第16話 もういいよ……。からの……
新たにジムが仲間に加わって三日が経った。
ジムがポロッと何かを言えば、大体その真反対の出来事が起こることがわかった。
今朝も、「今日も平和だー。いい一日になりそうな予感がするねぇ」とか言った。
そしてつい先ほど、ずっこけて、(しかも硬そうな地面で)ビビるほどに血が出て、応急処置をする羽目になったのだ。
ただコケるだけであんなになるものか?と思うくらいにはひどい出血だった。
さすが天才フラグ建築士だよ。
って違う!!
このままじゃ俺ののんびりライフがどこかに行ってしまう!!
なんとかせねば!!
『なー、腹減ったべー』
決意を固めていたら、リューがこう一言。
そういえば太陽も真上に上がって、お腹もすいた。
お昼時だ。
「昼ご飯にするか」
「今日もいいですかねぇ?」
「いいですけど……いい加減自分のことは自分でやってくれませんか」
「いいじゃないですか、リューさんの分のついでだと思って」
「よくねぇんだな、これが。あんたは人間、リューはドラゴン!種族が違うの!!人間なんだから料理ぐらいしてください!」
お察しの通り、ジムはリューの存在を知っている。
どうせいつかはバレることになるという判断だ。
しかも、リューがご飯を食べられなくなるし、もういいや、と思ったのだ。
「で、今日はどんなメニューなんです?」
「……あのですねぇ、言わせてもらいますけど、もうこれが最後の昼飯ですよ。明日からは自分でなんとかしてください。食材もバカになりませんし」
本当に、図々しい人だよ全く。
この3日間、食事を提供してきたが、もう無理。
作るのは本当に疲れるのだ。リューの分で手一杯なわけです。
「わ、わかりましたよー。でも、たまにはご馳走してくださいよ。美味しいんですもん。こんな美味しい食事、どこに行ったって食べられませんし」
「まあ、それはいいですけど……」
「わーい、やったぜー!」
なんか子供みたいな人だ。
ものすごい笑顔で喜んでいる。
まあでも、気持ちはわかる。
この世界には豊富な調味料はないみたいだし。俺には美味しい白飯もあるし。
しかもとんでもない獲物をリューがとってくるから、極上の肉を毎日のように食べているようなものだしな。
だから毎日は無理だが、たまにはいいだろう。
「……で、メニューはなんですか」
「海鮮丼にしようかと」
「いいですねぇ」
早速魚を捌いていく。もちろん生食用だ。
買うときに店員さんが言ってくれたので大丈夫。
ちなみにネタはマグロ、サーモン、タイにホタテ、甘エビ、イクラである。
ペースを早めるため、ジムにやり方を教えて、手伝ってもらう。
「お、おおお?」
「いいです、そんな感じですよ」
次々と刺身ができていく。
『まだかー?』
『待てって。すぐ作るからさ』
リューとは念話で会話する。さすがに直接喋ったらまずい。
やがてさばき終わって、刺身を丼や器に盛りつけた酢飯でないご飯の上に乗せていく。同時に切った大根(ツマ)と大葉も乗せていく。大葉はシードレアの市場に売っていた。
ちょっと行儀が悪いが、タレを直接海鮮丼に回して出来上がり。
「できたぞー」
「ま、待ってました!」
『やっとかー』
『あ、リュー、魚とかいけるよな?』
『……俺ドラゴンだぞ?食えるに決まってんだろうが馬鹿野郎』
そこまで言わなくても……。
「「『いただきまーす』」」
ぱくぱくもぐもぐガツガツ……。
「お、美味しい!これは絶品ですよっ!」
「そりゃ良かったです」
『うめぇ。やっぱ獲ってそのまま食うよりも美味えもんだな』
『そうか。お気に召したようで何より』
「これは本当に魚ですか?!本当に美味しい!タレがよくあってます!」
そういやジムさんって肉派だったっけ。
醤油の旨さも魚の美味さも知ってくれたってことでいいのか?
嬉しいことだ。
美味しくいただいた後、再び旅に。
まだ目的地はない。
ジムもついてくるし、なんか穏やかなところがいいのかな?
『なあ、リュー』
『なんだ?こちとら眠いんだ。さっさと要件話してくれ』
『どこかゆっくりできるところ知らないかな』
『わかったおやすm……は?ゆっくりできるところ?』
『うん、あんまり賑やかじゃないところ』
『あー……。うーん……。あ、このまま東に進めば、そんな感じの街があった気がするぞ』
『本当か?じゃあ、そこを目指そう』
旅は続く。
***
王城。
きらびやかな部屋の中で椅子に座るロイ王の前に、数人の男が立っている。
「申し上げます。四日前、海辺の街シードレアにて、メガモンスターシャークがたった1人の男の手によって討伐されました」
「歴史に残る偉業です」
「目撃情報より、ウォーターウェイ・タウンでの一件の男と同一人物の可能性が高いです」
「うむ、前回は逃げられてしまったからのう。しかし、シードレアに行っておったとはな……」
「今回は必ず捕まえてきます」
「捕まえる、とはちと語弊があるのう。わしは話がしたいだけじゃ」
「仰せのままに」
早速騎士団が出発していった。
鬼ごっこ第二回戦、始まり始まり。
***
ジムがいるのでバイクが使えず、だいぶゆっくり進んでいる俺たちは、目的地を決めて一週間にして、ようやく全行程の半分を過ぎた、というところだった。
森に入って、休憩。
カバンでずっと寝ていたリューも、運動ができる。
「はぁー、歩くの疲れたー」
「疲れましたねー」
『ふん、だらしねぇなぁ』
な、なんだと?
『お前は歩かないからだろうが!! こちとら人間だぞ!!』
『知るかってんだ』
はぁ。
「ああ、疲れましたけど、今日も楽しかったです」
?!
なーんか嫌な予感。たまーにビビッと来るんだよな。
大抵そのあとはろくなことにならない。
フラグ建築したのか?
何が起こるんだよ。
ああ、疲れましたけど、今日も楽しかったです。このセリフで、フラグ建築するワードなんてあるか?
危機をできるだけ回避するため、一回森から出て考える。
これが迂闊だった。
「ちょっと、いいかい?」
「はい?」
声がしたので、振り向く。
その瞬間、フラグがきっちり回収されたことを知る。
今日も楽しかったです。
俺にとっては全く楽しくない一日になりそうで。
いや、夕飯の時間なんだぞ。
なんなら何も起こらないようなものだ。
この時間帯でよく来たねぇ。
騎士団の皆さん……。
……いや、あのワードでは無理あるだろ。無理矢理感がすごい。流石にめちゃくちゃだ。
もういいよ……。
「王城まで来てもらいます。よろしいでしょうか」
「はい」
素直に指示に従う。
透明化しようにも、バイクで逃げようにも墓穴を掘りそうで。
前回散々逃げ回ったから、罪にでも問われるのか。
もうどうにでもなれ。
さよなら、俺ののんびり生活。
「転移しますねー。僕の肩を掴んでもらっていいですか」
「わかりました」
1人の男に、言われたように肩に手を置く。
転移魔法なんて便利なものがあるのかよ。
あ、周りが白くなっていく。
ああ、
……しまった、ジムとリュー、どうしようか……。
何かあればうまく逃げてくれることを祈りつつ、完全に視界が白くなったことを確認する。
『スキル【転移】を取得しました。使うには、スキル名を詠唱しながら行きたいところを想像してください』
あの声。
……え?なんで?
こうして、ケータは呆気なく鬼ごっこに負けた。
…………………………………………。
次に目を開けると、すごい部屋に居た。
なんか想像していた通りのお城の部屋って感じだ。
「ようこそ、王城へ。私はロ––––」
そういえば転移使えるんだよな。なんであのタイミングで取得できたかわからないけど。
ここで使えるのかわからないけど、試してみる価値はありそうだ。
ここにいてもいいことなさそうだし。
よし。
「––––おい、聞いとるかの?」
「転移」
詠唱しながら、元いた場所の情景を思い浮かべる。
成功したのか、周りが真っ白に。
帰れる!
「あ、おい、待て!」
「やめろ!」
「王の前だぞ!」
周りにいた家来らしき人達が必死の形相で止めようとしてくる。
……やなこった。
「き、聞いちゃいなかった?!」
お、王様。ちょっとイメージが台無しっす。
「さよならー」
完全に視界が真っ白になる前に、バイバイ、と手を振っておく。
顔面にパンチを受けたかのような顔をしている王城の皆さんを見ながら俺は消えた。
………………………。
と、こうして俺はあっさりと帰ってきた。
ああ、俺ののんびりライフ。こんにちは。
「あ、ケータさん、何してたんですか?」
ジム……!
あんたが立てたフラグのせいだよばかやろー!
『夕飯ー』
そうだな、腹減ったな。
「んじゃ、夕飯にするか」
「私もご一緒させてもらっても……」
「どの口が言ってるんだ。絶対やだよ」
「え?!なんでですか?!私何かしましたっけ?!」
「したした。なんなら極刑に値する」
「なんでぇー?!」
いつもの日々を取り戻した俺だった。
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読んでくださりありがとうございます!
おかしな点等ありましたら教えてくださると幸いです。
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