第15話 やってしまう、そして出会う





 突如現れたメガロドンもどき。


 正直どうするべきか悩んでいる。


『俺行ってくるわ』


「あ?!ちょ、待てこら!」


 リューが出てこようとしたので、慌ててカバンを押さえつける。


『ちょ、やめろ!おい!いてぇ!!』


『出てくるんじゃねぇっ!!』


 周りにいるいる人に聞かれるのもまずいので、念話で口論。


『お前が出てきたら俺がまずいんだって!!ノンビリライフがどっか行く!』


『知るかぁ!!ガァァァァァ!!!!!』


「ああっ!」


 リューは強行突破でカバンを突き破り、飛んでいった。

 ああ、このカバン高かったのに……って違う!

 ヤベェ!公衆の面前に晒されている。

 すごくざわめいている。


「あれ、ドラゴンじゃ……」

「今、あそこにいるあいつのカバンから出てきたようにみえたぞっ」

「あ、あの焦茶色の服の?」

 焦茶色……。

 俺じゃねぇか!!


 せめて透明化しておくべきだった……。


 遅い後悔をするが、仕方ない。


 私、矢崎圭太、一生の不覚である。


 そそくさと逃げようとする。とりあえず逃げないとやばい。


 自身に透明化、ついでにリューにも透明化をかけ、ダッシュでその場を後にする。


 ものすごい乱闘を繰り広げていた二つの姿が、一つになる不思議状態。

 それでもって、なぜかメガロドンもどきが一体で暴れているようにしか見えない現象。


 街の人たち困惑。


 俺ダッシュ。


 とりあえず、と近くの路地に駆け込む。


 そこで息を整える。


 ついでに魔力の消費を抑えるために、自身の透明化も解除しておく。


 しばしの間、休憩していると……。


『ぐ、くそぉ!』


 リューが念話で喚いているのが聞こえた。


 ん?

 おかしいな。念話は意識して相手に伝えようとして使えるもののはずだ。


 ということは……。


 そこで俺は一つの答えに辿り着く。つまり……。


 リューは助けを求めてるってことだな?多分!



 そーですかそーですか。流石のリューさんでも手こずっていますか。


 別に自分が介入すればなんとかなるわけでもないのに、俺はニヤニヤと笑っている。


「まあ、弓矢使えば戦えるだろ。俺がなんとかできるかは分からんが、助けにはなれるといいな」


 俺は路地から動き、2階建てのとある商店の屋上に移動する。


 弓矢をアイテムボックスから出してくる。


 封印するって決めたのにもう解放している。


 海にいるメガロドンもどきには十分とどく距離だ。


 狙いを定め、キリキリと引き絞る。


 タイミングを見て、パッと手を離す。


 矢は唸るような轟音を上げてメガロドンもどきに一直線。


 ギュオォォォォン!!!!


 バシーン!!!!!!!!


 ボシャーン!!


 ……お分かりいただけただろうか。


 まず、矢がすごい音を立てて飛んでいく。

 もはやこの音は弓矢の範疇を超えていると言ってもいい。

 そして、またまたすごい音を立ててメガロドンもどきの体に大穴を開けつつ貫く。よってメガロドンもどき絶命。


 最後に、絶命したメガロドンもどきが海に沈んでいった。


 や、やっちまった……。


 っていうか、この弓矢の性能甘く見ていた。


「ここまでとは……」


『ガァァァ』


 ん……?


 んんん?!


 あ!


 やば、リュー怒らせたか。


 あいつ獲物に関してうるさいからな。

 絶対に吠えて、「何やってくれてるんだこらー」とかいうんだろうな。


『ガァァァァァ!!!!! 何やってくれてるんだコラァァァァ!!!!!』


 ……。


 想像以上に怒ってた。


 やばい、やっちまった。


 すごいスピードでリューは飛んでくる。


『俺の獲物だったのに!!何奪ってんだよ!』


 いや、獲物とかいうけど、流石にメガロドンもどきは食わないぞ。


『許さねぇ!!』


 どうしよう?!

 前までの俺なら、こう思っていたかもしれない。


 だが、俺には……。


〈神が強化したソード〉がある!


 素早くアイテムボックスから取り出して、リューに向けてやる。

 ……まさか封印を決意した二つの武器がその日のうちに両方とも解放されるとは思わなかった。


 俺の剣を見た瞬間、リューはものすごい急制動で止まり、じわじわと後ずさっていく。


『……すまん。謝るから剣を下ろしてくれ』


 一気におとなしくなったリューを見て、思わず笑ってしまう。

 剣を下ろし……というか、アイテムボックスに直しておく。


「あのなぁ、俺とお前はある意味パートナーなんだからさ、別にどっちが倒したっていいだろうが」


『ごもっともで』


「もうそんなことで怒んなよ。周りにも迷惑かけちゃうし」


『了解しました』


 俺は、商店の屋上から地上に降りる。


 そしてそのまま何も考えず、市場の方に歩いて行ってしまったのが運の尽き。


「メガロドンを倒した英雄だぁ!!!」

「助かったよー!!!」

「ありがとーう!!」


 大歓声で周りが埋め尽くされる。


 ……なんか既視感を覚えるぞ。

 また鬼ごっこか?

 もう嫌だぞ。


 困るので、その場から音速で離脱。


 宿に戻って荷物だけ整理、前払いなので料金は必要ないから、部屋の鍵だけ返して、この街を出る。


 ちなみに宿を出るその瞬間、透明化と無音化をかけておく。


 さっさとバイクに跨って、なるべく遠くに行けるようにエンジン全開で走る。


『お前さぁ、俺に説教してた時、周りに迷惑とか言ってたよな』


「おお」


『俺、今だいぶ迷惑してるぞ』


「……」


 静かに平野を走っていく。


 ***


 海辺の街を出て1週間。


 王城には伝えられていないだけか、まだここまできてないせいかは分からないが、鬼ごっこはまだ始まっていない。


 そのことにホッとしつつ、道端の木陰で休憩。


 午後3時ごろだ。

 空気が一番美味しく感じる時間だと俺は思う。


 自作のビスケットをつまみながら、ぼーっと空を見上げている。


 すると。


「この菓子うめぇな。こんなの食ったことない」


 なんか隣に見知らぬ男。


「…………」


 たっぷり数十秒固まって。


「いや、あんた誰だよ?!」


 叫ぶ。


「おっと、こりゃあ失礼。俺はジム。よろしくなぁ」


 おっとりした喋り方。体は大きいけど、のんびりしてそうな人だ。

 ……いや、本当に誰だ。っていうか俺のビスケットを勝手につまんでるんじゃねぇ。


 そんなことを思っていると、急に鑑定が発動した。


[ジム・ケディン]

 38歳。独身。好物・菓子。レベル:17 体力…––––––。

 職業:無職。スキル…天才フラグ建築士


 ……は?


 まあ、ステータスは標準的だからよしとしよう。

 問題はスキル。


 なんだフラグ建築士って。


 いや、知識としては知ってるけど、意味がわからん。


 こんなやつ、俺ののんびりライフにはいらないんだよ!!


「いやー、しかし、いい天気だねぇ。夜は綺麗なお月様が見えるなぁ」


 は?急に何を……ってうわわわわわわわわわ!!!!!


 突然空が曇ってきた!!!!

 ものすごくどんよりしていて、今にも降り出しそうだ。


 天才フラグ建築士ヤベェ!!


 急いでテントを張る。


 もうポツポツ降ってきた!


 今日はもう移動は諦めた方がいいだろう。


「便利そうなの持ってるねぇ」


 あんたのせいでこれを出さなければならないことを理解していただきたい。


「なんか、俺、言ったことと正反対のことが起きちゃうんだよね」


 そのスキルのせいですが。


 相手のスキルは一般人は見たりできないので、俺がおいそれと「スキルのせいだ」などとは言えない。


 クッソ、困った。


「あんた、面白そうだからついて行ってもいい?」


 リューと同じ思考してるやつキタァー!!


 ちょっと違うかもしれないが、言ってることは一緒だ。


「お断r「いいよね?」


 ぐっ。


「おことわ「いいですよね」

「おこと「いいでしょ?」

「おこ「ね?」

「お「いいですよね?」

「「いいですよね?ね?」


「あー、もう!分かりました!いいですよっ!」


「わーい」


 わーいじゃねぇんだわ38歳独身さんよ。


 困ったなぁ。


 悩みの種が追加される出会いをした俺だった。


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読んでくださり本当にありがとうございます!















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