第7話 服を買う




 しっかりお金が入った俺は、屋台を片付け服屋へ向かう。


 その道中、


『腹減ったぜぇ……』


 と、リューが言ってきたので、雷を落とされるのも困るので、早急に昼食にすることにした。


『何食べる?』


『肉』


 はいはい。

 リューは肉好きだな。

 俺が屋台で肉焼いてたってのもあるか。


 あ、ニイチャンの店行ってみるか。

 串焼き美味そうだし、気になってたんだよな。

 お金もあるし、今度はちゃんと串焼きを買おう。


 ニイチャンの店にたどり着いた。

 スキル【地図】がなきゃ、道に迷うところだったぜ。


「すみませーん」


「お!!坊主じゃねぇか!!今度はなんだ?」


「串焼きを欲しいんですけど……」


「おう!ちょっと待ってな!」


 今から焼くようだ。


「何本いる?」


 どうしようか。

 リューの分も買わないといけないが、存在がバレるわけにはいかない。


「じゃあ……三本お願いします」


「三本?!食うねぇ!!」


「い、いえ……」


 もうこう言う反応をするしかない。

 もうリューがいる以上食事は基本自炊だな……。

 異世界ご飯食べたかったな……。


「ほい、串焼き三本お待ち!!三本で300イェンだ!!」


 安いな。

 一本100イェンか。俺の屋台は一切れ200イェンだったのに、よく人が集まったな。

 そんなことを思いながらお金を渡し、串焼きを受け取る。


「ありがとな!また来いよっ!」


「はい!ありがとうございます!!」


 まず、人目のつかない路地裏に入り、串焼きを二本リューに渡してやる。

 リューはガツガツと食べ始めた。


『美味いなこれ』


 俺も一本食べる。


「うん、美味しい」


 肉に塩を振っただけなのに、素材がいいのかとても美味しかった。


 あ、何の肉か聞くの忘れてた!

 ま、いっか。また機会があれば聞いてみよう。


 それから、いろんな屋台をハシゴして、いろんな肉料理を食べた。

 串焼きにコロッケもあった。唐揚げもあったな。豚カツを出す店なんかもあった。

 肉料理の他にも、団子や饅頭、大福にクッキーなど、色々食べた。

 どれも普通に美味かった。

 一人が食べるには多い分量を買っていかなければならず、いちいち驚かれたが。

 食べた料理の共通点としては、どれも直接渡せるものや、紙に包んで渡せるものが多い。

 発泡スチロールの容器なんかでよく出される焼きそばなんかの屋台はなかった。

 この世界のことがだんだんとわかってきたぞ……!


 リューも俺もお腹いっぱいになったので、今度こそ服屋に向かうことにする。


 リューは腹が膨れて満足したのか寝てしまった。

 リュー、グータラ人間ならぬグータラドラゴンになるんじゃないかな。

 用が済んだらさっさとこの街を出て、この国を回ってみるか。


 そう考えながら歩いていると、いつの間にか服屋に着いていた。


 ドアを開け、店に入る。

 店内は広く、かなり客がいた。

 早速見て回る。


 色々あった。

 絹、麻、綿や動物の毛でできた服から、高価なレッドビッグピッグの皮でできた上着、ワイバーンの皮で作られたマントや内側がレッドビッグシープの毛でできたコートなんかもある。


 見てるだけで面白いな……。


 とりあえず、Tシャツやズボン、長袖のTシャツを5着ずつ買う。

 色や材質を変えながら選んだ。

 複数着あると困らないしな。


 あ、これなんかいいな。

 ロングコート。

 フードがついている。

 なんか砂漠を越えたりするのに役立ちそうだ。

 これも購入だ。


 マントもあったほうがいいかな。

 何かと使えそう。

 どうせならいいやつを……。

 ドラゴン系の皮でできたものなら、硬くて防御にもなりそうだな……。

 しばらく考え込んでいると、店員の人から話しかけられた。


「マントなら、ドラゴン系の皮がおすすめですよ」


 割と年齢が近そうな店員だ。

 この街って気さくな人が多いな。

 いい街だよ。


「やっぱり、ドラゴンがいいですか」


「はい。何より硬いですから、攻撃から身を守ることもできます」


 大体俺が予想していたことと同じだ。

 やっぱり防御に有効か。


「また、羽織るものとして使えます」


 え?じゃあ、コート買わずにこっち買ったほうが……?


「寒さを凌ぐためじゃなく、砂嵐や豪雨、吹雪などから身を守ることができるんです。丈夫ですから、そういった使い方もできるんです。しかも、水を通さないんですよ。しかし、寒さを凌ぐためなら、上着やコートがいいですね。ちょうど持っていらっしゃるコートなんかいいんじゃないですか」


 なるほどな。


「じゃあ、コートもマントも買うことにします。旅に使いたいんですけど、どれがいいんでしょうか。お金ならあるんですけど」


 お金は、昼飯に9000イェンくらい使った。

 そこからTシャツやズボン、コートなどの服を買っても、50000イェンくらい残る。

 よほど高くなければ買えそうだ。


「そうですね……。例えばこのレッドドラゴンの皮は、割と軽いのでおすすめですね。耐久性を重視するならブラックドラゴンなんかいいでしょう」


「ワイバーンってどうなんですか?」


「そうですね……。あんまり耐久性は高くないですし、結構重いです。価格で選ぶならワイバーンですかね」


「なるほど……」


「でも、やっぱり買うならばホワイトドラゴンですかね。マントの材料になるドラゴンの中では、最も強いですが、その分品質は最高級です」


「それにしようかな……。いいもの買いたいし。値段はいくらですか」


「250000イェンです」


「……え?高いな」


 やべっ。心の声が漏れた。

 でも、高い……。200000イェンも……。

 予想を遥かにこえた。


 まあ、でも最高品質だし?当たり前か。

 でもやっぱホワイトドラゴンのマントがいいなぁ。


「すみません、マントは今日はやっぱりやめときます。貯金して買うことにします」


「そうですか。では、今持たれている商品をお会計しますか」


「はい」


 そうして、手元にはメイド・イン・イセカイの服と、50000イェンほどが残った。


 店を出る。マントは買えなかったが、仕方ない。


 さて、一応服は買えたし、着替えるか。


 公園の公衆トイレで着替えた。


「おおっ。着心地がいい!」


 やっぱり自分で作るより、人の手で丁寧に作られているものの方がいいね。


 俺も晴れて異世界人の仲間入りだ。やったぜっ!


 さて、と。

 何しようかな。


 とりあえず、200000イェン貯めたいな。

 屋台でも開くか。


 いや、待てよ……?


 俺にはリューが獲った獲物の素材がある。

 レッドビッグチキンの羽毛とか。


 リューは、肉さえ食えたらいい、っていうから、多分素材を売っても何も言わないだろう。

 まあ、聞こうにもぐっすり寝ているから無理だけど。

 一回無理に起こしたら火を吐いてきたからな。

 以来無理に起こしたりなど、逆鱗に触れるようなことはしないようにしている。


 んで、売るところってどこだろう。

 ゴールドビッグピッグなんか、皮がものすごく高く売れるってどこかで聞いた。他の素材なども、いろいろ作るのに使うんだろうね。

 売るところがあるんだろうけど、どこで売るんだ?


 異世界あるあるな冒険者ギルドとか?

 しまったな。その辺、王様の件であったおっちゃんに聞いとけばよかった。

 そういう方向の話は一切しなかった。


 仕方ない、歩くか。


 30分ほど歩き回ったところで、


「ここか……?!」


 それらしき立派な建物にたどり着いた。

 ちょっとした城みたいだ。


 剣を背負った筋肉質な体の男や、弓を持ったエルフの人など、いかにも冒険者ですといった人たちが出入りしているから、多分間違い無いだろう。


「入るか」


 大きな門のような入り口を通った。


 中は、なんとなく現代日本の市役所を思わせた。たくさんの人がベンチに座ったり、歩いたりしている。


 呆気に取られながら、近くにあった館内案内図を見る。

 やはりここは冒険者ギルドの建物だそうだ。

“アドベンチャー・ギルド・センター”って名前だ。

 いろんな部署があるようで、ますます市役所を思い出す。

 冒険者登録や、討伐依頼、依頼報告、警備、解体など、様々な部署が並んでいる表から、探していた文字を見つけた。


「買取……!」


 建物の一番奥にある倉庫の入り口のすぐ横に、買取部の窓口はあるようだ。


「あった……!」


 窓口に向かうと、ちょうど誰もいないようで、すぐに話を聞いてもらえた。

 窓口に座っているエルフの女の人に言う。


っていうか、やっぱりエルフっているんだね。なんか感動だ。


「担当のエルダです。よろしくお願いします」


「あ、やざ、ケータと言います。よろしくお願いします」


 あと少しで矢崎と言いそうになった。ケータの方がマシだろうな。


「どんなご用件で?」


「えっと、ここで買い取ってもらえるんですよね」


「はい」


 エルダさんは、怪訝な顔で見てきた。


 まあ、無理もないな。

 こんな冒険者じゃなさそうな格好をした俺が、買取をお願いするなんて、変でしかないだろう。

 っていうかまさかレッドビッグチキンなんて出すとは思わないだろうな。


「レッドビッグチキンの羽毛なんですけど……」


「は?」


 いや、「は?」はちょっと失礼だろう。


 あ、やべ、なんて言い訳しよう。


「レッド……ビッグ、チキン……?」


「あ、えー、えーっと……そう、知り合いが売って来いって」


 ま、あながち嘘でもないだろ。


「ああ、そうでしたか。失礼しました。では、出してもらっていいですか」


「いっぱいあるんですけど……」


 アイテムボックスから羽毛を出すと、エルダさんが固まった。


「あ、アイテムボックス……?!」


 やべっ。この世界の人にはアイテムボックスなんてないのか。


「すみません、驚かせちゃって」


「こちらこそすみません。アイテムボックス持ちの人って珍しいので……」


 あ、いないわけじゃないんだ。


「いいですね。その能力を生かした仕事をすればいいんじゃないですか?商人とか」


「か、考えときます……」


「話が逸れましたね。出してもらっていいですか」


「あ、はい」


 今までに使った四匹分の羽毛を出した。


「多い……ですね」


「まだあるんですけど……」


「え?!あ、いえ、失礼しました。倉庫に来てもらっていいですか?」


「あ、はい」


 どうせならゴールドビッグピッグの皮とかも売っておこう。


「どうぞ」


「はい」


 まだ解体もされていないレッドビッグチキンに、ゴールドビッグピッグ、ブロンズビーフキャトゥル、調子に乗って最後にワイバーンを出してしまうと、エルダさんは目を限界までひん剥いて、空いた口が塞がらない。


「あなた、本当に知り合いに譲ってもらったんですか……?!」


「はい……」


 ヤッベェー!!!!!追求されたら終わるっ!!


「まあ、いいでしょう」


 た、助かったぁー!


「すみません、食べられるところだけもらっていいですか」


「は?」


「あ、いえ、そう知り合いに頼まれているんですっ!!」


 すげぇ焦ってるのが自分でもわかる。


「わ、わかりました。そうしてもらうように解体士に頼みます」


「それで、いくらほどに……?」


「こんな素材は、私の専門外ですので、鑑定士に頼みます」


 頼ってばかりじゃというツッコミは飲み込む。


「ですので、明日もう一度来てもらっていいですか?」


「わかりました」


「明日の昼ぐらいにいらしてください」


「はい」


 今日のところはひとまずこれでおしまいか。

 冒険者ギルドの建物を出る。


 さて。今日はどこで寝ようか。

 お金はなるべく節約したいし、野宿だな。


 一旦“セントラル・ノース・シティ”から出て、昨日野宿した森に入る。もちろんしっかり【透明化】して。野宿の用意をし、飯を食べる。食べるんだけど、


「材料ないじゃん」


 今日、全部渡しちゃったよ。今、手持ちない。


「ごめん、リュー?」


『あ?なんだ?』


「なんかたべれるの獲ってきてくれないか?」


『なんでだよっ!ないのかよ?!』


「いや、マントを買うためにかくかくしかじか…………」


『はぁ、しゃーねぇーな』


「ごめん」


 リューは森の中に入っていった。ごめんよリュー。


 数十秒後、ブロンズビーフキャトゥルを抱えたリューが戻ってきた。


「ありがとう」


『へっ。さっさと作ってくれよ』


「わかったわかった」


 俺は楽にたくさんステーキを焼いた。なんだかんだこれが一番上手くて楽にできる。


 リューは美味い美味いって言いながらたくさん食べて満足したのか、歯磨きをするともうテントに潜り込んで寝てしまった。


 俺も一枚食べた。ブロンズビーフキャトゥルめちゃくちゃ美味いわ。お腹いっぱいになったので、調理器具を同じように歯磨きしてテントに潜り込んだ。


 テントを透明化し、寝袋の中で意識を手放した。





 その頃、矢崎おれが持っていったゴールドビッグピッグの皮やワイバーンの皮などをめぐって大論争が起こっていた。ものすごく品質が良く、傷ひとつないこれらは、とんでもない高値で取引されていた。

 それをまだ俺とリューは知らない。


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読んでくださりありがとうございます。













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