4_貴族と庶民との距離は遠いようでやっぱり遠い ②

「おぉー、広い部屋だなー」

「フッ、コノ舞台ニ貴様等雑魚ドモデハ役不足ダガ、マァイイダロウ」

「お前、役不足の意味分かって使ってるか?」

「細ケェコタァ気ニスンナ。ヨシ、俺カラ歌ウゼ!」

 永田大地の低俗なツッコミを軽くいなして機械を操作し曲を入れようとする――が。

 実は人生初カラオケの俺にこの機械を操るのは至難の業で、どうあがいても予約ができない。

「オイコノ機械オカシイゾ! 曲ノ検索ガデキネェ!」

 将来世界を担うこの俺様に反逆しようとは、見上げた根性してやがるじゃねえか。

「お前、カラオケ来たことないのか?」

「冗談ハ吉手よしてサン。毎日行ットルワ。イヤァ今日ノ機械トハ相性ガ悪ィナ」

「だー、検索はここを押してこうするんだよ」

 意地悪な機械から陰湿なイジメを受けている俺に救いの手が。

 やはり持つべきものは部下だな!

「オォ悪ィナ、ヲ前モタマニャ~役ニ立ツナ。褒メテツカァソウ」

「なんで役に立てて腹も立てねばならんのだ――俺、損しかしてなくね?」

 俺の部下一号はなぜかうんざりした表情で、自分が予約する曲をもう一台の機械のディスプレイと睨めっこして探している。シケた面してると幸せが逃げていくぞ。

 俺はその裏で有名男性アイドルグループの新曲を予約する。

 ほどなくして前奏がはじまった。

「フッ、俺ノ美声ニ酔イシレナ」

 俺は熱唱する。正直よう分からん曲の上に、アーティストすら詳しく知らない。

 ではなぜこの曲をチョイスしたか。それはズバリ、スタイリッシュでオサレなイメージをメンバーに与えるためさ!


「コイダノォ~アイダノハァ~ア~ステ~サリィゥウェーイ~♪」


「…………うっわ~。こりゃあひでえや」

「抑揚なし、しかも片言。音程は一切合ってない」

「これは低得点だろうなぁ」


 メンバーどもがどよめきの声を上げている。俺の歌唱力に驚いているようだな。

 そしてファーストソングを無事に歌い終え、採点結果が表示されるのを待つ。

 出た点数は――――……。


「プッ……8点……」


「採点はどんなに音痴でも50点は超えるように設定されてるものだと思ってたよ」

「圭よ。神はお前に一物すら与えなかったようだな。前世でどんだけ残酷非道な悪行を積み重ねたんだよ。まさに因果応報、だな」

 永田大地がポンと俺の肩を叩く。けがれるから触るんじゃねえ。

 それに俺は前世では徳しか積まなかったからこそ、今世こんぜは神の子として生を受けたんじゃアンポンタンめ。

「チョッチー! 機械ノ調子ガオカシイゾ!」

「おかしいのはお前の歌と頭だよ」

「そもそも、果たしてアレを歌と呼んでいいものかどうか」

「歌と認めたらそれは音楽への冒涜だな」

「ンナ余裕カマシテンナラ、貴様モ歌ッテミロヤ!」

「いいぜ、平均くらいは歌えると思うぞ」

 そう言って永田大地はマイクを手に持ちスタンバイする。

 前奏から察するに――ロックか。しかもテンポが早い。奴の歌のスピードがどこまで通用するか、高みの見物といくか。

「尖った野郎をぶちのめして~♪ 男の道を突き進む~♪」

「さすが大地、相変わらず上手いぜ!」

「音の強弱、抑揚、ビブラートも効いててまるでプロだ!」

 永田大地の歌は悔しいが紛れもなく上手かった。天はどんなゴミカスにも一つくらい特技を与えてくれるんだな。

 永田大地の歌が終わり、表示された採点結果は――――92点。

「……オカシイ。コノ採点マシーンハ故障シテイル――骨折シテイル!」

「圭、分かったか? これが『歌』だぞ」

「ヌヌゥ……大声デ叫ブコトシカ能ノナイアホウドリガ……」

「奇声を上げることに関してはお前には叶わんよ」

「二人ともやめろよ。今日は歌いに来たんだぞ。口喧嘩じゃなくて歌で喉を使えよ」

「そうだったな。すまん」

 次は先ほど俺に機械の使い方をレクチャーしてくれた奴が歌う。

 特別上手くはないが、そこそこの歌ではあった。

 以降も他の奴等が歌ったが、点数はどれも70点を超えていた。

「マサカ、機械ニマデ嫉妬サレル日ガ来ヨウトハナ……自分ノ才能ガ恐ロシイゼ」

「お前、頭大丈夫? ほら、お前の番だぞ。ってか事前に曲予約しておけよな」

「ヘイヘイ、今入レルカラドッシリ構エトケ名モナキモブドモ」

 再度俺に順番が回ってきたので二曲目をチョイスする。

 前奏が流れ始め――――


「……こ、国歌独唱……」

「こいつ、日本全体を愚弄する気か?」

「死にたがりはここにいたか……」


「$~▼§~Ю~~全∧~~」


 俺をここまで立派に育ててくださった全ての者への感謝の気持ちを込めて熱唱した。

 曲が終わり、採点結果が表示される――


『採点できませんでした』


 点数以前に採点すらされなかった。

「ハァアアン!? ヤハリコノ採点マシーンハ故障シテイル! インフルエンザニ感染シテイル!」

「何発してるかさっぱり分からなかったしそりゃそうだろ」

「演奏時間が短い曲で幸いだったぜ。もう少しで意識が飛ぶところだった」

「オイコラポンコツ機械! 自我モ感情モ持タナイ分際デ忖度シテンジャネーゾ!」

 俺はマイクを床に叩きつけて不公平極まりないアンパイアを足で蹴る。俺の足も普通に痛いでござる。

「おいやめろよ。これがお前の実力だよ」

「モノに当たるのはみっともないぞ」

「ウルチェーブ! コンナ公平性ヲ欠イタ社会活動、認メン! コレダカラ日本ハダメニナルンダ! 金ト権力デ情報操作ナド、八百長トナンラ変ワラナインジャボケナスビーナスオタンコナス!!」

 理不尽な名誉棄損を受けた俺は室内に設置されている受話器を取り、店員と電話が繋がるのを待つ――

 が、他のメンバーに受話器を戻されてしまった。

「何言うつもりだよ!」

「決マッテルデショーガ焼キ! 機械ガ壊レテルカラクレームヲ言ウンダヨ! コノ俺ニ恥ヲカカセヤガッテ! 許サレル事態デハナイ! 設備改善ヲ申シ入レル!」

「圭。悲しいけどこれは現実だから。諦めるんだ」

 永田大地がポンと俺の肩を二回叩く。腐るから触んな。


 そんなこんなで仕切り直しで他の奴が歌ってる最中だが、ハートとともに喉に潤いを与えたかった俺はドリンクバーに赴いた。

 ふむ。これがドリンクバーと呼ばれる機械か。様々な飲料が定額料金で飲み放題なのでコスパがいいな。

 ま! 俺様が飲むものは決まってるんだがな!

 お目当ての飲み物を探す――――が、どこにもない。

「見落トシタカ……?」

 再度、飲み物を一つずつ確認する。


「ジンジャエール君、メロンソーダチャン、カルピス様、ファンタオレンジサン……」


『あの人、なんで一人で飲み物の種類を全部読み上げてるの?』

『ヤバそうな奴だな。俺たちもドリンクバー使いたいんだけどなぁ』

『てか、服装いかつくない?』


 俺はドリンクバーの機械を抱きしめ、近距離で商品名を朗読し続けるが、

「コーラ、ガッ! ナイッ!」

 ペプシはあるものの、お目当てのコーラがなかった。

 コーラがないとか、白米のない卵かけご飯と同じじゃねーか!

 頭にきたのでその場で、ドリンクバーの向かいにあるフロントに突っ立っている、先ほど受付をした店員に物申す。

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