第18話 家を作ろう
翌日、起きてきたリューとジムに、家を作ることになったということを伝えた。
予想通り、ポカーンと固まっている。
『え、え、え、ええ?』
「な、なんですと? 今、なんと?」
二人……いや、一頭と一人は困惑している。追加でこうなってしまった経緯を話していく。
俺がもう一度王城に戻ったと言った時のリューとジムの顔はものすごかった。
なんでまた?! みたいな。
そして、王様との話もすると、もう疲れ切った顔をしていた。
「な、なんにせよ良かったですね、家がもらえて」
「旅はまだするけどね」
そう俺がいうと、なぜかリューはホッとしていた。なんだろう、俺と一緒に旅ができることが嬉しいんだろうか。
……いや、最強を誇るドラゴンであるリューに限ってそんな話はないだろう。おそらく美味い飯がまだ食えると思っただけだろうな(予想的中)。
それはひとまず置いておいて、まずは朝食だ。
ちゃっかり一緒に飯をもらおうとするジムに、「昨日あなたの飯はもう用意しないって言いましたよね?」という。(第16話参照)
涙目になりながら、自分の分の食べられるものを探しに行った。
俺は自分とリューの分の朝ごはんを用意する。一通り作り終え、さあ食べようというときにジムが帰ってきた。
「あ、おかえり」
「……た、ただいまです……」
おおう、死にかけだな。
「あちこち駆け回って食材を見つけてきたんですが、これぐらいしか……」
ジムが持っていたゴミ袋くらいの大きさの麻袋(俺が貸した)を差し出してくる。中を見ると底にちょっとしかない。
……うん?
よく見ると、毒キノコや毒草ばかりのようで、食べられそうのものなど本当に少ししかなかった。
流石に可哀想なので、適当に野菜とパンを渡す。涙を流して喜んでたよ。
そのあとジムは簡単なサラダを作ってパンと一緒に食べていた。
朝食が終わって、ホッと一息つく。この時間はいつもは慌ただしかったのになぁ、と現代日本で生きていた頃の生活を思い返す。
さてと、少ししんみりした気分になったところで、そろそろ行きますか。
家を建てるために王城へ。
リューには透明化をして、ジムはなんとかするだろ、と適当に考えてさあ行こうとした時、ジムが呼び止めた。
「ケータさん、私はここらで失礼させていただきますよ」
「あ? そうか? 別に一緒に旅したりするのに遠慮はいらないぞ? 飯は遠慮して欲しいけど」
「そうではないんです。ケータさんは家を持つわけで、なんとなくこのへんが区切りかなと思ってですね。他人なのにいつまでも金魚の糞のようにひっついているわけにはいきませんしね。まあ、世界は狭いとか言いますし、また会うでしょう、その辺で」
「は、はぁ」
「それに、家を持つとなればしばらくは忙しくなったりすると思うんですよね。なのでまあ、離れるのは今かなと。短い間でしたが、楽しかったですよ。それと、最初の時のビスケットからいつもの食事まで、ありがとうございました。また会えたら食べさせてください」
「それはいいですよ、ぜひ食べてください。こちらこそありがとうございました」
「では、この辺で」
「さようなら」
変な人だったけど、いざいなくなれば少しは寂しいものだ。
これからも幾度となく経験するであろうこの喪失感は、やっぱり嫌なものだ。
「ケータさーん!!」
なんだ?! 新たな刺客ですか?!
と思ったらジムだった。ものすごいスピードでこちらに走ってくる。
なんだなんだ?
「はぁ、はぁ、はぁ。ケータさんの家の位置だけ教えて欲しいです」
そう言いながら地図を広げてくる。この国の地図だ。かなり大きく、細かいところまで載っている。
うん、飯食いにくる気満々だなこいつ。
一応教える。
「へえ、こんなところに立てるんですか。ケータさんも結構変な人ですねぇ」
お前にだけは言われたくない!
そう思ったが口には出さず、黙って再びジムがさっていくのを見送る。
喪失感はもう感じない。
その後、ジムがしょっちゅうケータの飯を食べにケータの家を訪れるのはまた別の話だ。
というわけで、また一人と一頭になった。
「俺王城に行くんだけど、リューもくる?」
一応聞いておく。
最初は俺一人で行くつもりだったが、別にリューが来てもいいんじゃ?と思ったのだ。ジムもいないし(これはあまり関係ないかもしれないが)。
ただし透明化と無音化つきに限る。
『あー、なんか面白そうだし行く』
そ、そうか。めんどくさいから嫌だ。くらいはいいそうだと思ったのだが。
しっかりと透明化と無音化をかけ、いざ王城へ。転移魔法でワープ。
リューは転移魔法が初めてだったのか、ワープする感覚に『ふおぉぉぉぉ』と叫んで(?)いた。
***
前回のように王室にいきなりワープするのも気がひけるので、王城の門の前にワープする。門はチラリとしか見ていなかったので、ワープできるか不安だったがうまくいった。
『すげぇでかい家だな』
リューは大きな王城を前にして驚いているようだ。透明化をしているので姿は見えないが。
『家じゃなくて城だよ。まあ、王様にとったら家かもしれないけど』
念のため、念話で会話をする。
『その王様ってのは相当でかい生き物なんだな。流石に恐ろしいや』
どんなイメージだよ。
『いや、普通に人間だからな? あ、もしかしたらエルフかもしれないけど、とりあえずリューが持っているだろうイメージは間違ってるよ』
記憶の中では王様の耳がとんがっているような気もしない。まあ、そんなところ見る暇もなく驚いてばっかだったので覚えているわけがないが。
『ふーん、そうか』
興味を無くしたみたいだ。そして俺の鞄に潜り込んだ。昼寝を決め込むつもりらしい。
リューは放っておいて、城の中にどう入るかに悩む。
インターホンなんてあるわけがない。
門を叩いても誰も気づかない可能性大。
いやどうすればいいんだよ。
しばらく門の前に座り込んで考えていると、
「あれ、ケータ殿ではないですか。どうされました、こんなところで」
騎士団の一人が袋を提げて歩いてきた。買い出しか何かか?
「いえ、門を通るのにどうすればいいかなと」
「門を叩いてくれれば門番が開けてくれますよ。というかケータ殿は直接王室にワープしてくると考えていましたが……」
あ、そうなの……。
「入りますか。用があって来たんでしょう?」
「あ、はい」
ちょっと信用しすぎではないだろうか……。あっさり門を潜って、城の中に。
ガバガバセキュリティすぎて多少不安になった。俺だからガバガバなのかもしれないが。
というかそうでないと困る。
早速王様が出迎えてくれた。
「お待ちしていましたよ、ケータ殿。ささ、こちらへ」
昨日と同じ部屋に通される。中では一人の男が待っていた。
「さあ、話し合いを始めようかね」
王様がそう言って、家作り会議がスタート。
挨拶もそこそこに、間取りなどを決める。
次々話が進んでいく。大まかな部屋の間取りがある程度決まったところで、
「私は塀はあった方が良いと思うぞ」
王様が発言。
「ケータ様はいかがでしょうか」
男–––––テリーが聞いてくる。王様によればテリーは建築の天才だとか。なんだそりゃ。
「あー、はい。塀は欲しいかもです」
セキュリティは気にしたい。この王城みたくザル警備はちょっと……。何度も言うが、俺だからあっさり門を通されただけだろうけれども。
「わかりました。では、最硬度を誇る材質で塀を造らせていただきます」
えー、ちょっと待てー!
誰もそこまでの強度求めてないわい!! いや、あればもちろん嬉しいけど、そうじゃない。
最硬度って、聞いた感じでもめちゃくちゃ高価だろ。多分。
そこそこでいいのに……って、言っても無駄か。
何かとあれこれ言われて結局振り出しに戻るのだし、最初から抵抗しない方がいいだろう。
「ケータ様は他に何かご要望はありますか?」
「あー、えーっとですね……」
少し考える。
「広いキッチンは欲しいです。それから、屋上もできたら」
ここまで来たら、ねだれるものはねだってしまおうと言う思考になってくる。
……異世界だし、いいでしょ。……いい……よね?
「なるほど。では、こんな感じでいかがですか」
テリーはささっと間取り図を書いて俺に見せてくる。
いい。とてもいい。
「めちゃくちゃいいです。こんな感じでお願いします」
「わかりました。他には?」
ああ、大事なもの忘れてた!
「家の隣に広い倉庫が欲しいです」
うーん、ガレージの説明がしにくいなぁ。
「えーっと……。外に出れるようになっている大きなドアがあってですね……」
詳しいところまで、自分の思うガレージをイメージしてテリーに伝える。
「ああ、なるほど。こんな感じですか?」
立体的な図を書いて見せてくれる。
「ああ、こんな感じです!! まさにこんな感じです!」
思っていた通りの図になっていて、びっくりする。
「わかりました。では、どのくらいの大きさにしましょうか」
キッチンカーとバイク、整備スペースのことも考えて、適当な面積を伝える。
「えーっと、このくらい?」
「なるほど、わかりました。以上でよろしいですか?」
「はい」
「では、間取り図がこちらになります。ご確認ください」
ガレージは家から直結できるようになっているのも嬉しい。
間取りも完璧な二階建ての家の図がそこにはあった。
「これでお願いします!」
「では、早速今日から工事に取り掛かってくれ」
今日?! はえぇ!!
そんなすぐにできるものなのか?!
「わかりました。では、急ぎますので失礼します」
「早急に完成させたまえよ」
本当に今日から工事するようだし。すごすぎるだろ……。
まあ、無事に家が立つらしい。
楽しみだ。
王様にお礼とさようならを言って、王城を後にした。
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