第22話 なんか友達できた







 うん、俺もこんなことになるとは思ってなかったよ。


 まさか、ね。


 ***


 夕飯の席のことである。


「ガッハッハ!! ケータはやっぱおもしれぇなぁ!!!!!」


 俺の隣の席に座って酒瓶を掴みながら大爆笑する獣人。


「そろそろお酒はやめておかないかい?」


 呆れた顔で獣人に注意するエルフ。


「あ?! なんだとやるかコラ!!」

「ほら酔っ払ってる。大体酔っ払っているのに僕に勝とうだとかおこがましいね」

「よっしゃやってやるよちょっと表出ろやこら!!」

「ほう、やるつもりか。いいだろう……」


 ……。


 表って。ここ庭ですけど。


「よくないから。やめてくれ二人とも。せめてもっと離れて……」

「よっしゃ向こう行くぞ」

「行くか」


 そう言ってエルフと獣人は遠くに離れていった。直後爆音が鳴る。戦い始めたのだ。


『「なんなんだよ、あいつらは……」』


 リューと二人でため息をつく。


 なぜ彼らは俺の家(の庭)にいるのか。そして酒を飲んでいるのか。


 話は八時間ほど前に遡る。



 ***



 お昼。俺は一人で庭の草むしりをしていた。草むしりというより、食べられる草探しだ。うちの庭は恐ろしいほど大きいので、生えている草の種類も豊富。まだまだ探していない草もまだまだありそうだ。


 この前街に行って、ふと本屋に立ち寄ると、野草の本を見つけた。しかも食用の草に関してという素晴らしい本だ。

 野菜はいくつあっても困らない俺にとって、野草はどれだけあってもいい。


 読んでいくと、現代日本とあまり変わらない姿でこの世界にもたくさんの野草が生息しているようだ。ナズナにタンポポ、ツクシ、ヨモギ……。


 食べられる草と食べられない草の見分け方も大変詳しく書いていて、見つけて即買いしてしまった。


 今はこうして本を片手に野草を探している。


「お、ナズナだ」


 今日も未開拓の地を這い回って、野草を探していると、頭上から声がかかった。


「何やってんだ、お前」


 見上げるとそこにはオオカミのような頭部をしながらも二足歩行を優雅にこなす……いわゆる獣人。


 思わず叫び出しそうになったが、なんとか堪えて、質問をする。


「ど、どちら様ですか。っていうかなぜここに?」


 そういえばうちには塀もあったはずで、他人は入ってこれないはずだが……。


「あ? 俺はマイクってんだ。なぜここに……か。お前はなぜここに?」


 質問を質問で返すなよ!! っていうか、名前普通な感じだな……。


「俺、ここが家の庭なんですけど」

「……ぶははははははははははははは!!!!! 冗談きついぜ!!」

「いや、ほんとですけど」

「……ぶはははは」

「いや本当ですって」

「…………ぶはは」

「聞いてます?」

「…………まじかよ……」

「だからそう言ってるじゃないですか。で、人の家になんのようですか? そもそも塀ありましたよね。どうやって入ってきたんです?」

「…………」


 ついに黙りこくったぞこの人。


「いや……その、すまん。『なんだこれ!!』って壊しちまった……。本当にすまん!!」


 いえ、こちらでもそんなあっさりと塀を壊されるなんて想像したこともなかったので大丈夫です。

 なんでだよ。塀だいぶ分厚いし硬いだろ!

 なんだこれ! で壊せるあなたがよくわからない。


「いや、その……弁償するんで許して」

「いや、大丈夫です」


 こちとら普通の人間じゃねぇので大丈夫です。異世界人なので。あんなもん俺の魔法でチョチョイのチョイよ!


「そのうち直しておきますから。で、俺が何してたか、ですよね」

「おう、なんか気になってよ」

「それはですね、」

「おいこらマイク!!!!!!!!!!!!」


 説明しようと思った矢先、誰かの怒声。

 ん?? マイクって言った?! この獣人探してんだな、多分。


「ひっ」


 マイクはマイクでなんか怖がってるし。獣人らしからぬ震え方。


 誰が来たのかと声がした方に顔を向ければそこにいたのはエルフさんだ。


 ……あれ? さっきの声この人なのか。

 イメージが湧かない。温和そうな人じゃないか。


「お前はいつもいつも……!! 今回は絶対に許さん!!」

「ひゃー!! すんません!!」


 ……なんだろ。俺ここにいる意味あるのか?


「おっと、挨拶が遅れました。私はジョン。見ての通りエルフです」

「あ、はい。よろしくお願いします」


 エルフが挨拶してきたが、またもやごく普通な名前。マイクとジョン。英語の授業かよ!!


「この度はうちのマイクがご迷惑をおかけしました」

「いえいえ。大丈夫です」


 ジョンさんによれば、マイクはいつも気づかないうちにどこかに行って、他人に迷惑をかけて困っているらしい。

 さっき怒鳴り込んできたのも頷ける。


「さて、マイク……覚悟はできt」


「「グウウウウ」」


 二人のお腹が鳴った。


 ……。


「そういえば飯食ってなかったっけ」

「忘れてましたね」


 ご飯はとっても大事ですよ!!

 一日三食きちんと食べましょう。


 ということで。


「なんか食います?」


「「ぜひ」」


 ちょっとは遠慮しろよ。




 ***





「なるほど、さっきの草はこう使うのか……」

「その辺に生えている葉っぱも料理にできるのですね……」


 家の中に二人を招き入れ、今はお昼ご飯の準備をしているところだ。


 キッチンに立つ俺の隣で二人が見ている。


 今作っているのはヨモギの天ぷらとハコベのおひたし。季節がおかしいという意見はこの異世界では受け付けていない。


 パパッと作り上げて食卓に運ぶ。


 それと同時に、リューには現れないように注意してほしい旨を念話で伝えた。


「「いただきます!!」」


 客人の二人は天ぷらにがっついた。

 そして一瞬の間があって、


「「美味ぇぇぇ!!」」


 二人して叫んだ。


「なんだよ、その辺の草がこんなに美味くなるのかよ!!」

「本当に美味だ……!! 初めて食べたぞ、こんなの……!!」


 喜んでくれたようで。

 よかったよかった。もし口に合わなくて家破壊されたらどうしようかと思ったよ。



 そしてあっという間に完食である。


「いいもの食ったなー!! どうもありがとう!!」

「本当にありがとうございます」

「いえ、大した手間じゃないので」


 二人分くらいどうとでもなる。リューくらい食べるってなら話は別だが、今は余裕もあるし。


「何かお礼をさせていただきたい。何かないか?」


 え、お礼……。

 別にいらないんだけど……。


「お礼などいりませんよ。大した手間じゃないって言ってるじゃないですか」

「でも何か……」

「なんでも言えよ、できることならなんでもやってやるぜ?」


 ……うーん。


「あ、なら塀直してもらってもいいですか?」

「塀? 壊れているのですか?」

「はい、今日マイクが……あっ」


 しまった、マイクって言っちゃった。


「マーイークー!!!!!!!!!!!!!」

「ウヒャクァwせdrftgyふじこlp!!!!!!!!!!!!」


 ジョンさん大激怒である。

 それから変な悲鳴で逃げ回っているマイク。


 カオス。


「あ、あの、家が……家がめちゃくちゃになるから……あの、聞いてます? おーい、おいこら!! おい!! 聞け客人!! いい加減にしろよ!!」


 聞かない。こうなったら……!!


「オラええ加減にせえやこのド阿保がぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」


〈神が強化したソード〉、通称「ダメ神なのかいい神なのかよくわからない神様が勝手に強化した意味のわからん威力になってしまった元々普通だった、150000イェンで購入したソード」を取り出して二人に向ける。


「「ヒェッ……」」


 いやなんで剣出したら後ずさっていくんだよ。


 そんなにすごいか、この剣。オーラでも出てんのか?

 とりあえずやっぱり永久封印だなこれ。


「「い、今すぐ塀直しに行きまーす!!!!!!!」」


 それから二人はあっという間に外に飛び出していった。


 なんか疲れたよ。




 それからリューに昼飯を作って、夕飯の用意を始める。


 塀を直してくれるのだし、晩御飯くらい用意しなければ。



 冷蔵庫から肉を取り出して、切り始めた。



 ***


「「お、終わりました〜」」


 二人が帰ってきた。


「本当にありがとうございます」


 塀、結構高くできてるから直すのも結構大変だったと思う。


「いえ、お礼ですので」

「そうだぞ!! 礼なんか言うな!!」

「マイク、お前はもっと礼儀正しくしなさい」

「なんだとジョン! やるか?!」

「貴様……私の強さを忘れたか?」

「す、すんません」


 喧嘩に発展しそうだったが、一瞬でおさまった。ジョンさんそんなに強いのかよ。


「夕飯を用意しますのでぜひ食べていってください」


「え?! いいのか?!」

「マイク?」

「ひっ……すんません」


 一回一回やらないと気が済まないのか君たちは。


「遠慮せずに食べていってください。もう用意もしちゃいましたし」

「そうですか……。ならお言葉に甘えて」

「ヒャッホー!!」

「マイク?」

「ヒエッ。すんません!!」


 もうそれいいよ。


 ***



 それからいろんな準備をする。


 庭にキッチンカーを出して、バーベキューだ。

 キッチンカーに立派なバーベキューコンロがついているのはつい最近知ったことだ。せっかくだし使おうと思う。


 今日はアメリカのようなバーベキューだ。本格的とはいかないが、それに近い方式でやっていこうと思う。


 ブロンズビーフキャトゥルを使う。


 なるべく大きく切って、ボリュームのあるように。


 これをマイクが食べているところを想像したらイメージが気持ち悪いぐらいハマって怖いが。


 マイクたちにはテーブル運びなどを手伝ってもらって準備を進めていく。


 やがて準備が終わって、肉の第一投。


「うまそぉぉぉぉお!!!」

「マイク?」

「なんだよ! うまそうじゃん!!」

「まあ、そうだな」

「おいジョン、その反応はケータに失礼だぞ!!!」

「うぐっ」


 珍しくマイクに正論をかまされたということだろうか。ジョンは言葉に詰まっている。


 同時に野菜を焼いたら、マイクがあからさまに嫌そうな顔をして結局ジョンに咎められていたが。


「お二人さん、できましたぜ」


「ま、待ってましたぁ!」

「どうもありがとうございます」


 そして口に。


「「う、うまぁい!!!!!」」


 いいかげんジョンにはキャラを統一して欲しいところだがそれはいい。


 昼ごはんに続いて喜んでもらえて嬉しい。


「なんだこのタレは!! こんなの食べたことないぞ!!」


 ふふん、それは醤油だ。醤油に肉をつけて焼いたのだ。

 醤油は日本人の心、そして勇気を司る伝説の食べ物さ(自分でも何言ってるかよくわからない)。


「ふむ……これと同じようなものを『タナカマチ』というところで食したことがある……。同じものか?」


 ジョンが呟きながら肉を頬張っている。


 え、醤油あるんだタナカマチに。ますますタナカマチ行きたいな……。


「こんな美味い肉を食ってるなら、これを出さずにはいられないだろ!!」


 ドン。


 マイクがいきなり机に置いたのはお酒。


「ここで飲まずにはいられんだろ!!」

「ああ」


 え、ジョンさんいいんですかね。


「ほら!! ケータも飲めよ!! だって俺たち

「友達は違うでしょう……」


 うん、俺もそう思うぞ。


「え、ケータ、友達だよな?」





 突然だが、友達ってなんだろう。


 何をもってして友達と言えるのだろうか。友達の基準は?


 友達と言ったら、なんでも話せる関係か。悩みを打ち明けられる関係か。辛いことがあれば慰め合える関係か。


 いろんな考え方があると思う。


 友達の定義もそうだ。人によって考え方、価値観は違うだろうし、少し話したら友達! みたいな人もいれば、ものすごく気が許せるくらいの人が友達って考える人もいるだろう。俺はどちらかといえば後者だ。マイクはおそらく前者なのだろう。


 でも、その価値観の否定はしたくない。

 人それぞれいいところがあると思うから。


 だから、俺はこう答える。




「友達だ」




 はい。なんか食べられる草探しをしていたら友達が手に入った俺です。



 ***


 そして酒を飲み始め、今に至る。


 ずっと隠れていたリューだが、流石にお腹が空きすぎたのか俺の方に来た。


 そして大乱闘を繰り広げる二人を見て。


「『なんなんだよ、あいつらは……』」


 と、二人でつぶやいたわけだ。


『とりあえず俺はちょっくら他のドラゴンのところ行ってくるからな』


 食べるだけ食べた後、リューは飛んでいってしまった。


 さて……仕方ないし、仲裁に入るか。




 友達だしな。




____________________________________



読んでくださりありがとうございます。


友達ってなんだろうと思いながら書きました。


あなたにとっての「友達」はなんですか。


……とか言ってみる。














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異世界に転生したのでのんびりしようと思ったのに 青空 翔 @sho_kamitani

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