3_愛情とは常に上書きされるもので不変性はなし ③
「ああ、もちろんお断りさ」
「エエエエエェェェエエエエーーーーーーッ!?」
そんなバカな! この俺を紹介しないだと!? こいつ、頭がイカれちまったか!?
「考えてもみてくれよ。お前みたいな奇人、姉貴に限らず他人に紹介するなんて言語道断だよ。紹介した俺の信用問題にも関わるでしょ」
すまん。大原の言ってることが全く分からないぜ。
「要は、まず誰かに紹介できる最低限の人間性を身に付けてくれ。話はそれからだ」
なぜ、俺を紹介してくれないんだこの豚は。
「ナ、ナラ妥協案ヲ提示スル! 今日ノ夕方、姉ハドコニイルノカダケデモ教エロ!」
「いや、俺も知らないし」
「ハナアアアアアァァァァァアアアアアアーーーーーーッ!?」
それすら断られるってなんなんだよ!
――ん?
……あぁ、なるほど。そういうことか。それなら合点がいく。
「大原、貴様――自分ノ姉ヲ恋愛対象トシテ見テルナ? デ、コノ! コノ俺ニ姉ヲ取ラレソウダカラ必死コイテ阻止シヨウトシテル。違ウカ?」
普通は姉を異性として意識することはないだろう。
だが、あの美女相手に常識は通用せん!
「そんなわけないじゃんか。俺の性癖は普通だよ。ただ、変な奴と絡ませたら姉貴に申し訳ないからな」
「ソンナコト言ッテ、俺ガ怖インダロ? 姉ヲ巡ッテ戦ッタトシテモ、俺様相手ジャ誰一人トシテ叶ワナインダカラナ!」
「いやいやいや……確かに違う意味で怖いけどさぁ」
「大原、もういいんじゃないか。悲しい現実を伝えてやろうぜ」
「ナンダ永田大地? 何カ知ッテルノカ?」
下らない情報だったら即、その頭をかち割る!
「お前がゾッコンの美女には彼氏がい――――」
「アアアアアアアアアーーーーッ! 聞コエナーーーーイ! ボキュ聞キョエナイニョーーーーッ! 誰カ、誰カ助ケテクレーーーーーーーーッ!!」
「聞こえなかったならもう一度、いや何度でも言ってやるよ。大原のお姉さんは既に付き合って――」
「フヌヲオオオオオオオオゥ! ヤメローーーー! 言ウンジャネェ! ソレ以上ハ言ワセネーヨ!」
「聞こえないのか聞きたくないのかどっちだよ。だ・か・ら~、大原のお姉さんはだな――」
「イイ加減ニシロ! 弱イ者イジメヲシテ面白イノカ!? 断ジテ認メネェ! 認メテヤラナインダカラナーー!」
そう永田大地に言い残し、俺は教室を飛び出しそのまま校門を抜けて通学路を逆走する。
授業がはじまった頃だけど、それどころじゃない。
俺には――俺にはやらなければならないことがあるんだ!
それは大原姉を一生幸せにすること!
そしてそれができるのは世界でただ一人!
そう。この、平原圭様だけだ!
そのためにも、必ず大原姉を探し出してみせる!
♪
日も沈みかけた頃。
ようやくお目当ての人物を見つけることができた。
ここは駅前にある大型ショッピングモール内の一角。
一人で洋服を眺めている大原姉の姿がそこにあった。
「マタ一ツ、奇跡ヲ起コシチマッタゼ……」
さすがに疲れた。学校を飛び出して大原姉を探しはじめてから既に六時間以上が経過していた。俺の鋼の肉体を持ってしても身体はボロボロだぜ。
だが、ここまで来たら後はハッピーエンド一直線! 俺のラブストーリーは佳境に差しかかってるところだぜ!
俺は男だ! 男ならここで決めなきゃならない! でなければ男が
大原姉の近くまで歩みを進め、ついに距離にして一メートルのところまで迫ったところで。
「アアアアアアノウ! チョオーットイイッスカアアァ?」
俺はマーベラスな先制攻撃をしかけた。
「……はい?」
洋服を眺める作業を止めた未来の嫁の視線が俺とぶつかる。
うっひょ~! 最高だぜ! ドキドキしまくりだぜ! 下半身STAND UPだぜ!
「あの、なんでしょうか?」
大原姉は首を傾げて困惑した表情を浮かべている。
俺は地面に膝をつき、土下座の態勢を作り上げる。
そして、
「ス、好ッキーデース! 結婚シテクダッサーイ!」
愛の告白をした。
「…………え? え!?」
大原姉は絶句している。
「……あのぅ、誰かは知りませんが、私には付き合ってる彼氏がいるので結婚はできません。ごめんなさい」
……………………。
うっそ~。今、フラれた? お断りの返事もらっちゃった?
「ソ、ソンナ! 僕ノドコガダメナンデスカ!? 言ッテクダサイ! 悪イトコロハ直シマスノデ!」
「どこっていうか――あなたは誰でしたっけ? どこかでお会いしました?」
大原姉は困った笑みを浮かべて戸惑っている。
「付キ合ッテル? ソレハアナタノ勘違イデス! アナタハ誰トモ付キ合ッテイマセン! 付キ合ッテルト洗脳サレテルダケデス! 思イ込ンデルダケデス! 目ヲ覚マシテクダサーイ! ッテカ、僕ト大人ノキッスヲシテクダッサーイ!!」
「な、なんなのこの人――――だ、
大原姉は大声を上げはじめた。
すると、
「大声出してどうした!?」
大原姉の彼氏らしき人物が駆け寄ってきた。
185センチはあるであろう長身に、服を身にまとっていても分かる、俺以上の筋肉をつけた鍛え抜かれた身体。
「ん? あなたは誰ですか」
目が合った。やばい、これはかなりやばいパターンだぜ。
「イエイエ、マッタク怪シイモノジャアリマセンヨー。タダノ通リスガリノ真面目ナ若者デスヨー」
「大輔くん、あのね――」
大原姉が彼氏らしき男に事情をかいつまんで説明している。
おいおいおいおい、何余計なこと喋ってんだよこのクソビッチは!
「ほうほう。おいお前。お前さ、人の女に手を出そうたぁ実に勇敢な高校生じゃないか、ん?」
「オ、オ褒メニ預カリ光栄ザンス……」
俺はじりじりと後ずさるが、相手もニコニコしながらにじり寄ってくる。
いよいよマジで自身の身が危なくなってきたぞ。
「俺は大学でラグビーをやってるんだ。腕力には自信があるぜ」
男は指を鳴らしはじめた。
「大輔くん。喧嘩はやめてね」
「安心しなって。乱暴はしないよ。ただ――」
俺に近づくなり男は、
「次はないぞ。命は大切にしろよ」
と真顔かつドスのきいた低い声でボソリと
「サ、サーイエッサー……」
俺はただただ、カップルに土下座百連発をすることしかできなかった。
まさか二日続けて土下座をする羽目になろうとは。
♪
翌日の昼休み。
昨日の無断早退を教師にこってり絞られた後、校舎裏で昼食をとりはじめた。
と、隣で弁当を頬張っていた葵が俺の顔を見て小首を傾げる。
「元気ないね、どうしたの?」
「人生ッテ難シイッテ思ッテナ……」
上目遣いで心配そうな表情を見せる葵に、俺は引きつった笑顔を返すことが精一杯だった。
やっぱり俺には葵しかいない。お前は最高の彼女だよ。
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