第8話 マントも買う




 翌朝、起床した俺たちは、朝食や歯磨きなどを済ませた。買取の件は、今日の昼だったよな。どれだけの値段で売れるか楽しみだ。

 やることもないので、午前中はゆっくりすることにした。


「何しようかな……」


 ゆっくりする、とは言ったが、リューは動きてぇって狩りに出かけてしまった。

 つまり、今俺は一人きりだ。


 一人っきりなら、やることは一つ!!


「寝ーようっと」


 仕舞ってしまった寝袋を取り出して、張りっぱなしのテントに再び潜り込む。


 ガーッ……

 ガーッ……



 ***



 むにゃむにゃ……


 …………。


「はっ!!……あっ!!今何時だ?!」


 少し寝過ぎたか?!


 慌ててスマホを確認。


「あー、良かったぁー……」


 今は11:30だ。


 でも昼飯にするにはちょうどいいな。


 そろそろリューも戻ってくるだろうし、持って帰ってくるであろう獲物を使おうっと。


 ちなみに昨日リューが獲ってきたブロンズビーフキャトゥルは、朝食で使い切ってしまった。


 ほんとに、リューはどんだけ食うんだよ……。

 食事の用意が大変だ。ま、いいけどさ……。


 さてと。早く戻ってこないと昼飯作れないんだよなぁ。


 まだ帰ってこないのか?


『ふー、ただいま』


「お、帰ってきたか!…………」


 ナニソレ。その大きい物体は一体なんだ?!

 っていうかめちゃくちゃ持ってるな!


『久しぶりに手応えのあるやつと会えたぜぇ』


 は?


「なんなのさ。手応えのあるやつって……」


『これか?』


 リューが指したのは大きい物体。


「それなんだやっぱり」


『これはだな……』


 ゴクリ。

 なんかよくわかんないけど緊張してきた。


『これはだな……』


 ……。


『これは……』


「それはなんなんだ結局!」


『あっ、思い出した!こいつ、バハムートっていうんだぜ』


「リュー、忘れてたんだな……。はー、全く……いやちょっと待て。リュー、今なんつった?」


『バハムートっつったけど』


「バ、バ……バハ……」


『おい、どうしたんだ、おい』


「リュー……」


『なんなのさ』


「お前、なんつー物取ってきたんだよ……」


『?俺、なんか悪いことしたっけ?』


「はぁ。もういいや。でもこれどうするんだよ」


『よっと』


 スパンッ


『これで飯、作ってくれよ』


 いやそんな無茶な。


「お前、バハムートって、俺が元々いた世界だと結構有名なドラゴンなんだぞ?多分」


『へぇー……。キョーミないや』


「聞けコラ!」


『……なんなのさ』


「これ、どれくらい強かったんだよ」


『うーん、俺の10分の1くらいの強さ?』


「は?」


『いや、だから俺の10分の1くらいの強さだったんだってバハムート』


 え、つまり、バハムートが10頭いてやっとリューと互角?

 リューさん、あんたどんだけ強いんですか……。


 リューの計り知れない強さに震える。


 絶対怒らせたらダメだ、これ。

 機嫌損なわないようにしないと……!




 あれ?そういえばバハムートって食えるのか?

 鑑定で調べてみる。


〈バハムート〉

 最強クラスのドラゴン。超激レア。もちろんものすごく強い。

 強さ最上級だけあって肉も最上級の味わい。倒すのはほぼ不可能。

 超激レアで滅多に遭遇しないが、万が一遭遇した時には猛スピードで逃げ、頑丈な建物に入るなどの行動が必要。全ての部位があり得ないほどの高額で売れる。その金額はなんと現代のアメリカの年間予算に匹敵するほど。


 な、なるほど……。肉だけ食べるんだから、素材が余るのは必至だけど、その素材がもう一生売れることはないってことは分かったよ。

 仮に俺が冒険者ギルドでバハムートの素材を出したら……。


 ああ、もう考えるだけでクラクラする。


 でもどうしよう。アイテムボックスの中で腐らせて置くのももったいないしなぁ……。


 ま、いっか。その時が来ればその時に考えれば良いし。


 とりあえず今は飯だ飯。


 さっさと食って、冒険者ギルド行こう。

 んで、200000イェンに届かなかったらすぐにこの街出よう。

 もし200000イェンに届けばマントを買ってからこの街を出ることにしよう。


 さーて、今日は何作ろうかな。もう最近はなんだかんだ料理が楽しくなってきた。

 大変だけど。

 しんどいよ……。

 まあ、材料とかリューに助けてもらってるしな。仕方ない。


 よし、せっかくだし、ステーキ焼いとくか。

 バハムートがどんな味か、気になるし。

 だって「最上級の味わい」だぞ。

 もう食欲そそられる。


 ……なんかここ最近ステーキばっかりな気がするけど……ってか肉料理しか食ってないんだけど……。

 いいや。しっかり味わうにはステーキだし。

 味付けは塩胡椒だけで。これ正義。


 早速準備してステーキを焼く。

 うーん……やっぱり専用の加熱器具欲しい。あるのかな、この世界に。


 そうこうしているうちにいい感じに焼き上がる。今回はウェルダンで。

 流石にレアとかミディアムでいく勇気はない。

 ミディアムならいけるかもだけど、生で食べられるか分かんないしな。


 ああ、なんかすげぇいい匂い。


 食器に移す。


「リュー、できたぞー」


『おう!』


 なんだかんだリューも楽しみにしているようで。


「『いただきます!』」


 リューは大きいサイズを一口で。10枚焼いたけど、もしかしたら足りないかも。


 俺も一口齧る。



 ……。



 ?!



「『う、うめぇ!!!!!!』」


 リューとハモった。


『なんだこれ、めちゃうまい!やっぱ生とは違って美味い!』


「すっげ、こんなの初めてだ」


 めちゃくちゃ美味しい。

 なんか、牛肉のようで牛肉じゃないんだけど、でも……ああ、この美味さがうまく伝えられない!!

 とりあえずめちゃくちゃ美味しい。もうやばい。


 異世界来てよかったぁーーーーーー!!!!!!!!!!


 あっという間にリューも俺も食い終わってしまった。

 美味かったぁ。

 リューもちゃんと足りたようで。

 なんかリューが食べる分量把握できてきてる気がする。


 でも……バハムートでこんなに美味しいのに、最強のドラゴンとか食う機会が来たらどうしよう。もう倒れちゃうかもしれない。

 ん?でも、ドラゴンとってくるのリューだけど、最強のドラゴンを食べる機会が来たイコールリューが最強になる?

 怖っ。

 でも今日のことがあるから、本当のことになりそう。


 ……ああ、怖っ。


 いいや。

 腹も膨れたことだし、冒険者ギルド、行くことにしよう。


 野宿のセットをいつも通り片付け、いざ冒険者ギルドへ。

 さあ、何円になってるかな……。あ、円じゃなくてイェンか。まだ慣れない。


 ***


「お待ちしておりました。ケータ様ですね。こちらへ」


 え?


 なんかVIP待遇……。なんで?


 前回使った市役所かなんかの窓口のようなところへは向かわず、


「え?ギルドマスタールーム?え?え?」


「ギルドマスターと直接の取引になります。どうぞお入りください。」


 は?


 なんで?なんで?


 なんかすごいキラッキラに装飾された重そうな扉を開け、中に。


「や、どうもどうも。ギルドマスターのエディだ。よろしく」


「あ、ケータと言います。よ、よろしくお願いします」


「早速なんだが……ありがとう」


 ……はい?


「うちのギルドにあれだけの高品質な素材を提供していただいて」


「え?」


「あなたが持ってきてくださった数々の素材は、ここ数年でも稀にしか見ない高品質でした」


「い、いえ」


 口が裂けてもドラゴンが取ってきてくれたなんて言えない。


「知り合いに頼まれたんですよね。その知り合いにも礼を言っておいてください。セントラル・ノース・シティのアドベンチャー・ギルドマスター、エディと言ってくれればわかると思います」


「わ、わかりました」


 その知り合い(?)、ここにいるんだけどね。カバンの中で気配を消して眠ってる。


「さて、買取金額の方なんですが……」


「はい……」


 ヤッベ、めっちゃ緊張してきた。


「540300イェンで取引させて頂きたいのですが……」



 一瞬自分の耳を疑う。


「え、540300イェン……」


「ご不満ですか。ならば550000イェンでどうでしょう」


 なんか上がったぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!


「いや!最初の金額で大丈夫です!!」


「そうですか。では、こちらが540300イェンです。お確かめください」


 麻の袋が渡された。



 今更だが、この世界の通貨、イェンについて説明する。


 基本的には1イェン=1円で考えていいが、物流がそんなに良くないので、単なる人参が結構高かったり、キャベツがお高めだったりと思えば、なぜか岩塩などがものすごく安かったりする。つまり、現代日本の物の価値は当てにならない。


 そして、通貨の形だが、もちろんクレジットカードなんてないので、買い物は基本現金のみだ。

 そして、硬貨も紙幣も種類が基本一緒で、1イェン玉、10イェン玉、50イェン玉から1000イェン札、5000イェン札、10000イェン札とある。

 肖像となっている人物は全くわからないけど、一応描かれている。形は見た感じ日本銀行券だ。透かしもしっかりしている。なんか発達している技術のバランスがおかしい気もする。

 ただし、現代日本にはない100000イェン札、500000イェン札がある。

 これがまた厄介で、大きな買い物(例えば家具とか)なら、その紙幣を問題なく使えるが、普通の買い物でそれを使えないらしい。


 へぇーと思ってもらった(?)ところで、中身を一応確認。


「大丈夫です」


「そして、こちらが食べられる部位となります」


 そういって、なんか箱が渡された。

 なんか、特殊な素材でできていて、中身が腐らないらしい。


「ありがとうございます」


「こちらとしては肉も売っていただきたかったのですがね。需要がありますし。でも、仕方ありませんな」


「……」


 何にも言えない。リューがいるから、仕方ないのです。

 リューがいなくなれば、しっかり売りますよ。




「この度は本当にありがとうございました。また機会があれば是非ここのギルドヘお願いします」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 一通り挨拶を済ませ、冒険者ギルドの建物を出る。


「よっしゃぁ!!!!!!!!」


『うわ?!なんだよ!』


「悪いリュー、起こしちゃったか」


『なんかあったか?』


「540000イェンもらえた。マントが買える!!」


『ふーん。俺は美味い飯が食えればそれでいいや』


 相変わらず食いしん坊なやつ。


 少し早歩きになりながら、前マントを見つけたあの店へ。



 ……あれ?


 俺、ドラゴンの皮持ってるよな。

 マント作れるんじゃね?


「マント作るか」


『何の皮で?』


 珍しくリューが興味を持った。


「いや、バハムートの皮で作れるじゃんと思って」


『やめとけ。頑丈だけどものすごく重い』


「え、そうなの?」


『ああ、マントには適さない』


「そういえば店員さん、言ってたな……」


 俺が買いたいマントの皮の元となるホワイトドラゴンは「マントの材料になるドラゴンの中では最も強い」と。


 だから、ホワイトドラゴンが一番丈夫で軽いとかそんな感じだろう。


「じゃあ、バハムートの皮は何になるんだ?」


『知るかそんなの』


 えー。それが一番知りたいじゃん。


 そんなことを言ってると、いつの間にか服屋の前に。


 店内に入り、迷わずホワイトドラゴンのマントを手に取る。


 カウンターに持っていく。


「あ、こないだの」


 あの時の店員さんだ。


「こんにちは」


「こんにちは、今日はどのような用件で?」


「これ、買います」


 カウンターの上に置いた途端目を丸くされて驚かれた。

 なんならこっちがびっくり。


「まさか、もうお金貯まったんですか?何か悪いことしてないですか?」


「いや、臨時収入が入っただけです」


「ほんとに?」


「はい」


 まあ、あながち嘘でもないだろうし。


「ま、いいか。代金はわかってるね?」


「はい」


 きっかり250000イェン、しっかり出した。

 出した時もやたら驚かれたけど。


 しっかり商品を受け取る。


「ありがとうございましたー!!」


 店を出る。


 すげえいい買い物した気分。

 ルンルンだ。


 さて。


 マントも手に入ったことだし、旅に出るとするか。


 でもその前に食料調達だな。

 特に野菜とか。


 思いのほかお金が入ったし、たくさん買い込んでおこう。


 まずは市場にGOだ!



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読んでくださりありがとうございます。

お待たせしました(?)。待ってなくても……ね。










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