2_友達になるきっかけは所詮きっかけにすぎない ③
♪ ♪ ♪
だけど、俺が孤高の天才だからといっていつまでも無所属でいるわけにもいかない。世間体もあるし、このままではいずれは葵にぼっちなのがバレてしまうだろう。
そうしたらドン引きされて別れを告げられてしまうに違いない。その前に、なんとか部下を発掘しておかないとな。
放課後。
今日は職員会議で部活動もないので、生徒たちは一斉に校門へと向かってくる。
俺はというと、いの一番に校内から出て校門前の壁にもたれかかっている。
ここから帰宅する生徒を見て、友達になれそうかジャッジ。なれそうならアプローチを行って友達GET、って寸法のダチ量産計画を実行に移している最中だ。
こんな神憑り的な方法を午後の授業中に編み出し、即日実行する俺の知力と行動力には自分でもビックリしている。あぁ、自分の才能が本当に恐ろしい。
普段なら職員会議の日は葵と帰るところだけど、今日だけは用事があると言って下校をお断りしておいた。
はてさて、そんなことを考えてる間も生徒たちは続々と校門を通り過ぎてゆく。
「ウーム、俺ノヲ眼鏡ニ叶ウ奴ガイネーナー」
なぜこの学校はこうも不作なんだ。生徒の質が低すぎる。
邦改高校は周囲から地味校と言われているらしいけど、今ならその理由がよく分かる。
中学時代は俺に対抗し得る人材が何人か紛れ込んでいたが、この高校はどいつもこいつも事なかれ主義の平和ボケばかりで骨のある奴がいない。
いや、一応イケメンとかモテそうな奴とか、俺には遠く及ばないものの、なかなか魅力がありそうな奴はそこそこいたんだよ。でも何かが違った。俺をビビっとさせてはくれなかった。
「ヤッパリ、コンナ学校デ部下ヲ発見スルノハ無理カ?」
校門から出ていく生徒を一瞥しながら思う。校門前の壁にもたれかかってから、まもなく二十分が経つが、未だに収穫はなし。
さっきまで何人か可愛いギャルが来たので声をかけたんだが、
「ソロソロダレテキタナー」
もう諦めて帰ろうか――
と思ったその時。 一人の男子生徒が校門まで歩いてきた。
その男子生徒は何か特徴があったり惹かれるものがあったわけじゃないんだけど、なぜか俺はそいつと友達になれそうな気がした。
俺様の必殺技の一つ、ピターリカン勘はキュピーンと反応していた。
「奴ダッ……奴ナライケル……!」
勝利を確信した俺はそいつの元へと歩き始めるが、ふとそれを止めて思案する。
俺は前に友達を作ろうとして失敗した。その時の失敗を思い出す。
肩パンから始まる爽やかな挨拶は凡人には通用しないことが過去の経験から分かっている。同じ失敗は繰り返さない。
男子生徒は校門を抜けて通学路を歩き出す。
俺はその背後につき、友達になるチャンスを窺う。まだだ、まだこのタイミングじゃない。
俺と男子生徒が横断歩道を渡りきった直後に信号が赤に変わった。
今だ! このタイミングなら法改の誰も俺とこいつの接触を邪魔できないぜ!
「ボギャルグジョオオオオエエッ!!」
「いてーーーーっ!?」
俺の飛び蹴りが男子生徒の後頭部に直撃した。
やった、成功だ! これで俺たちの友情は確かなものに――あれ?
「平原……なにしやがる……」
胸倉を掴まれた。相手は拳を振り上げている。
あ、あれ? オッカシイナコンナハズジャナインダケドナ?
「オ、俺ノ名前ヲ知ッテルトハ感心感心。ヨッシ、ヲ前ヲ友達ニシテヤルヨ」
相手の威圧感に圧され、俺は少しうわずった声で友達宣言をした。
「そりゃあ、学校一の問題児の名前くらい知ってらぁ――それより一つ、聞き捨てならないことを聞いた気がするんだが、俺を何にしてくれるって?」
「ヤヤヤ、ダカラヨ。友達ニシテヤルッテ言ッテヤッタンダヨ」
「ふーん。友達ねぇ。誰のよ?」
「俺、俺俺、俺ダヨ、俺」
オレオレ詐欺よろしく俺を連発して説明する俺。
「で、俺がお前の友達になると思う?」
「ヲモユ。俺ハ天才ダカラナ」
「ブッブ~、不正解」
「何ガ不正解ナンダ?」
「はぁ、お前は覚えてないのか。つい昨日のことだぞ。俺はバスケ部所属の三年だ」
げっ、よりにもよって
そ、そういや昨日の永田大地との勝負時にバスケ部ギャラリーの中に居たような……?
「グッ……小物ノ存在ナンザ、イチイチ覚エテラレッカヨ! バーカ死ネ!」
胸倉を掴まれてたものの、両手が自由だった俺は相手の頬に往復ビンタをおみまいする。
「ヨクモ昨日ハ恥ヲカカセテクレタジャネーノ! 誰ガクソバスケ部ノヲ前ト友達ニナンカナルカッテーノ!」
「はぁっ!? てめーからなりたいって言ってきたんじゃねえか! それなのに態度を急変させてんじゃねーよ!」
「ウールセ! ヲ前ナンザバスケットボールデ球遊ビデモシテロヴァ~カ!」
「…………テメ」
「アーアーアーアー! 時間ノ無駄ダッタゼ! 時間返セッテーノグギャギャギャ!?」
突如俺の顔面に痛みが走る。
バスケ部三年は俺の顔面に往復アッパーを繰り出してきやがった。
「イヤマジデ痛ェカラ! 暴力反対!」
人をこんなに簡単に殴れる輩が蔓延るこんな世の中なんてっ!
「どの口がほざいてやがる! 元は貴様からしたことだろうが!」
「ウゥギィ……」
相手は俺の口を両手で思いっきり引っ張ってきやがった。痛い痛い痛い!
「俺をコケにするのはまだ許せる。けどな、球技を球遊び呼ばわりすることは許さねえ!」
その後、俺はそいつからまた数発殴られた。
そのまま気を失っていたのか、俺は歩道で横になっていた。
通行人は誰か一人くらい助けろよ。
♪
「ちょ、ちょっと! あざ増えてない!? 大丈夫!?」
翌日の昼休み。
葵は心配そうな顔で俺に駆け寄ってきた。
「アァ、チョット転ンデナ……」
「気をつけないとダメだよ!」
「ナァ葵。天才ダト嫉妬カラ友達ガデキナイノハドウニカナラナイノカ?」
「……急にどしたの?」
「俺、天才ダカラソレ故ニ友達ガデキニクインダ」
俺の話を聞いた葵は一瞬目を丸くしたが、
「天才でも気さくな人ならそうでもないんじゃない? もし友達ができないんだとしたら、それは天才だからじゃないよ。嫌味ったらしいとか、傲慢だからとか、何か他に原因があるはずだよ。それさえ解消すれば、圭ならきっと人気者になれるよっ」
温かな微笑を作りつつ言った。
ほのかな風が葵の二つ結びの髪を揺らす。
しかし俺は完璧な人間のはずだ。欠点なんてあるはずがない。
でも、俺に優しい笑みを向けてくる眼前の少女にそんなことを言えるはずもなく。
顔のあざをさすりながら、葵に微笑み返すことしかできなかった。
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