第12話 騎士団と鬼ごっこ。




 俺とリューは、道中にある木陰で一休みしていた。

 念のため透明化と無音化はしたままだ。


 そんな俺たちの前を、農民らしき格好をした老夫婦が通り過ぎた。


「久しぶりに見たわねぇ、あんな大軍は」

「何十年ぶりかのぉ」

「なんか街を助けた人を探しているとかねぇ」

「大変じゃのぉ、騎士団の方々は」


 その会話を聞いて、俺とリューは顔を見合わせる。


「や、やばいんじゃねぇか……?」


『……おう。すまん』


「いや、いいけどさ、これはまずいんじゃねえのか」


『ああ、多分探してるやつはお前だろ』


「十中八九その通りだな……」


『話してる風だと結構近くにいるんじゃないか?』


「そうだな……」


 どうしようか、と考えていると、ここでとんでもないアクシデントに見舞われる。


 なんと透明化と無音化が切れてしまったのだ。


「え?!なんで?!」


『魔力が切れたんじゃないか……?』


「マジかよ?!今までそんなことなかったのに!!」


 実は魔力の使用量が回復力を上回っていたからだ。

 魔物を倒すときに力の調整をできていなかったせいで魔力を使いすぎた。


 あ、でも俺には【魔力自動回復】があるじゃないか!!

 大丈夫、すぐに使えるぞ!!


 そう思っていたのに……


「なんで全回復しないと使えなくなるんだよ!!」


 なんと、魔力が切れると全回復するまで魔法やスキル(魔力を使わないスキルは除く)が使えないのだ。


 最悪だ……!


 さらに俺に追い討ちをかけてくる出来事が。


「あ、あそこだ!!いたぞ!!」

「あの顔だ!!間違いないっ!」


 げっ!!見つかった!!!!

 近づいてきていた俺を探す騎士団に見つかってしまった。


『ヤベェ、俺はトンズラするぜっ。しばらく別行動なっ』


 リューはそう言い残し、騎士団から見えないように逃げていった。

 おーい、リューさーん……。合流できるのか……?


 もちろん俺も捕まりたくないので逃げる。

 なぜなら、のんびりできなくなりそうだからだ!!

 俺の勝手な都合なんて知らない?

 そんなの俺だって国の事情なんて知るかってんだ!!

 俺はのんびりライフを望んでここにきたのに、神様がミスっちゃったせいでのんびりできなくなるなんて、まっぴらごめんだ!!

 少し神様を恨む。


 さあ騎士団の方達。鬼ごっこの時間だ!!


 逃げる。

 来た方向に戻っている形になるが、どうだっていい。

 謎のステータス、敏捷MAX(第2話参照)を生かし、全速力で逃げる!!


 はは、やっべ、敏捷MAXサイコー!!

 多分時速80キロくらいじゃないか?!


 馬に乗って走っているはずの騎士団の方達も俺に追いつけない。

 なぜだ。見た感じあの馬はサラブレッドなんだけど。

 いや、速度を考えると妥当っちゃ妥当なんだけど、どうしても違和感が……ね。

 なんで人間なのに馬に勝てちゃうんだっていう。


「なぜだっ!なぜあんなに速い?!」

「もしかして敏捷カンストしてるのか?!」


 騎士団の方達も疑問に思ったようで。


 ……っていうかカンストってこの世界でも話されてるのな……。


 体力もカンストしているので訳のわからないスピードを維持できている。

 チートじゃねぇか。


「ウラァァァァ!!!!!!!」


 叫びながら走り続ける。

 叫ぶ必要はないけど。


 そんな感じで逃げていたら、またまためんどくさいことに。


「あ、ドラゴンだ!!!!!」

「もしかしたらあの街にいた個体かも知れんぞっ」

「討伐だぁ!!!!!」


 もしや……。


 嫌な予感がして、走りながら振り返ると、やっぱりリュー。


 合流が早すぎるんだよバカヤロウ!


 とりあえず知らんぷりして走る。


 そのまま方向転換して西へ。

 鬼ごっこ開始地点から南西の方向に行く形だ。


 いやー、しかし全く疲れないっていいな。

 ずっと走り続けれそう。


 っていうか体力減ってないってどゆこと?

 ステータス画面を見て驚いた。


 確かめるため走りながらステータスを見ていると、減ったら回復して満タンに、減ったら回復して満タンに、減ったら回復して……と延々に体力が減らない。


 なんだこれ。【体力自動回復】最強じゃねぇか。


 爽やかな風が吹く草原の中、俺は疾風を巻き起こしながら爆走する。

 騎士団とはもうかなりの差がついていた。


 鬼ごっこは俺の勝ちだ。


 ***


 鬼ごっこ終了から一夜明け、王室にて。


「何?!」


「申し訳ありません王様。彼はとんでもなく足が速く、我ら騎士団の剛速を誇る馬たちを持ってしても彼には追いつけませんでした……!」


「むう、馬でも追いつけないとは……」


「おそらく敏捷のステータス値が最高かそれに近い数値かと……」


「ますます欲しくなってくるな……」


「もう捕まえるのは不可能かと」


「敏捷を鍛えるのは難しいからな……。よし、ゼフ、なるべく足の速いものを手配してくれ」


「わかりました」


 王様はそばにいた家来に、足の速い兵士を連れて来させるように頼んだ。



 鬼ごっこ、第二ラウンド開始!

 ただし王様勢からの一方的。


 ***


 鬼ごっこに勝利した俺は、なんとかリューと合流して、とりあえず鬼ごっこを始めた地点を目指していた。


 魔力も復活して、透明化と無音化を上手く使いながら旅を続けていた。


 しばらくして、良さげな森を見つけてそこに入って昼食にする。


 先ほどからリューが腹減った腹へったとうるさい。


 とりあえずレッドビッグピッグでステーキを焼きながら、何を作ろうか考える。


 リューが獲ってきたブロンズビーフキャトゥルがあるんだよな……。


 うん、ピーマンあるし、ピーマンとのピリ辛炒めにするか。


 早速料理していく。

 時々リューにステーキを焼いてあげながら、ご飯炊きも同時並行で進めていく。


 出来上がったら皿に盛り付けていただきます。


 ご飯とめちゃくちゃ合う。美味し。


 食べ終われば再び旅だ。


 バイクを走らせて、鬼ごっこ開始地点まで来た。

 さあ、改めて北を目指すぞ!!と思っていると、騎士団がやってきた。

 一瞬びっくりしたが、透明化と無音化を使っているので絶対にバレない。


「確かこの辺りで最初見つけたんだよな」

「ああ。とりあえず俺たちは北に行こう」


 騎士団の会話を盗み聞き。


 あ、これ結構面白いぞ?!


 って、「俺たちは」ってことはあちこちに俺捜索隊がいるってことかな……。

 やだな……。


「いやー、しかしなんでわざわざ俺たちが探さないといけねぇんだ……」


 ごめんな。俺が逃げてるからだ。

 探してるやつは君のすぐ隣にいるんだけどな。


「魔物を一気に倒すって、訳分かんねぇよな」


 うん、多少美化されてるし、俺も望んだ訳じゃない。

 そのせいでリューに怒られたし。


「あー、彼女ほしー」


 うんうん、わかるよその気持ち……じゃねぇ!!

 仕事中にいいのかよ。騎士団だし、怒られるんじゃ……?

 そう思っていたら、案の定上司らしき人からのお叱りを受けていた。

 どんまい。


 そんな感じで、騎士団についていきながら会話を聞いていた。

 結構面白いよこれ。




 結局、その後一ヶ月もの間捜索し続けた騎士団だったが、見つからないまま王城に帰っていった。そりゃ透明人間になってるんだし、見つからないけど。


 鬼ごっこ第二ラウンド、終了。


 勝者、俺!!


 ちなみに俺はついていく騎士団を変えつつ、会話を聞き続けていた。

 面白かったよ。



 ***


 騎士団が帰ってしまって、再び旅を再開させた俺たちは、北へ北へと進み続けていた。


 そして約二週間後、見えてきた街。大きな門がある。


 リューをしっかりカバンに押し込めて、門を通る。


 流石にここまでくると、俺の話は伝わっていない。

 やっとゆっくりできるよ。


 ほっとしながら、まずは旅の途中でリューが獲ってきた魔物たちを売るため、冒険者ギルドへ。


____________________________________


読んでくださりありがとうございます。









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