第17話 色々あって




「なんということだ……」


 ケータが去った後。


 ロイ王は頭を抱えてつぶやいた。


「まさか転移魔法で逃げられるとはな……」


 家来たちも重苦しい雰囲気にやられていた。

 なんせ取り逃してしまったのだから。処刑コースまっしぐらに違いない。

 命に変えてでも止めるべきだった、と家来一同の心中は一致していた。というかもう処刑されちゃうよ!とビクビクしている。


「まあ、仕方ないのぉ。ああなればあやつを捕まえることは不可能じゃろうな」


「……は」

「しかし、我々が……」


「お前たちを責めるつもりはない。ただ、惜しかったのう」


「申し訳ありま」


「責めておらんと言っとるだろう!!」


 急にロイ王がキレて、(やっぱ怒ってんな……)と、またも心中が一致。


(そんなにあの男が大事かな……)

(王様の機嫌は直るかな……給料減っちゃう……)

(給料減るかな……)

(減給ものだこれぇ……!)


「王様、どういたしましょうか。無駄だとは思いますが、もう一度探しますか」

 騎士団長が言った。


「うむ……。一度話はしてみたいしな……」


 一同、「うーん」と唸る。


 唸り続けて早一時間。

 そろそろみんな「何してるんだろ俺たち」となってきた頃。


 そこに突然。


 バシュウ……


 転移魔法の音。


「「「誰だ?!」」」


 その瞬間一斉に武器を構える家来・騎士団一同。


 だが、その姿をきっちりと視界に捉えたとき、その場で動く者はいなかった。というかピクリとも動くことのできない衝撃。


「す、すんません」


 ケータが来た。


 ***



 一度、俺はリューとジムの元に帰ったには帰った。

 そして、美味しい夕飯を食べた。


 だが、よくよく考えてるとこのままじゃ国を歩けない。これからまだまだいろいろなことがしたいのに、歩けなくなるのは嫌だ。

 かといって、何かを王様勢に強要されるのも嫌だ。

 ということで、話し合いをするべく、二人(一人と一頭)に適当に言い訳して、転移魔法で王室に。



 そして今に至る。


(ものすごいポカーンってしてる……)


 おもわず笑ってしまう。

 笑いながら、「すみませーん」と手を振りながら目を覚ましてもらう。


「いや、なぜ来た?!」

 騎士団の一人がこう一言。


 キャラどこ行きましたか。


「あー、えっと……。それを説明しにきました」


「そうですか……。では、こちらへ……」

 と、王様に応接間に案内された。


 立派なソファが並べてある。


 このソファ、もし家を買ったら一個欲しいな……。

 高いだろうけど。


「さて、どんなご用件で?」

 王様が訪ねてくる。


 まずは言わねばならぬことがあるので先に。


「あー、まず申し訳ありませんでした」

「?」

「え、いや、逃げちゃったことです」

「あ、ああ、いいですいいです。むしろこちらが申し訳なかった。多少乱暴だったようだ」

「い、いえいえ。っていうか罪に問われたりしますか……?」

「心配はいりませんよ」

「そうですか……。よかった……」


 ほっとした。まあ、王様が一番上の位なので、王様が許してくれたら許されるが。

 というか王様ものすごく気さくな感じで話しやすい。それこそ頼み込めばソファ一個くれるんじゃねぇかと思うくらい。……言い過ぎか。


 まあ、ともかく本題に移らねば。


「で、本題なんですが……」

「そうそう、どうぞ話してくれ」

「はい……。まず、率直に言います。俺に関わらないで欲しいです」


 多少王様の顔が引き攣ったように見えた。


「その理由を聞いてもいいかい?」

「のんびりしたいからです」


 そう言った瞬間、王様含め、その場にいた俺以外の人間が吹き出した。

 なんでのんびりしたいって言っただけで笑われなきゃなんないんだよ!


「わ、わかった。ただ、その願いは聞けない」


 な、なぜに?!

 絶対わかってないだろ!


「正直あなたの戦力が欲しい」


 なんだそれ。

 完全に俺こき使われるやつだろう。


「他の国に取られたらこの国が壊滅します」


 いや、あの、流石の俺にも国を滅ぼす力はないです。


「ですから、この国に協力してくださる約束だけでもしていただきたいのです」


 願いが聞けないってそういうことか。

 要するに、関わらないのは無理だけど、協力さえしてくれればいいみたいなことを言っているんだろう。


 少し思案する。

 ちょっと思ったことを質問してみる。


「協力って具体的に何をすれば?」


「有事の際に駆けつけてくださるだけで結構です。あ、この国にいてくれると助かります。いるだけで牽制にはなるので」


 な、なんだそれ……。


 でも、悪くはない。騎士団に入れとか言われなくて本当に安心した。


「わかりました。そうします」


「協力してくれると?! ありがたい!!」


 ものすごく喜んでいる。


「そうです、お礼に家を用意します!!」


 は?


「どのあたりが良いかな……? のんびりしたいとも言っていったし、それらしいところに建てようか」


 は?


「いや、ちょっと待ってください?! なんで家ですか?!」


「嫌だったかな? 家があったほうがいいかとは思ったんだが」


 何それ。太っ腹かよ。タダってことだろ?


「いや、嫌じゃなくて、ものすごい話になっているんですけど……」


「わざわざ協力すると言ってくれたのだから、家くらい用意させてくれ。旅をするならば留守中の護衛のための兵士も派遣しよう」


 うーん。

 どうしてこうなった?!

 ものすごくありがたいけど、どうしてこうなった。

 ただ協力するだけに、家?!


 でも、厚意を無下にすることもできない。

 ここはありがたくいただくとしよう。


 あ、そうだ。


「ついでにこのソファもつけてください。ものすごく座り心地がいいので」


 言っちゃったよ言っちゃったよ!

 さあ、どんな返事が……?!


「いいでしょう」


 わーいやったー……。

 いや、太っ腹すぎんだろォォォォォォォォォォォォ!!!!!!


 王様すげぇぇぇ!!


 心の中で暴走。


「どのあたりがいいですか?」


 場所も指定できるんかいぃぃぃ!!!!


 でも、どのあたりって言われてもなぁ。

 まだよくわかってないし……。


「わからなかったら、複数建てますか」


 いや、おかしい。

 こう言っちゃなんだけど、王様頭おかしい。


 どうやったら複数建てるって発想に至るんだよ……。


「流石にそれはちょっと……」


「あ、そうですな……。流石に管理も大変ですし、家は一つの方が愛着が湧きますか」


 ちがーう。そうじゃなーい。

 車みたいに言わないで。車はともかくバイクは複数あっても愛着湧くから。

 ……って違う!

 やばい、王様の価値観に囚われる!!

 こっちまで頭がおかしくなってきた!


 ていうか本当にどのあたりにしようか……。

 あ、あれだな。


 リューと俺が出会ったあたりでいいんじゃないか?


 あのあたりなら、今まで言ったことのある道にも近いし、行ったことのない土地にもすぐ行ける。ゆっくり冒険ができるよ。


 よし、あの辺でいいか。


 地図を用意してくれたので、位置を伝える。


「いいですね。では、その辺りに建てましょう」


 うわぁ、とんとん拍子で話が進んじゃったよ。


「まずはどんな家にするか決めなければなりませんし、また明日ここにいらしてください。設計図を作ります」


「わかりました」


「あとは……」


 まだ何かあるのかよ!


「冒険者ギルドには一応登録をお願いするとして……」


 勝手に冒険者ギルドに登録された。王様の権力が凄すぎる。


「あ! 忘れていた! シェフはいるかね?」


「いりません料理できるので」


 即答する。自分で作る楽しみを奪わないでほしい。


「そ、そうか……。まあ、そのくらいかね。それでは、また明日」


「楽しみにしています。本当にありがとうございました」


「お礼を言うのはこちらの方だよ。ありがとう」


「いえいえ、こちらの方が……」


「いえいえ、こちらが……」


「いえいえ」


「いえいえ」


 しばらく王様といえいえの言い合いに。


 俺王様相手に何やってたんだろう。



 ひとまず別れを告げ、リューたちの元に戻る。


 一人と一頭は熟睡していた。


「ははは……」


 明日の朝、何があったか聞かせた時の顔を想像して笑いながら俺も寝袋に入った。


 まさか色々あって家を作ることになったなんて思わないだろうな。


____________________________________



お待たせしました!そして間が空いてしまってすみませんでした。


王様のキャラが確立してなくて、苦労しました。現実に王様はいないから……。















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