2_友達になるきっかけは所詮きっかけにすぎない ②
♪ ♪ ♪
「ココガ今日カラ俺ガ生活スル学ビ舎カ」
自分が一年間生活する教室を見渡す。
見たところ、俺のライバルになりそうな奴はいない。
「当然ダナ。天才ノ俺ト張リ合エル逸材ナンテ、ホトンド存在スラシナインダカラナ」
ひと通り教室内にいる生徒を見渡し終わり、俺は鼻を鳴らした。
「高校デモ俺様ガナンバーワンニナリソウダナ」
クラスにいる連中はお互いに声をかけ合っている。入学したばかりで誰もが心の壁を作る中、その壁をブチ破ることに必死だ。
っと、ぼうっと眺めてる場合じゃない。俺様も奴隷候補を探さないとな。
生徒どもの様子を伺う。早速ちらほらグループができ上がりかけていて、会話が弾んでいるグループも見受けられる。
よし。俺様のダチ量産計画、始動開始。
クラスで最も華やかなグループ――派手な見た目の女子が五人集まっているところへと足を運ぶ。野郎とつるんでもメリットはないしな。
やはりここはカワイ子ちゃんたちと仲良くなって潤いあり、実りありの青春を過ごしますかね。
「ヘイヘイヘーイ! ユウヘイショウヘイコウヘイテッペーーーーイ! 女子生徒タチ! 俺ト危ナイ火遊ビシテミナイカーイ?」
ギャルグループの輪に入った俺は、女子生徒たちにウインクを飛ばした。俺の必殺技の一つ、メロメロウインク。
受けてみろ、これで俺にイチコロだぜ! この必殺技を食らって落ちなかった女は未だかつていない。
「え? なに、この人」
「なんかいきなり妙なのが来た……しかも変な喋り方」
「マジキモーイ、どっか行ってくんなーい?」
あからさまに俺の登場を歓迎しない女子ども。中にはシッ、シッ! と野犬を追い払うような手振りをしてくる女子もいた。
だが俺の目は誤魔化されないぞ。こいつらは例外なく俺に一目惚れしたな。
「君タチノ気持チハトテモ嬉シイガ、日本ハ一夫一婦制ダカラナ。俺ト付キ合エルノハ一人ナンダ、スマンナベイベェー!」
さすがに五人全員とは付き合えない旨を伝える。モテる男って大変なんだぜ?
「いきなり何言っちゃってんの? 気持ち悪すぎんだけど」
「無視無視。かなり危険な臭いがするって感じ」
「頭おかしいんじゃない? 病院で診てもらいなさいよ」
おお、これが噂のツンなんとかってやつか。リアルで見たのは初めてだ。
感慨にふけっていると、女子グループのリーダー格と思わしき女子生徒が口を開く。
「クズは消えなっ! 言っとくけど、あたしらにちょっかいを出したらタダじゃ済まさないよ」
いつの間にかその女子生徒に胸倉を掴まれていた。あぁ、香水の匂いが堪らんなぁ。
しかしマジで殺意を感じる。しょうがないからこの子たちは諦めるか。
女性の中には『イケメンなんて嫌いっ! 顔だけで中身がない男は論外!』って言う人や、『イケメン嫌いな私ってカッコイイ?』って思ってる人もいるらしいからな。俺がイケメンだから敬遠されたんだろう、うん。
イケメンがみんな顔だけというのは酷い憶測だ。だって俺はイケメンでかつ優しいのに。それに、イケメンが嫌いだと言ってもどうせ心根はときめいてるんだぜ? それでは女性側の主張には説得力がない。素直じゃないと幸福は掴めないんだな。
それから俺は片っ端から女子生徒に声をかけたが、ことごとく交流を拒絶された。
おいおい、わざわざこの俺様が声をかけてやってるのにつれない女子生徒たちだな。
いや、きっと照れてるんだろうな。俺ほどの偉大な人間相手に本音では接すれまい。
仕方がない。不本意ではあるけど、クラスのオス豚どもと仲良くしてやるか。なにかと利用できるだろうしな。
俺は楽しそうに会話を繰り広げている数人の男子グループの輪に入り込もうとする――
待てよ。声をかけるだけじゃ普通すぎて俺のすごさが伝わらないんじゃないか?
ここは一つ、愉快な登場をして連中にインパクトを与えたい。
そうと決まれば。
「へー、お前
「ガラが悪くて大変だったよ」
「確かにあそこはなー。俺の中学は平和でよかったわ」
「それは嫌味ですかそうですか分かりましたよ」
「「「はははは」」」
「ところで今日学校が終わったら――」
「テイヤットォ!!」
「いってぇ! な、なな、何が起こったんだ!?」
俺は男子生徒の一人に軽い挨拶をした。これで俺たちは友達だな。相手が男というのがどうにもショボいが我慢しておいてやる。
「フハハハッ、俺ノパンチノ威力ハドウダッタカナ?」
何が起こったのか分からず、しばしの間男子グループは全員呆気に取られていたが、俺の存在を把握した男子が声を荒げた。
「てんめぇ、何しやがる! 俺に恨みでもあんのか!」
声を上げたのは先ほど俺の挨拶を受けた男子だった。
「挨拶ニ決マッテンダロ。全員ブサイクデバカッポソウダガ妥協シテヤル。コレカラ仲良クヤロウヤ」
「バカはお前の方だ! いきなり人に向かって背後から肩パンするような頭のおかしい奴と仲良くできるか!! 謝れよ!」
「友達ニナロウッテ言ッテヤッテル俺ニ謝レト? 失礼極マリナイナ。ヲ前コソ謝レヨ」
「はあああっ!?」
なぜか俺と肩パンを受けた相手は一触即発状態になっていた。どうしてこうなったんだ?
「俺ハ見テノ通リカッコ良クテ天才ナンダヨ。ソノ俺様ガヲ前等凡人ト仲良クシテヤルッテ言ッテンダカラ感謝コソサレド、キレラレル覚エハネエンダヨ」
「バッカじゃねーの? 天才がこんな偏差値の低い高校に入学するかよ!」
「ヘーサチ? 意味ノ分カラナイ言葉ヲ使ウナヨ」
「偏差値の意味すら知らないくせにどの口が天才とほざくんだよ!」
「コノ美シク立派ナヲ口ダケド?」
俺は自分の両手人差し指を口の中に入れた。
「あのなぁ!」
「マァマァ、天才ノ俺様ニ嫉妬スル気持チハ分カラナクモナイガ、ソウカッカスンナヨ」
「……そうだな」
一つ深呼吸をして、男子生徒は俺の意見に同調する。
「馬鹿馬鹿しい。お前みたいな人間に怒っても時間、いや人生の無駄だ。金輪際お前と仲良くする気はない。今すぐ自分の席に戻って大人しく座ってろ。そうすれば誰も不幸にならずに済むからな」
何を言われてるのか一瞬分からなかった。
「コノ俺ヲ仲間外レニスルダト? ソンナ暴挙ガ許サレルトデモ思ッテンノカ?」
でもその言葉の意味を理解した俺はすぐさまゴージャスな反論を展開した。
「許すもなにも、お前なんて端っからクラスメイトですらねーし」
「紛レモナク同ジクラスダロウガ!」
「学籍上そうなってても俺は認めない。お前みたいな奴、お断りだ!」
「そうだそうだ、いきなり肩パンしてくるような人外はどっか行け!」
「かーえーれー! かーえーれー!」
今まで黙ってたグループのメンバーまでが俺を攻め立てる。
なんでだよ! 俺はただ、友達を作ろうと一生懸命行動しただけじゃねーか! それなのに入学初日からこんな仕打ちを受けなきゃいけないなんて、何の罰ゲームだ!
「「「かーえーれー! かーえーれー!」」」
帰れコールはクラス全体で巻き起こっていた。
信じられないことに、さっき俺が声をかけたギャルグループの女子生徒たちまでもがこの合唱に参戦していた。おいおい、惚れた男に対してそんなことするのかよ。ありえん。
「ヲ前等……天才ノ俺ニコンナコトシテ無事デ帰レルト思ウナヨ?」
今度は俺がブチギレる番だ。
「おいおい、カッカすんなよ。さっき俺にそう言ったのはお前だったろ?」
肩パンされた男子生徒が俺の肩に手を置いて続ける。
「もうお前はこのクラスの中では孤立確定なんだ。高校生活は大人しく過ごして、人様に迷惑をかけない人間になれたその時に、また新たな友達(笑)でも探せばいいさ」
ニヤニヤしながら俺を諭しているつもりでいる男子生徒。
その態度が俺の逆鱗に触れた。
「分カッタヨウナ口聞イテンジャネエゾカスガァーッ!」
男子生徒の手を乱暴に振りほどいて吠えてやった。
そのまま男子生徒の胸倉を掴み、全力で睨みを利かす。
「おお、怖いねぇ。暴力はいかん――」
相手の台詞も待たず、俺は相手の肩を全力で殴った。
その瞬間、クラスの雰囲気が一気に冷たくなった気がした。
「痛ぇ――おいおい、落ち着けって! 入学初日から事を荒立てるな」
「ウッセウッセ! コレデモクラエッ! ペペペペッ!」
俺は必殺技の一つ、ホーリーアクアビームを繰り出した。
「うわっ、汚ね! ツバ飛ばすなよ!」
「雑魚メ! ヲ前等タバニナッテカカッテコイヨ? 全員捻リ潰シテヤッカラヨォ!」
俺はクラス全体に向かって人差し指でこっち来い、とジェスチャーをしてみせる。
「――そこまで言うならやってやるよ!」
「後で後悔するなよ!」
「さて、馬鹿を大人しくさせますかね」
「よし、行くぜ! クラスの平和はクラス全体で守らなくちゃな!」
入学初日にも関わらず一致団結をはじめるクラスメイトども。
ってちょっと待ったぁ!
「オイオイ、俺ガクラス共通ノ敵ミタイニナッテルノハドウシテダ!?」
「それはな――お前が紛れもなく、クラス共通の敵だって分かったからだーっ!」
無駄に一致団結した男子生徒軍団が一斉に俺に襲いかかってきた。
いやはや、大人の俺としては高校に入ってまでこんな真似はしたくなかったんだがな。挑発してきたこいつらが全部悪い。
「フン、雑魚ガ何匹デカカッテキタトコロデ――アギャギャギャーーッ!?」
見事袋叩きに遭う俺。
いやいやいやいや! リンチじゃん! いくらなんでもこの俺でもこれはキツイわ!
「卑怯者ドモメェ! コンナ手口ジャネート俺ニ太刀打チデキネエッテノカ!?」
「お前が自分でタバになってかかってこいって言ったんだろ?」
「ジョークニ決マッテンダロウガアアアアアアア!!」
ボコボコにされた俺は為す術もなく自分の席まで搬送され、俺の美しい身体は俺の自席の上に投げ出された。
「これに懲りたら他人にいきなり殴りかかるのはやめろよ」
「ったく、こんな馬鹿と一年間過ごさなきゃいけないとはな」
「入学初日から気分悪い~」
俺が痛みで声すら出ないのをいいことに、クラスメイトどもは好き放題言いやがる。
クソッ、いつもならこんな奴等、一撃でミンチにしてやるところなのに……!
「ホームルームを始めますよ。皆さん席に着いてくださいね」
そうこうしているうちに担任教師がドアを開け、教室に入ってきた。
仕方がないので痛みを訴え続ける身体を無理矢理椅子に座らせる。
担任教師はいかにも事務的なイメージが強い中年男性で、何の面白味もなさそうな人物だった。
ちぇっ。美女だったら付き合ってやったってのに。
ん……? 担任?
そうか! その手があったか!
「セェセィッ!」
「ん? なんですか? ――えーっと、平原圭君、かな?」
座席表を見て俺の名前を確認した担任は俺に発言を促す。
「イエッサー! 俺ハ平原圭デス! セェセィ、アナタヲ俺ノ友達ニシテヤリマショウ!」
「……はい?」
担任は表情一つ変えずに俺に聞き返してきた。
もう少し早く気がつくべきだったな。担任を仲間にできれば、その権力を使ってクラスの連中を顎でこき使えるじゃないか!
さっきは散々痛い目に遭わせてもらったから、仕返しはきっちりしないとな……グヘラァ!
「セェセィ、コノ俺ト友達ニナリマショウ」
「君は面白いことを言うね。そこで私がはい、と答えたらどうなると思いますか? 私は多方面から『一部の生徒を依怙贔屓している』と大バッシングを受けてしまいますね」
担任はハハハと笑う。話を流そうとしてるみたいだけどそうはいかん!
「コレハ運命デス! 俺トセェセィハズット出会ウコトガ運命デ定メラレテタンデス! ダカラ俺ト友達ニナルノハ必然ナノデース!」
「そうかそうか。その意気で頑張ってクラスの人気者になって、そのまま世界を征服してくださいね――おや、皆さんどうしました? 平原君に対してここは軽く笑うところですよ」
担任は教室を見渡すが、誰一人として笑う者はいない。
そりゃそうだろう。俺は入学初日にして、クラスメイトどもに敵視されちまったんだから。まったく、嫉妬されると疲れるぜ。
「グッ……使エネー先公ダ……文部科学省ノ犬ッコロメ」
担任に友達になってくれる気がないと知った俺は小声でごちる。
こりゃ今年一年は四面楚歌をモットーに頑張るしかないな。
それが入学初日の出来事だった。
結局クラスメイト全員に俺の才能を嫉妬されてしまい、ずっと単独行動で過ごす羽目となった。
ま、今年のクラスでも一人なんだがな! どこに行っても皆が俺に嫉妬し、仲間外れにしてくるから俺はいつでも孤高の存在なのさ。
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