2_友達になるきっかけは所詮きっかけにすぎない ①
「アァ、マダ顔面ガ腫レテヤガル」
昨日のバスケ部との対決の結果、相手の卑怯な手で敗北してしまった悲劇のヒーロー、漢こと平原圭。只今顔に大きなあざができております。同情するなら治せ。
クラスの連中も冷たいぜ。こんな俺を見ても誰一人として心配してくれないし、話しかけてすらくれない。
それどころか、こっちから話しかけても無視とは、最低な人間どもだ。
けど俺には支えてくれる天使がいるから、クラスの連中なんざどうでもいいけどな!
「サテ、アイツニ会イニ行クカ」
今は昼休み。学校生活におけるひとときのオアシスタイム。この時間で午前の疲れを癒すのも全校ナンバーワン生徒の務め。
上履きから靴に履き替えて校舎裏へと向かった。
体育館裏も考えたんだけど、意外にも同じ考えの奴が来ることが多い。その点、校舎裏は不人気なのか、今まで一度も俺たち以外の生徒が来たことはない。
「ヤァヤァハニー。待ッタカイ?」
校舎裏に到着し、彼女の存在を確認した俺は挨拶をする。
「私も今来たところだよー――って、その顔どうしたの!?」
「案ズルナ。名誉ノ負傷ダ」
「そ、そうなの……?? そっか。さっ、お昼食べよ食べよ」
彼女は俺の顔を見て表情を明るくした。その笑顔で俺の方まで明るい気持ちにさせてもらえる。ガールフレンドってのは国宝だよな。
彼女は一年生の
二つ結びの黒髪でクリっとした瞳、大きめの胸と女性的攻撃力が高い。
俺は現在進行形で葵と付き合っている。
葵との出会いはそう、今年の春休みだった――
♪ ♪ ♪
「今週ノ週刊ブックスガマダ残ッテテヨカッタゼー」
その日、俺は買い物から帰っていた。
そこで出くわしたんだ。『アレ』と。
「ン? アアッ、アレハ……!」
「キミ可愛い~。俺と楽しいところに行こうよ~」
「い、急いでいるのでっ」
俺は見逃さなかった。この世で絶対的な価値を持ち、男を笑顔にする力も持つ『アレ』。
男をときめかせ、ドキドキさせてくれる『アレ』。
だけど『アレ』はあのチャラそうな男に取られそうになっている。そんなことはこの俺が許さん。断固阻止してやる!
「いいジャン~お金は俺が全部出すからさあ――ん?」
ダダダダダダダーーッ!
「ヤイヤイヤイヤイ! ヲ前! ソウヲ前ダヨコノ、チャラ・チャラ夫!」
俺はエレガントな身のこなしでチャラ男の側まで近づいた。
「なんだオメー? 見ての通り今取り込み中なんだけどね~。あと俺はチャラ・チャラ夫なんて名前じゃねーのよ」
チャラ男はロンゲの髪を弄りつつ、俺の方を見向きもせずにそう返してきた。
よし、相手は油断しきっている! ここは先手必勝だ!
「大体さぁ、この子と話してんだからちったあ空気を読うぎゃあ痛ぇ!!」
チャラ男は俺の飛び蹴りを側面から食らい、弱々しい身体が地面に叩きつけられた。
「コイツハ俺様ノモノナンダヨォ! 弱ッチイ奴ハ消エ失セロ!」
「ゲホッ、ゲホッ。んもう、酷いよ~。ママンに言いつけてやるんだからな~!」
チャラ男は飛び蹴りを受けた横腹を押さえ、情けない捨て台詞を吐いて駆け足で去っていった。
よっしゃ! これで『アレ』は俺のものだ!
「フフフッ、獲物ノ奪イ合イハ弱肉強食。強キ者ガゲットスルノハ当然ノ
「あ、あの! 助けてくれてありがとうございます……!」
「エッ? ア、アァ、ドモッス」
あれ? いつこの女の子を助けた? 『アレ』に夢中で全く記憶にないや。
でも感謝されてるし、そういうことにしておこう。
俺はチャラ男から守った『アレ』を――拾い上げた。
グフフッ、ようやく手にすることができたぜ。この、キラリと光る五十円玉をな! これがあれば、十円ガムが何個も買える。チャラ男に取られなくてマジでよかったぜ。
「えっ、それって……?」
女の子は怪訝そうな目で俺の顔を見る。
「ナ、ナンデモナイヨ! ソレヨリ大丈夫? 怪我トカハシテナイ?」
華麗に話題を逸らして誤魔化した。金に細かいとモテないって聞くしな。女性にモテるべく日夜インターネットを参照して得た俺の知識は相当なものだ。ものなのだよ。
「私は大丈夫です。強いんですね」
「毎日鍛エテマスカラ」
俺は自慢の二の腕を女の子に見せた。
うむ、俺の筋肉は今日も我ながら惚れ惚れする芸術作品に仕上がっている。よろしいよろしい、大変よろしい。
「すごいですねー。あっ、私、空羽葵と言います。あなたは?」
「俺ハ平原圭ダ。
「私も来週から邦改高校に通うんですよ! 偶然ですね!」
「マジデカ? 空羽サン、邦改高校ヲ選ンダノハナカナカオ目ガ高イナ」
「そ、そうですか? あははは、勉強は苦手で……」
空羽さんは舌をペロリと出して後頭部を掻いた。可愛い仕草じゃないかよオイ。思わず
「後日お礼をさせてもらえませんか? 美味しいお店知ってるんですよ」
そんな
♪ ♪ ♪
本当は五十円玉のために起こした行動だったんだが、棚からぼたもちだったようで、俺は人生初の彼女をGETすることができた。
人生、何が起こるかは本当に分からんね。
「圭、どうしたの? ぼうっと空を見つめて」
「ン? ヲ前ト出会ッタ時ノコトヲ思イ出シテテナ」
「……うん。あの時は助けてもらったよね。すごく嬉しかった。圭、カッコ良かったよ」
「ソ、ソウカ? マァ当然ダ、俺ハ霊長類最強最高ノ男ダカラナ」
五十円玉のことは口が裂けても言えない。
けどそれだと、俺は葵の心を騙してるんじゃないのか? ハートドロボウじゃないのか? でもなぁ……。
まー、いいや。ウダウダ考えたところで答えが出るものじゃない。
俺は思考を停止させた。
「トコロデサー、葵ハドノクライ友達ガイルンダ?」
「うーん――具体的な人数は分からないけど、そこそこいるよ。ただ、相手はどう考えてるか分からないから何とも言えないけどねー。友達ってさ、お互いが友達だと思っててはじめてその意味を成すじゃない?」
「オ、オウヨ。ソノ通リダナ」
さっぱり意味が分からない。相変わらず葵は小難しい話をするなぁ。
「でも急にどしたの?」
「友達ハ多クナイトイケナイノカナッテ考エチマッテナ」
昨日憎き永田大地に友達がいないと指摘されたこと。それが俺の脳裏をよぎった。
俺に友達がいないはずはないけど、現実は世知辛い。なぜなら俺レベルの有能ともなると、嫉妬する輩が大勢いて勝手に敵視されるからだ。デキる人間は辛いぜ。
「友達はなにかと助けてくれるし必要な存在だけど、私は人数よりも本当に信頼できる友達の方が大事だと思うなぁ。百人の友人より一人の親友ってね」
友達は量よりも質って言いたいのか?
「圭にはいる? そういう親友」
「ア、アッタリ前ダロ! 今度ノ休ミモダチドモトカラオケダ。マッタクダルイッタラネーゼ」
もちろん嘘だが、休日は妄想でカラオケをエンジョイしてるので同じことだよな。
「ふふっ、楽しそうだね。高校時代の友達は一生モノって言うし、大切にしないとね」
キーンコーンカーンコーン――
「昼休み終わっちゃったね。じゃ、またねっ! そだ、今度圭の友達紹介してよ」
「オウヨ、機会ガアレバナ!」
葵のクラスは体育とのことで、着替えのために急いで自分の教室へと戻っていった。
友達、ね。
友達作りは高校に入って一番はじめにやるべきことだよな。
俺もあの時は頑張ったっけ。
確かあの時は――
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