第4話 南へ



 あの草原を出発してから、2日が経った。

 バイクはやっぱり速い。あって良かった。

 リューによると、このペースなら明後日にはついているだろうとのことだ。しかし、バイクなんてこの世界にはないだろうから、人がいたら乗れない。今までは人に会っていなかったからスイスイ来れたが、ここからも人がいないように願う。


 夜は野宿だ。俺の異世界(現代日本の世界)の持ち物のテントがアイテムボックスにあったので、それを張って寝る。

 テントもこの世界にあるか分からないから、なるべく目立たない洞窟や茂みの裏などに張る。場合によってはスキル【物質創造】、【物質形状変化】を使ってうまく隠れる。

 スキルがあって良かった。

 この調子ならのんびり異世界生活を満喫できそうだ。


 そして何よりもやはりリューはたくさん食う。


 なぜか小さいサイズになっている時も通常サイズの時と同じくらい食べる。どうなってんだ。


 夜になったから、野宿の準備だ。

 テントをはって、食事。


 今日はレッドビッグピッグで生姜焼きを作った。もちろん異世界の調味料を使って。

 ちなみにこのレッドビッグピッグは2頭目だ。昨日で使い切ってしまったから、どうしようかと思っていたら、ちょうど近くにいたのか、リューがパッと獲ってきた。


 なんだかんだ料理してると上手くなるんだよな。

 スマホもあるし、レシピを調べることもできる。

 この調子でいろんな料理が作れるようになりたい。


 でも、野菜はそんなに無かったから、もうちょっとでストックが切れそうなんだよな。ギリギリまで量を減らして、目指している街に着くまで毎日食べられるように調整している。

 俺は健康に生きていきたいからな。毎日野菜を食べる習慣をつけている。

 リューは、食うならその辺にある草でいい。って言ったので、考慮していない。

 で、その街に野菜が無かったらもうおしまいだ。

 そこはもう運に任せよう。

 まあ、この世界がどういう食生活かなんて分からないし。


 まあ、考えるのは明日にしよう。


 さ、寝よう。

 おやすみ。


 ***


 で、翌朝。


 少しペースを上げつつ、引き続き街に向かう。


『この調子なら今日の夜には着けるかもしれないな』


 背負っているバックパックの中から顔だけヒョコっと出しているリューが言った。


「ほんとか!?」


『ああ。あ、でも門があるから明日の朝のほうがいいかもしれないな。夜は通れないし』


「へえ、門なんてあるのか。……通れるよな……?俺でも通れる……よな?」


『通れるよ。夜襲を避けるためだけの門だからな。日中は警備員が警備していて、よほど変な動きをしてなければ通れる。だが夜は警備員にも人間としての生活があるわけで、夜までは警備し続けれない。だから門がある。夜は閉まる。それだけだ』


「……でも交代制で24時間警備し続けるっていう方法をとれば門は閉めなくてもいいんじゃ……」


『そうすれば確実に警備できる人数が減るんだと。だったらもっと雇えと思ったがな。人間の考えていることはわからん』


「……俺もわからないよ。それに関しては。ってかリュー、やたら詳しいな」


『人間が言ってるのを聞いたり、仲間が情報をくれたりするんだ』


「仲間ってドラゴンか」


『そう。どこで聞いてきたんだって情報を持ってる奴もいる。そいつらに関しても訳がわからん』


「へぇー」


 そんな会話をしながら一人と一頭は高原を駆け抜けていく。


 ***


 昼下がりのこと。


『前から人が来るぞっ』


「ま、まじ!?」


『マジだっ!数分でぶつかる!!』


 どうしよう!今まで人と会ってなかったから、どう隠れたらいいかもわからない!!


 焦りに焦って、メニューを開き、どうにかできそうなスキルを探す。


「!!」


 スキル【透明化】


 これは使える……!!早速、


「透明化!」


 詠唱を行うと……


 俺の体は消えた。


 というか、乗ったままだったバイクも、肩からかけていた鞄も、リューすらも消えていた。


「……え?」


『……へ?』


「『す、すげぇ!!』」


 こりゃ使える!

 旅が楽だ!

 やった!


 もう一つ気になったスキルを使ってみる。


 スキル【無音化】


「無音化!」


 これはどうなるんだ?


 すると、アイドリング状態のバイクが無音になった。


「!?」


 とりあえず、「あ」と言ってみる。


 ……。何も聞こえない!


「すげえ、このスキル!っていうか、透明化も無音化もどういう基準でスキルがはたらいてるんだ……」


 スキルの説明欄をタップしてみる。


【透明化】

 物体・生物を透明にできる。時間・範囲無制限。

 透明にする対象は使用者が設定する。

 設定が無い時は使用者に触れている物体・生物を透明にする


【無音化】

 使用者・使用者に触れている物体・生物が発する音を消すことができる。

 無音にする対象は使用者が設定する。

 設定が無い時は対象となる全てにスキルの力がはたらく。


「へ、へぇ……」


 思わず声が漏れる。

 もう訳が分からん。神様……。


『おい、さっきからお前は何言ってるんだ!?』


「え……?」


『口パクパクしてないで答えろ!!』


 あ、そうか。リューからは念話で喋ってるからリューは喋れるけど、俺からは声を出して音で会話してるから、喋れないんだった。この会話方式に慣れちゃってわかんなかった。


 ……俺から念話ってできるのかな。

 この機会にちょっとやってみよう。


 なるべくリューに語りかけるように、心の中で、


『聞こえる?』


 と聞くと、


『うわ!?』


 リューがびっくりした。リューでもびっくりすることあるんだ。


『どうした?』


『どうした?じゃねぇ!!お前念話使えるのかよ!』


 引き続き念話で会話を続けてみる。


『え?念話って使えないもの?』


『そうだよ!!っていうかお前念話に適応するのも早いな!!』


『そうか?全然難しくないぞ?』


『お前は特殊なんだ。だからだ。よし、俺納得!!』


 なんか1人で(1頭で?)納得しちゃった。

 そんなすごいかな……。

 ま、いいか。のんびり旅ができればそれで。


『そうだ。リュー?』


『なんだよ』


『誰か他の人がいる場面での会話はこの念話でいこう』


『そうだな。そうしよう』


 そうこうしている間に人は通り過ぎていった。

 良かった。ほんとに見えなくなってるみたいだ。


 さて、行こう。と思ったが。


 これって、このままバイクで街の目前まで誰にも気付かれず行けるんじゃ……?


 見えないし、バイクの大きな音も聞こえないから、何も考えなくていいんじゃ?


 そうと決まれば……。


「さあ、飛ばすぞぉ!!」


『おおー』


 もはや何も無いように見える高原を、1人と1頭が進んでいく。


 ***


 そのまま南の街の門の前に着いてしまった。

 現在時刻は午後8:09。当然門は閉まっている。


 仕方がないので、最寄りの森の中に入り、テントを張り、透明化に設定する。

 寝袋もランプも透明化に設定し、何も見えなくなった。

 これで誰かに見つかる心配は無くなった。


 リューは手伝いもせずふらりとどこかに消えていったが。

 別にリューを従魔にしてるわけでもないし、ましてやドラゴンにテント張りを手伝えなんてとてもじゃないが言えないので放っておくことにする。

 別にリューが何かやらかしても俺には関係ないしな。


 さてと。お腹減ったなぁ。

 リューが帰ってくる前に用意しておくか。

 いつ帰ってくるかは分からないけど。


 料理を始める。

 今日もレッドビッグピッグだ。2頭目のこいつも今日でおしまいだ。

 今日は回鍋肉を作る。これでキャベツもピーマンもストックが無くなった。ネギももう無くなるな……。

 さて、と。

 キャベツとピーマン、ネギをそれぞれ適当に切り、レッドビッグピッグ

 を5cm幅くらいに切る。

 高級豚肉のような味のレッドビッグピッグを普通の家庭の料理に使うのに最初は少し抵抗があったけど、慣れればなんてことはない。

 ただし、リューはめちゃくちゃ食うから、料理が大変だが。

 特大サイズのフライパンと通常サイズのフライパンを同時並行で使って料理する。

 薪を用意して火魔法で火をつける。特大フライパン用のを用意し、そこに特大フライパンを乗せる。

 通常サイズのフライパンはガスコンロを使う。

 ……なんか特大フライパン用に専用の加熱器具が欲しくなってきたな。現行の加熱方法はすごく原始的なんだよな……。

 でも、この世界にそういった道具があるかも分からないしな……。

 まあ、それはそれだ。今は料理だ。

 それぞれのフライパンにごま油を入れて、弱火に熱する。薪に着いている火は、火魔法とスキル【物質創造】・【物質形状変化】で作る薪を駆使してうまく調整していく。

 そしてネギとすりおろし生姜、豆板醤や醤油など、調味料を入れて炒める。

 リューの分はやたら多いから、この作業ですら少し疲れる。

 香りが立ってきたから、レッドビッグピッグを入れて、中火にする。

 ガスコンロはつまみを回すだけで火加減が調節できるが、特大フライパンの方は薪を足して、火魔法で火を足していって調節しなければならない。大変だ。

 ほんとに専用の加熱器具欲しいな……。


 レッドビッグピッグに火が通った。

 キャベツとピーマンを加えて、強火で一気に炒める。ガスコンロの方はつまみを回して、特大フライパンの方は火魔法で火を追加して、炒めていく。


「よし、味が絡んできたな……。もういいかな」


 ガスコンロはつまみを回して火をとめ、俺専用の皿に盛り付ける。

 特大フライパンの方は、水魔法を火にぶち当てて火を止める。それから、リュー専用の皿に盛り付ける。

 ちなみにリュー専用の皿は、一昨日作った。リューに特大フライパンのまま出したら、怒られた。だから、【物質創造】と【物質形状変化】でプラスチックの皿を作った。


『やっとか』


「うわ!?びっくりするなぁもう」


 いつの間に帰ってきたのか。


「食べよう」


『おう』


「『いただきます』」


 なんだかんだリューもしっかりいただきますを言う。俺がいただきますを言う理由を教えたら、次の食事の時にはいただきますを言い始めた。


 リューはすごい勢いで膨大な量の回鍋肉を平らげていく。


 俺も食べ始める。一昨日の夕飯で米のストックを切らしてしまったので、仕方なく食パンを片手に食べる。


「米が食いてぇ」


 回鍋肉は米に合うのに、肝心の米がない。パンでも食べられるが、やっぱり米なんだよね。


 くそー!!


『俺にもその四角いものくれよ』


「ん?パンのこと?」


『そうだ』


「ええー……。もうないよ……。仕方ないなぁ。ほい」


 残り3枚だった食パンはリューの腹の中に。とほほ。


 食事が終わると、歯磨きをする。

 俺が最初にしているのを見て、リューもやりたいと言い出した。

 さすがドラゴンというべきか、今まで歯を磨いたことなんてないはずなのに何故か虫歯はなかった。

 俺は異世界(現代日本)の持ち物だったマイ歯ブラシを、リューは予備だった俺の歯ブラシを使う。

 この時はリューはサイズを小さくしてちょうど人間サイズの歯ブラシが使えるようにしている。


 この歯ブラシも使えなくなったら次はスキルで作るしかないな……。


 歯磨きが終わったら、テント、ランプ、寝袋以外の持ち物をアイテムボックスに収納し、自身らに【透明化】を使って、寝袋に潜り込む。


 さあ、明日はいよいよ街に入るぞ!!



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読んでくださりありがとうございます。












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