第9話 再び旅に出る




 市場へ向かう。


「何が売ってるんだろう……」


 結構楽しみだったりする。

 道中困らないよう、たくさん買うぞ!



 しばらく歩くと前方に市場が見えてきた。

 市場は初詣の時の参道に屋台が並んでいるイメージを持ってくれるとわかりやすいと思う。

 屋台だけじゃなくてテントで品物を売っていたり、それこそテーブルに品物を乗っけただけのシンプルな店舗もあって、多種多様な出店の仕方をしている。


「へぇー、思ってたよりすげぇことになってるな」


 市場というよりかは、ものすごい規模のお祭りかと思うくらいに所狭しと店が並んでいる。道の端だけでなく、真ん中にも店があるから、ものすごく道が狭くなっていて、歩きにくい。

 あ、なんかいい匂いもする。

 リューが起きた……。

 あああああ、カバンから出てくんな!!


 リューはほんの少しだけカバンから顔を出した。

 一応透明化を使う。見られてもおかしくないしね。


『腹減ったなー』

 棒読み。


「わか」

 おっと。

 人がいるから念話で、と。


『わかった。何か食べようか』

 一応昼飯食ったのにな。

 まだ食えるのか。


『俺、肉食いたい』


『了解。探すよ』


 やっぱり肉が一番好きなんだな。


 食料調達の前に肉料理を提供する屋台を求めて歩き出した。



『お、ここなんかいいんじゃないか?』


『美味そうな店だな。ここで』


『わかった』


 そこはケバブを出す店だ。大きな暖簾に「ケバブ!!」って書いてある。

 なんかすごく雑に作られてる雰囲気が半端なくて思わず吹き出してしまった。


 でも。

 ちゃんと専用の器具を使って作っている。

 やっぱりあるんだな、この世界にも加熱器具とかが。


 欲しぃなぁ……。

 どこで売ってるんだろう。


 じゃなくて。


「すみません、ケバブください」


「あいよっ!!」


 ちなみに串焼きのケバブだ。しかもしっかり羊の肉。

 この世界だからもしかしたら羊じゃなくて羊のビッグバージョンみたいな魔物かもしれないけど。


「一本200イェンだ!」


「十本お願いします」


「え、十本?!」


 驚かれたので、嘘で誤魔化すことにする。


「いえ、友達の分です」


「そうか、君一人で食べるのかと思っておっちゃんびっくりしたぞ!ガハハッ」


 九本平らげるやつがカバンの中にいるんだけどな。


 代金を支払い、串を受け取る。


 人目のないところでリューに渡してやる。もちろん九本。


 ガツガツッ


 すごいスピードで食っていく。


 俺も食べる。

 もしかしたら俺ケバブ初めてかも。

 まさか現代日本でじゃなく異世界で初ケバブとはな。人生何があるかわかんないな。

 ……俺もう人生終わったっけ。



 ちょっと虚しくなりながら食べ終えた。


 流石にリューも満足したようだ。

 じゃないと困る。

 昼飯散々食べてさらにもっと食うとかありえない。


 さて、今度こそ食料調達に。


 市場を見て回る。


「お、おおおおおお!!!!!」


 めっちゃ良い八百屋があった。


 他にも八百屋はあったが、かなり安い。


 すげぇ。


「うちの野菜はもうあんまり日持ちしないんだ。だから安いんだよ」


 店番のおばあちゃんが教えてくれる。


 でも、大丈夫なんだ!


 アイテムボックスはすごい。


 なんと、入れておくと物が劣化したりしない。

 つまり、アイテムボックスの中は時間が止まってるのだ。


 これは、この世界で旅を始めて、数日してから、今更と言った感じでキャベツが思いっきり新鮮に近いことで気づいたのだ。


 どう考えてもアイテムボックスでしかない。

 もしそうでないなら、異世界では物が腐らないか、現代日本から持ち込んだものが腐らないだけの話だ。

 そう思って、真相を確かめるためにリューが獲ってきたレッドビッグピッグを使って実験してみたのだ。

 ステーキ大に二つ切り分ける。

 そして、一つをアイテムボックスに入れ、もう一つは直射日光(日光かどうかはわからないが)が当たらないように箱に入れて持ち運びながら数日旅を続けた。


 すると、アイテムボックスは全然大丈夫だったのに、箱に入れていた方は変な匂いがしていた。

 多分魔物特有の匂いだ。すげぇ匂い。言っちゃ悪いが、めちゃくちゃ臭い。

 もう匂いたくない。


 それは良いとして。

 それでアイテムボックス内時間停止論が確立した。

 あんな実験で全てが確かめられたとは思ってないけど。

 もしかしたら例外があるのかもしれないし、それはどうとも言えないが、この機能はかなり有難い。


 ということで、しっかり大量に買うことにする。

 なんなら店の品物無くす勢いで。

 おばあちゃんにめちゃくちゃ驚かれたが、うちは大家族、という嘘で誤魔化した。

 そんなことをしても、まだお金はあるので、市場にある安めの八百屋をハシゴして大量に野菜を手に入れた。


 今更だが商品は現代日本の八百屋のものとそう大して変わらない。

 所々におかしな色のキノコもあったりしたが。


 そうして十分すぎるほどに野菜を確保した後は、何かいいものないかなとしばらく市場を歩いてみて回ることにする。すると。


「………!!!!!」


 すごいものを見つけた。






〔米屋〕




「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」


 歓喜。


 まだこの世界で米屋を見たことはなかったから、めちゃくちゃ嬉しい。


 即買いだ。


「くださーい」


店の前で立っているおじさんに話しかける。


「……あいよ」


 ?


「どうしたんですか?元気がないですね」


「ああ、この店、やめないとって思ってな」


「え?!なんでですか?!」


「そりゃあお前、ここら辺の野郎どもはこの米を食わねぇからだよ」


「ウソーン」


「ほんとほんと」


「美味しいのにッ!!」


「だよなぁ!!うまいよなぁ!!」


 意気投合。


「お前、話わかるなぁ。どこ出身よ。まさかタナカマチじゃないだろうな」


「え?違いますよ。遠い国からやってきたんです」


「ふーん、タナカマチ出身じゃないならいいや。でも、嬉しいなぁ、コメの良さがわかるやつがいて」


「あ、ありがとうございます」


 いや、さっきからタナカマチってなんだ?

 イントネーションといい、語呂といい、日本人の田中や町しか思い浮かばない。

 ?!

 待てよ……?


 もしかしたらこの世界には俺の他にも誰かがやって来たのかもしれない。

 あくまで推測だが、その人、田中さんって名前じゃないかな。田中町ってのを作ったんじゃないだろうか。

 そして、俺みたいにアイテムボックスがあって、現代日本から米を持ち込んで、それを播いて、田んぼを作ったりしたんだろう。そして、その村で生活する異世界人がいて……で、この米屋のおじさんはタナカマチで生まれたんだろう。

 なんかそんな感じがする。

 ならその田中さんすごいなぁ。

 生きてるのかな。


 いいや、旅の途中とかに行けたら。


 米を買おう。大量に。


「すみません、ある米全部売っていただけないですか」


「な、なんだってぇ?!」


「だから、全部売ってくださいって……」


「ありがどうー!!」


「……」


 なんか泣かれた。

 感謝したいのはこっちの方だけどね。


 有難いよ、ほんと。


 全部買ってもお金はまだまだ残っている。

 全部使ってしまうのもどうかと思うけど、ものを買っておくなら今のうちだし。


 まだまだ市場を見ていく。


 でも、大体肉や野菜、そして雑貨品だけで、めぼしいものはなかった。

 流石に魚屋はないみたい。

 鮮度がもたないんだろうね。


 うーん、海にも行ってみたいな!

 海辺の街とか、海の幸がたくさん食べられそう。

 よし、いつかいこう!


 そう思いながら歩いていると!



「あああああああああ!!!!!!!!!」


 なんか今日驚いてばっかりなんだけど、でも!!!!!!


「すげぇぇぇぇぇぇ!!!」


 売られていたのは、キッチンカー。というより、軍隊の「フィールドキッチン」に近い。車じゃないし。

 とはいえ、かまどがついているだけの感じじゃない。

 テーブルがついていて、まな板が置ける。

 オーブンもついている。

 コンロもついている。しかも、普通のサイズから大きなサイズまで。これならリュー専用のフライパンも置けそう。

 なぜか炊飯器もある。この辺の人たちは食べないって言ってたのに。

 食器洗浄機もある。

 下には2輪ではなく4輪のタイヤで、安定性は高い。

 ここはキッチンカーに似てる。



 とりあえず感想。うーん、なんで?


 嬉しいってのもあるけど、なんで電気が普及してないのにこんなのがしっかり存在してるんだよ。おかしくないか?


 でも、めちゃくちゃ嬉しい。

 加熱器具。

 欲しかったやつ。思ってたのと少し違うけど。

 絶対買う!


「買います!!」


「お前、マジで言ってんのか?」


 中年の小太りなおっさん。


「ほんとです。金ならあります!!」


 250000イェンも!


 ……あれ?前回マントの時おんなじこと言って結局足りなかったんだっけ。


 頼む!足りててくれ!


「ふーん、まあ、いいか。売れるわけでもないし、欲しいやつにやった方がマシか。いいぜ、タダで譲ってやる」


 え、マジで!?無料タダ?!


「ほんとですか?」


「ああ、こいつは試作品でな、作ってみたはいいが、売れないし。需要ないんだろうな。だからお前に譲ってやる」


「需要、ありますよ。俺に」


「ハハッ、違いねぇや!」


「あははっ」


 しばらく二人で笑う。


「だがな!!!!!!!」


 うわびっくりしたっ!!!


「大事に使うんだぜ。試作品とはいえ、丹精込めて作り上げてるからよ」


「はいっ!!大事にします!!」


「へへ、お前にやれてよかったぜ」


「本当にありがとうございます!」


 何度もお礼を言ってその場を後にする。近くにある路地裏に入って、こそっとアイテムボックスに……。よし、キッチンカーと呼んじゃおう。キッチンカーをアイテムボックスにしまった。


 やった、良い買い物したぜ!!

 料理するのが楽しみだ!!

 野菜もあるし、米もあるし、肉もあるし。


 何よりこれでしっかりした屋台が開けそうだ。

 ならテーブルも買った方がいいな。カウンター用に。ついているテーブルは車体の片側にしかないから、その反対側にテーブルをつければうまくやれると思う。


 ということで、カウンターに向いているテーブルを探す。


 とてもいいものが見つかったので即買い。これも路地裏でアイテムボックスに。


 これで屋台はいつでもできるな。


 まだお金はあるな。どうせ屋台をやるんだし、食器買うか。


 そして、安いいいやつを大量購入。


 うーん、もういいか。


 買うものはもうこれ以上ないな。


 よし、準備していよいよ旅に出発だ!!


 ***


 入って来た門とは違う門からこの街を離れる。


 また来よう。色んな人にまた会いたいし。屋台のニイチャンとかね。

 大きい街であるセントラル・シティも見たいし。

 そのうち戻ってくるだろう。


 この先何が待ってるのかワクワクするなぁ。



 あ!!!!!


 ハンモック買うの忘れてたよ……。

 買おうと思ってたのに……。

 夢だったんだよなー、ハンモックで寝るの。

 まあ、次の街に着いたら買うか。


____________________________________


読んでくださりありがとうございます。







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