3_愛情とは常に上書きされるもので不変性はなし ②

    ♪


 翌日。

 俺の腹は決まった。

 そのついでに将来の夢も見つかったぜ。

 昨日の美女と付き合う。そして葵とも引き続き付き合う。

 つまるところ二股を強行することにした。そして葵、美女それぞれ二股に気づかれないように付き合う。

 俺ってどこまでも天才だな。これで両手に花じゃねーか。

 分かってる。二股は恋愛市場でタブーとされていることの一つ。

 そこで将来の夢に話がおよぶ。

 俺が内閣総理大臣になって一夫一婦制を一夫多妻制に変えれば、二股が完全な悪から必要悪に変わる。

 いや、二股どころか三、四――日本女性全員を俺の妻にすることすら可能となる。

 ま、そうすることであぶれる男が出てくるけど、それはしょうがないよな。恋愛は相手ありきなので、努力すれば誰でもできるものじゃないのでね。

 そんなことを考えながら永田大地のクラスまで足を運んでいる最中だ。

 用があるのは永田大地ではなくデブダルマなんだけどな。昨日の件について聞いておかねーと。

「オウオウ! デブダル――大原ハドコニイルンダ? 隠レテネーデ出テコイヤ!」

 永田大地のクラスに到着した俺は、半開きだった教室のドアを足で乱暴に全開にしてデブダルマを呼び出した。

「大原に何の用だ? 茶化しに来たんなら痛い目に遭わないうちに出てけ」

「アンダァ永田大地! 人格者ノ俺ガソンナコトスルワッキャネーダロ!」

「昨日思いっきりしてただろ……」

 まったく、コイツはアホな戯言ばかりぬかしおる。いつかボコボコにしてやるから覚悟しとけ。

「はぁ。大原ならトイレだよ。戻ってくるまで廊下で待ってろ」

「仕方ネーナー。ソレデ我慢シテヤルヨ」

「いや、だから廊下で待てって言ったろ? ちゃっかり俺の机の上に座るなよ」

「ッタク、座リ心地ノ悪ィ机ダナァ。俺ノ机トエライ違イダ」

「だからどけというのに」

 さっきから永田大地が吼えている。わざわざこうしてお前のクラスまで足を運んでやったというのに、いちいち注文の多い奴だぜ。

「小言臭イ男ハモテナイゼ?」

「少なくともお前よりかはモテると思うが」

「チョットダマリ~ナ! 根拠ノナイ話ヲサレテモナ。ソモソモ俺ニハ彼女ガイルッテコトハヲ前モ知ッテルダロ?」

「それはな。彼女も可哀想に。お前に弱みを握られ脅されて、無理矢理付き合ってるってことにされて。お前、彼女の人生を粉々に壊して何が楽しいの?」

「ハァ? オイコノウスラドッコイ星人! 葵ノ方ガ俺ニベタ惚レナンダヨ! 愛ノ告白ダッテナァ! 葵カラサレタンダヨ! ヲ前ハ、今マデ何人ノ女ノ子ト付キ合ッテキタンダ?」

「三人だな」

「フン、ヲ前ミタイナチビスケト付キ合ッテクレタ女ノ子ガイタ過去ニ感謝シナ。モウソンナチャンスハ二度トヲ前ニハ訪レナインダカラナ!」

 永田大地に指を差して衝撃の事実を伝えてやった。

 残念ながらこれ、真実なのだよ。

「へーへー、そうっすね」

「オノルァ! 軽ク受ケ流シテンジャネーヨ!」

「……大地。なぜここに圭がいるんだ?」

 二人で口論しているうちに教室に戻ってきた大原が怪訝そうな顔で俺と永田大地を交互に見ながら口を挟んできた。

「オウ、ヨウヤク戻ッテキタカ! ヲ前ニ聞キタイコトガアルンダヨ。ホレ、適当ニソノ辺ノ椅子ニデモ座レヤ。ナァニ、遠慮スルコタァネーヨ」

「すんげー偉そうに言ってるけど、ここはお前のクラスじゃないぞ? お前が遠慮しろ」

「ウッセタコ! 関係ネー奴ハスッコンデロ!」

 永田大地が横槍を入れてきて耳障りなので優雅に黙らせた。

「ヴァカガヤカマシクテ悪ィナ。デ、話トイウノハ他デモナイ。昨日、ソレハソレハ綺麗ナ女ト二人デ百円ショップニイタダロ?」

「は? あ、あぁ。そうだけど」

 大原は俺の質問に驚いた表情を見せる。

「昨日タマタマ百円ショップニ入ッテミタラヨ、スンゲー美女ヲ発見シテナ。綺麗ダナーッテ眺メテタラ、不細工ナデブ男ガ美女ニ近ヅイタンダヨ。ソウ、ソレハヲ前ノコト」

 そう言って大原に指を差す。

「質問者のくせにずいぶんと言葉と態度が悪いじゃないの」

「スッコンデロッツッタロ!? 消エロ!!」

 まったく、いちいち話の腰を折るんじゃねえよ。ちっとも捗らないじゃねえか。

 ほら、大原は眉間にしわを寄せて俺を睨んでいる。永田大地、お前のせいだぞ。死ねや。

「単刀直入ニ聞コウカ。ヲ前ト一緒ニイタ美女ハヲ前トドウイウ間柄ナンダ?」

 恋人とかぬかしやがったら、俺は中国式の武力行使でこいつからあの美女を略奪してやる。

「どういうも何も、姉弟だよ、姉弟」

「…………ハイィ?」

 思わず間抜けな声を発してしまった。

 いやいや、それはいくらなんでも予想外だっつーの!

「ブハハハハハ! マジデー? イヤイヤ、ソンナハズアルカバカヤロー! 顔面ノレベルガ全然違ウジャネーカ! 顔面ダケジャナクテ、スタイルモ天ト地ノ差ダヨ! 遺伝子仕事シロ!」

 俺は床を転がりながら腹部を抑えて大爆笑する。

 いやいや、それはギャグでしょ! 頼むから腹筋を痛めつけないでくれ!

「ヲ前ト昨日ノ美女ジャア遺伝子レベルデ別物ダロウガ! グブッ、グフォフォブェ!」

「心底気持ち悪い奴だな。大原の言う通りだ。大原には大学生のとても綺麗なお姉さんがいる」

 永田大地は笑い転げる俺を凍てつく視線で睨みつけながら断言した。

「オ、オイ! 本当ニマジナノカ……!?」

 俺はすごい勢いで大原の両肩に手を置き、その両肩を揺さぶって真意を問う。

「あ、ああ……」

「おい圭、少しは落ち着けよ」

 永田大地は大原の両肩から俺の手を無理矢理引き剥がした。

「ソウナノカ――ソウナノカソウナノカ、ソウナノカ。ソウナノカ」

「おいおいどうした? 脳の中枢ちゅうすうに異常でも発生したか?」

「チッゲーダロ! ソリャヲ前ダロ!」

 人が今いい気分になってるってのに、いちいち余計な口を挟むんじゃねえよ。

「ソウカ、ジャア今後ヲ前ハ俺ノ弟ニナルンダナ」

 再び大原の肩に手を置き、俺は高らかに言い放ってやった。

 美女を将来の妻にしたら、その弟の大原は俺の親戚になるんだもんな。ビジュアル面に甚大な疑問が残るけどここは我慢。

「は、はぁ? また意味の分からないことを……」

「ノンノンノノノン! 俺ハヲ前ノ姉ニ惚レチマッタンダ。俺ヲ惚レサセタ責任ハキッチリ果タシテモラワナイトイケナイ」

「それ女! 女の台詞!」

 大原が実に下らないことに突っ込みを入れてきた。細かい奴だな、みみっちい。

「お前にはなぜか既に彼女がいるだろうが。信じ難い事実だがな」

「フッ――愚問ダ、永田大地! 葵ハ俺ノ彼女! ソシテ、大原ノ姉トモ付キ合ウ!」

「「………………」」

 二人は揃って硬直したまま数秒の間動かなかった。瞬間冷凍か何かか?

「お前はどこまでクズ野郎なんだよ。それはれっきとした二股だろうが。そんな道徳心もなしに今まで生きてきたのか?」

「ソウ言ッテクルト思ッテタゼ。聞キナ、ゴミドモ! 俺ハ将来内閣総理大臣ニナル。ソシテ一夫多妻制ヲ導入スル。ソウスリャ俺ノ行イハナンラ問題ナイダロ?」

「お前が総理大臣になるまでには何兆年かかるんだ?」

「ヴァカ言ッテクレルナ。今年中ニハナル」

「……はぁ。あまりに突っ込む箇所が多すぎるから一つだけ。現時点で高校生のお前には無理。被選挙権がないから総理大臣はおろか、政治家にすらなれないぞ」

 永田大地は真顔でそう切り返してきた。

「――ヘ? ナ、ナンダト……」

 がっくりと項垂れる俺。なんてこった。奇跡の男である俺でも、簡単には総理大臣になれないなんて。

「いやいや、そんなことちょっと考えれば誰でもすぐ分かると思うんだけど……そもそも一夫多妻制を実現する前での二股は普通にアウトだし」

「ウッセ大原! オイ、貴様ニ頼ミガアル! 俺ニ姉ヲ紹介シヤガレ!」

「それが人様にものを頼む態度か? 頼み事はもっと謙虚に出るものだぞ」

「ダ・マ・レ。テメェニハ言ッテネェカラ永田……大地ィ!!」

「きったねぇな。顔にお前の唾がかかったじゃないかよ」

 永田大地は顔についた唾を拭き取った。どうせ元の顔が汚いんだから気にするなよな。

「それはそうと大原。今の話、どうするんだ?」

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