第6話 南の街に着いて




 門を潜ると、そこは綺麗な街並みだった。


「この街の名前、何ていうんだろう……」


 そう思っていると、


『スキル【地図】を取得しました。

 スキル【位置情報】を取得しました』


 お馴染みとなってきたあの声が。


 っていうか、増えすぎだろ。後付け感が否めないぞ。


 いや、増えるのはいいんだけど、ね。


 そのスキルによると、この街は“セントラル・ノース・シティ”というようだ。

 俺たちは北からやってきたから、南の街に来たといっても、名前は北の街で……。なんか頭こんがらがる。いいや。もう知らん!!

 とりあえず、ここは“セントラル・ノース・シティ”なのだ!

 この“セントラル・ノース・シティ”をはじめ、四方位にセントラル・〇〇・シティがあり、それらで囲まれた“セントラル・シティ”がある。

 この“セントラル・シティ”がこの国の最も大きい大都市となっているようだ。

 イメージで言うなら、東京都と、神奈川県や埼玉県、千葉県などの関係に似ているかもしれない。


 大都市とは言えなくともなかなかの大きさで、たくさんの人たちがいて賑わっている。

 現代日本の世界のように、電気機器が普及しているわけじゃないので、街中にあるような電光掲示板やモニターは見受けられない。

 イメージとしては、外国の昔の街並み、といったところか。

 と思えば、なぜかしっかり各家庭に水道は普及しているらしい。


 うーむ……。


 よくわからん!!


 そういえば、服だよ服。


 忘れてた。


 透明化しているので良かったが、今の俺の格好を見られたら、絶対に注目が集まってしまう。

 この世界の人々は、今俺がきている鮮やかな赤色のTシャツなんて着ていない。

 大体が茶色や白、黒といった色の服だ。

 材質も、ポリエステルなんかじゃなさそうだ。

 見た感じ麻とか絹とかの、自然由来のもので出来ているようだ。

 透明化のスキルあって良かったー!!、と思いつつ、このままでは楽しい異世界ライフを送れない!!と、いうことで、服を買うことにする。

 服を買えばなんとかなりそうだ。肌の色とか髪の色とか、そういった類の身体の特徴は大体日系人というかアジア人に準拠している。エルフとかドワーフとかもいるけど、そこは異世界ってことで。

 一般人と言うか人間は、アジア系ということだ。

 上手くこの世界に溶け込めそうだ。

 割とこの要素大事だ。


 さて。


 まず、服を買うためにはもちろん、店に入らないといけない。

 品物を買うのに、透明化はして行けない。


 つまり、それなりのきちんとした格好が必要だ。


 さてさて……。どうしようか。


 あっ!そうか……!!よし!


 とりあえず、公園に向かい、これまた何故しっかりこの世界にあるのかわからん公衆トイレの個室に入り、しっかり鍵をかける。

 いくら透明化にしていても、流石に人目のあるところでスキル使ったり服脱いだりするのは抵抗あるしな。

 でも、やっぱ、公衆トイレがあるのはおかしい気がするなぁ。

 でも、異世界だし、矛盾点があってもおかしくないか……。

 そんなことを考えながらスキルを発動させ、【物質創造】で麻の布を作り出す。

 そして、【物質形状変化】で、試行錯誤しながら上手くTシャツを作る。その調子でそのまま同じ方法でズボンも作った。これでよし。


『何してんだ?』


 リューが聞いてきたので、理由を答える。


「流石に異世界の服で店には入れないし、透明化のままだと買い物できないだろ?だから––––––」


『ああ、そういうことか。まあ、そうだよな」


「でしょ?」


『おう。しかし、ここはちょっと匂いがくs』


「そりゃ、トイレだからな!!その先は言うなよ!」


『?……おう』


 リューは思ったことをすぐに口にする癖がついているようだ。


 まあ、気持ちはわかるし、ここに連れてきたことは申し訳ないとは思うけど。


 そんなこんなでちゃんと着替えて、今まで来ていた服をアイテムボックスに直して、こう思った。


(これ、この服着て生活できるんじゃね?)


 その通りだった。


 でも、やっぱりメイド・イン・イセカイの服が着たいよな。自分で作ったやつはなんか形が不恰好だし。スキルの力に頼りっぱなしも良くないし……。


 うん、やっぱり服買おう。


 そう思って、まず透明化を解いて、公衆トイレを出る。

 それから、服屋を目指して歩くわけだが、


 ざわざわ……。


「ん?」


 なんかうるさい。なんかあるのかと思って周りを見回す。

 後ろを見たところで、その正体が分かった。

 いや、分かったわけじゃないんだけど、でも分かったっていうか……。


 なんかすごく偉い感じの一行がこちらに迫って来ていた。馬車で。なんかよくわかんないけど……これ避けないといけないのか。危ないし。


 とりあえず、人が集まっている方へ避ける。


 数十秒後、ぞろぞろと一行は通り過ぎていく。まるで大名行列。真ん中ほどに、一段と豪華な馬車に乗ったおじいさん(失礼な感じだが)が居た。

 多分あの人がこの一行で一番偉い人だな。

 ちょっとお辞儀している人もいるし。

 すげえ偉い人なんだということはなんとなく分かった。


 詳しく知りたいので、隣にいた人の良さそうなおっちゃんに聞いてみる。


「すみません、今のってなんだったんですか?俺、遠い国から来たところで、この国のことに疎くて……」


 それらしい嘘を交えながら、聞いてみる。


「ああ、今のはな、王様だ」


「お、王様?!」


「ああ。いい人だよ。あの人が王になってから国がもっと良くなった」


「へぇ。ありがとうございます。あ、すみません、この国についてもうちょっと教えてもらってもいいですか?ほんとによくわからなくて……」


「いいぞ。時間はあるし、俺はここに生まれた時からずっと住んでるからな!なんでも聞いてくれ」


「ありがとうございます!じゃあ、まず––––––。」


 そして、おっちゃんに色々教えてもらった。


 なんか、説明を聞けば聞くほど、ザ・異世界だった。


「ほんとにありがとうございましたっ!!」


「おう!またいつか会えたら、な!」


 こういうの、やっぱいいね。


 あまりに長く話していたので、リューの存在を忘れていた。

 カバンの中でぐっすり寝ている。かなり寝相が悪い。ものすごい体勢だ。

 思わず笑ってしまう。


 さ、服買わないと!


 ***


 探して、服屋にたどり着いた。のはいいのだが、


「よく考えたら俺、金持ってない……」


 そう。日本銀行券や現代日本の硬貨はあっても、異世界の金はない。


 どうにかして、お金を手に入れないといけない。


 どうしようか……。


 しばらくいい考えが浮かばないかと歩き回っていると、あるものが目に入った。


「屋台……!!」


 それは、串焼きや飲み物を売っている屋台だ。


 あれをやればいいのか!!

 でも、屋台をするのには、許可が必要だとかありがちだしな。

 少し話を聞いてみよう。


「す、すみませーん」


「おう!串焼きか?飲みもんか?」


「いえ、そうじゃなくて……」


「なんだ?」


「食べ物の屋台って、俺でもできるんでしょうか」


「ガハハッ!!注文は屋台のことについて、か!いいぜ、教えてやろう」


「ありがとうございます」


 とても明るいニイチャンだ。無精髭がよく似合っている。


「屋台はな、基本誰でもやっていいんだ。無料でな」


「そうなんですか!」


「ああ。ただな、ルールっちゅうもんがある」


「ルール?」


「ああ。まず、飲食業の屋台なら、飲食業を営む店の前や近くで出店しちゃならない。営業妨害になるからな」


「なるほど」


 頭の中で、メモをとっていく。


「それから、他人の屋台とも離れないといけない。これも営業妨害になるしな。そして、決められた区画でしか出店しちゃならねぇ」


「へぇ」


「まあ、他にも細かいルールがあるが、これだけ覚えときゃ、大丈夫だ」


「親切にありがとうございます!」


「いいってことよ!せっかくだから、出店できる場所、案内してやるよ」


「ありがとうございます!助かります!」


「いいぜいいぜ。ついてこいよ」


 ニイチャンは一緒に屋台を出店していた仲間に、店番を任せると、ズカズカと歩き出した。俺も慌ててついていく。


 ***


「ここなんかいいんじゃねえか?」


 ニイチャンは、条件に合うところで、人通りも多いところを紹介してくれた。


「何から何まで、ありがとうございます……」

「いいんだよ! その代わり、お前の屋台……食べもんだったよな」

「はい」

「じゃ、一品奢ってくれよ。それでチャラ」

「え、そんなことでよければ……」


願ったり叶ったりである。


「よし。交渉成立だな!んじゃ、後で来るからよ!!忘れんなよー」

「はい! ありがとうございます!」


 ニイチャンが戻って行ったので、俺も屋台を用意する。


 屋台といっても、屋根や立派な看板はないけど。


 出す料理は、レッドビッグチキンの照り焼きチキン。


 リュー専用のフライパンを使って一回に大量に焼く。


 レッドビッグチキンは大きいので、一羽でもたくさん出せるだろう。


 早速下準備だ。大量に作らないといけないので、めちゃくちゃ大変だ。

 お金のためだ、と自分を励ましながら、黙々と下準備を進める。


 下準備がある程度終わったので、焼き始める。


 焼いている音と匂いで目を覚ましたのか、リューがカバンから出てきた。


『昼飯?』


 人がいるので、念話で。


『違う。服を買うために金を手に入れるための屋台』

『なんだ。腹減ってきたなー』

『まだ待ってて』

『ちぇ』


 リューはそれだけ言うと、再び鞄に潜り込んでしまった。


 ごめんよ。ごはんまではもう少し待っててくれ。


 黙々と照り焼きチキンを作る。


 もはや単純作業を黙々とするロボット。


 気がつくと、匂いにつられてやってきたのか、たくさんの人たちが俺の屋台の前に集まってきた。


「お、おい、まだか!」


 一番前にいるおじさんが詰め寄ってきている。


 涎垂れてる。現代日本の調味料で味付けしているからか? 食欲をそそる匂いだしなー……。


 ……ていうか人前で使うのまずいか。


 隠れながら使おう。


 さてと。


「できました」


「やっとか! くれっ!! なんイェンだ?」


 一気に囲まれる。


 私も俺もわしも僕もmeもと次々と注文が入る。


「一つ200イェンです!!並んでください!!」


 俺も精一杯声を張り上げて値段を伝える。


 せっせとお金を受け取り、照り焼きチキンを焼き、渡し、無くなってきたらうまいこと下準備をし、また焼いて渡し……と働き続け、あっという間にレッドビッグチキン3羽分が売れてしまった。想定では2羽売れれば上出来だったのに、忙しさがプラスされたもののさらにたくさんのお金が手に入った。


 ちなみに途中で親切なニイチャンがやってきて、一つ食べてもらったが、美味しい美味しいとやたら叫ぶから、余計客が来た。俺としては嬉しいが、ニイチャンの店はいいのか。知らねぇぞ。まあ、多分今日限りで終わりだけど。


 3羽のレッドビッグチキンとの引き換えに残ったのは、80000イェンほどの大金だ。


 これで、服が買える。待ってろメイド・イン・イセカイの服!!



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読んでくださり、ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

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