見るような視線を俺に投げつけていた。
「何か言うことはないのかなぁって。待ち合わせに遅れた時に言っておいた方がいい言葉」
「コンナ所デナゾナゾナンカ出スナヨ。ウーン。本日ハ晴天ナリ! 正解カ?」
「…………ダメだこりゃ」
なぜか永田大地を含めたメンバーは全員溜息を
おいおいおい。まだはじまってすらいないのに疲れてるって、高校生のくせに体力が貧弱だなー。どんだけ夜お盛んなんだよ。俺を見習って少しくらい筋トレしとけよ。
「まぁ、ようやくこれで全員揃ったし、行こうぜ」
「オッ、アレハ!」
目的地に向かう途中、素晴らしいものを見つけたのでそれにハンドタッチする。
「え――お前、気は確かか?」
「女性のマネキンを触ってるよ……」
「あそこまで飢えてるとは……彼女は触らせてくれないのか?」
「愚カナル者! 葵ハ大切ナ彼女ダゾ! ソンナ真似デキルカ!」
「…………そこだけは誠実なのな」
永田大地が驚いた顔でこちらを見ていた。
ふん、俺を一体なんだと思ってんだ。まさか頭の悪い奴だとか思ってないだろうな?
「それがお前の最後の良心なんだな」
「ヲイ待テ永田ガイア。勝手ニ俺ヲ悪ノ塊ミタイニ言ウナ。メンバーニ誤解ヲ与エルダロ」
「なんで名前だけ英単語に直した? ってか、その英単語お前にしてはよく知ってたな」
「舐メンナロングフィールド! 俺ハ邦改高校ニ合格シタ平原圭デアルゾ!」
「えっそれ永田を英語にしたつもりなの? まじかー。こんな奴と同じ学校なのかー俺。まぁウチの高校はお世辞にも頭が良いとは言えないから仕方ないか。中学時代もう少しちゃんと勉強しておけばよかったなぁ」
そうほざいて永田大地は参ったなぁと首を横に振る。そんなにあの世に旅立ちたいのか?
「お前ら仲良いな……」
メンバーの一人は聞き逃しそうな声で呟いていた。
あぁ、マネキンとはいえ、触れるとムラつくなぁ。
♪
「道行く人たちの視線が最高に痛かったな」
「まぁ原因は十中八九アレだけど」
「圭のあの恰好、キャラや顔と合ってなさすぎるだろ」
「ついでに言うと髪型とも合ってない。なぜ髪型には拘らなかったのか」
「角刈りだからそこは手がつけられなかったんだろうな」
「あと体型とも合ってないよな」
「ウォ~イ、ヲ前等! ソコデ井戸端会議スンナヨ! 早ク中ニ入ルゾ! 俺様ニツイテキヤガレ!」
俺は先陣を切り、颯爽とカラオケ店へと入店するのだった。
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」
「凡人バカ四名、スター一名デ」
「ス、スター……?」
「五名です」
「五名様ですね。お時間はいかがいたしますか?」
「ハイ、プライスレスデ!」
「え、えっと…………?」
「二時間でお願いします」
「かしこまりました。ドリンクはワンドリンク制とドリンクバーどちらになさいますか?」
「バーナラソノ辺ノ店ニ行ケバイイカラノードリンクデ」
「ドリンクバーでお願いします。圭、お前はこれ以上喋るな」
「オ兄サン、スマイルクダサイ」
「だ・ま・れ」
「ははは……ご、ごゆっくりお楽しみください~」
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