3・友か誉か

12月25日、クリスマス。

あいつは今頃彼女と話でもしてるんかなぁと、思ったり。


「欠席です」

「はぁ。あいつ最近サボり気味じゃないのか。見かけたら声掛けてやれよ。練習メニュー忘れたから取ってくるわ」

「あーはい。色々分かりました」


親友の欠席連絡を顧問にする瞬間は自分の事じゃないのに緊張する。更にため息なんかつかれると怒られた気分になる。

バスケットシューズの紐をゆるめて履いているチームメイト達からくすくすと笑い声が聞こえてきた。


「もはやユニフォームも貰えなさそう」

「ははっ、言えてる言えてる。貰えたとしてもずっとベンチで試合出れないだろうな」


大して強くもない奴らがほざいていた。


「お前らなぁ……。少しはそういう会話が士気を下げてるってことに気づけよ」

「お? 親友チャンどうしたよ? オコなの?」


笑われた。否、嗤われた。


「――ッ!!」

「おいおい怒るなよ、少し煽っただけじゃん。胸ぐら掴むのなんて小学生じゃあるまいし。……フッ」


「おーいお前らー! 今日の練習メニューを持ってきたぞー」


顧問が職員室から戻って歩いてきている。

その瞬間、オレを煽ったヤンキー野郎が自分の頬を思いっきりぶん殴った。そして床へ倒れ込んで動かなくなってしまった。


「え?」

「痛ってぇ……。何すんだよお前。殴るとかねぇだろ普通……」

「……は?」


頭が真っ白になった。

だが、顧問の走る足音が一歩一歩近づくにつれてその理解度は高まっていく。


「おい大丈夫か!? 怪我は? ……これは大変だ、保健室に行こう」


ヤンキーは先生の肩を借りて立った。芝居臭い演技に虫唾が走る。


「何があったか知らんが人に手を出したらダメなのは自明だろーが! もう中学生だろ、そういう所しっかりしろや!!」

「いや、あの」

「話は後で聞く。殴った時点で話もないが。職員室に来い。――行こう、大丈夫か?」


二人の後ろ姿を呆然と眺める。もはや悪魔に気力も吸い取られた。

つるんでいた奴らは腹を抱えて笑っている。するとヤンキーが顔だけをこちらに向け、アインシュタインの真似をした。


「……はぁ、クソが」


その後、職員室に呼び出されたオレは下校時刻になるまで無意味な説教を食らい続けた。








試合で遠くの中学まで行き、ことを終わらせた帰り道。家庭の都合で欠席したについての話題が我ら一年生の間に上がった。


「あいつ俺らと同じくせに先輩のスタメン入りとかキモいよな」

「わかる。マジでその通りだよ。調子乗りやがってうぜぇわ」

「あのスカしてる感じが好きになれない」


誰が回し始めた悪口かは分からない。

だが、実際チームメイトの言っていることは的を射ていた。それは自分も共感していた事を示す。彼とは小学生の頃から仲が良いはずなのに否定することが出来なかった。

もちろん、このハブり事件は先生の耳に届かないはずもなく。


部活が始まって一年だけが先生の元へ招集された。


「風の噂だが、お前らが裏で組んでチームメイトの無視したりバッシュ隠したりしているそうだな。誰がやり始めた事なのかおしえろ」


沈黙。嫌な空気が流れ始めた。


「えーと、俺そいつから聞きました」

「お前がやったのか」

「えぇ! 違います違います!! お、おれはコイツから聞きました。けど」


一人が口を開いたと思えば罪のなすりつけあいが始まってしまった。


「はぁ、何なんだよお前ら。どうせお前がやったんじゃないのか。この前もチームメイト殴ってただろ」


心の中で「え?」という言葉しか浮かばなかった。いつも笑顔で話しかけてくれた親友が知らない間にチームメイトを殴った。


「協調性の無い人間は部活に不要なんだよ! そんな単純な事にキレる奴が試合になんか出せるか。もし他校とやってお前がやらかしたら一生練習試合が出来なくなるんだよ!!」

「ぃえ、だからオレは……」


先生の怒鳴る声が体育館中に響き渡っていた。女バスの視線もチラチラと感じる。その中には僕の彼女も気にする素振りをしていた。


愚痴広めは自分から始めた事ではない。が、加担はしていた。そうなのだがここで自白をしてしまうと今後の部活の昇進に響いてしまう。最悪出停しゅってい、軽くてもキャプテンへの道は閉ざされる。

でもそれ以上に僕の親友が問い詰められていることにストレスを感じていた。


友をとるか、誉れをとるか。


「今回の件もお前が――」

「あの!」



その時、視線が集まると共に一人の人物が手を伸ばした。

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