2・刻む秒針

雪が微かに道端に積もっている。側溝に溜まった雪は地面に落としたシャーベットをかき混ぜた様なドロドロとした色になっていた。


あれから何ヶ月経っただろう。

ゲーセン、カラオケ、海、水族館、ショッピング。一緒にどこかへ行くと必ず写真のフォルダがツーショットで溢れかえった。


「ねね、次はどこ行きたい?」

「これすっごく美味しい! 一口いる?」

「こっち来て! 早くー!!」


彼女はいつも元気でクラスメイトからの愛嬌がとてもあった。その人が今、僕の隣にいる。その瞬間が僕にとっても身に余るほどの幸せだった。




「ねぇ」

「どうしたー?」

「来週のクリスマス、うちの家来ない?」

「……え」


脳内で彼女のセリフを復唱した。


「何ボケーッとしてるの。来る? てか来て!」

「えと、行ってもいいのなら行きまぁす!」

「やた。待ってるね」


軽く言った一瞬間のうちに手汗が凄いことになっていた。その日はさっきの挨拶をおきに解散した。遂にクリぼっち回避。来週が楽しみで仕方がなくて、高ぶった僕の心は帰路を歩く足を弾ませた。



「――へぇ。部活をサボってまで随分と嬉しい事があったんだな」


背中から突然話しかけられた。振り返る間もなく続けてその口から発せられる。


「オレらは春季に向けて汗水かいて練習してるっていうのにお前は女の子とイチャイチャか」


声の主は小学生の頃から共にバスケをしてきた親友だった。

日が落ちかけている時間帯、逆光で顔の様子は伺えないが声のトーンは落ちていた。


「ごめん。皆んなが頑張ってる中サボってやろうとかそういうつもりは――」

「ジョーダンだよ!」


……。驚いた、僕を試した訳だ。

シンと静まり返った空気が温かさを取り戻す。


「そこまでオレも固くない。来週の、顧問に伝えておくし楽しめよ?」

「……ありがとう。いつ僕と遭遇したの?」

「ん? さっき見つけただけだが」

「そか」


ずっと後をつけてきた訳では無さそう。つまり本心からクリスマスは会ってこいと言ってくれている。


「ありがとう」

「何回言うんだよ。休んでもいいけど、その代わり今度1on1の相手しろよな! あ、あとココアとワッフル奢れよな」

「おう! 考えとく」


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12月25日 クリスマス。

自転車のスタンドを蹴り上げテンポよくサドルに座る。まだ夕暮れなのにも関わらず、視界の横を流れる街並みは点滅するネオン色で溢れかえっていた。





「………………」


――そして今、彼女が目の前で瞳を閉じている。


緊張しているのか、キュッと結ばれた唇が少しばかり震えていた。怖がらせないようそっと頬を近づけ口元に視線を落とす。


驚くほど柔らかく弾んだ唇の感触が目を閉じた暗い世界に繊細に伝わってきた。


思い返せばその瞬間は世界一短く、世界一長い時間だったと思う。薄いピンクの掛け時計の秒針が、終わりの見えない一瞬間から現実を呼び戻した。


「ふふっ、長すぎ」

「えぁ、わるい」

「いいのよー。私のファーストあげちゃった」

「えっ」


彼女の耳が赤くなっている。

それを見た自分の頬も紅潮するのが、鏡を見なくても分かった。


「これより先は結婚してから。ね」

「け、結婚……!?」


ふと我に返った。めちゃくちゃ煽られてる。

煽られてはいるが、悪い気分はしなかった。


「分かった。二人の約束な」

「うん!」



時計の針は十時半を指していた。

彼女の親には「泊まってく?」と聞かれたが自分の家に既に帰る連絡を入れていたからおいとますることにした。







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