07-05


 コンビニで買ってきたアイスをみんなに配る。るーとタクミはひとつのアイスを取り合って喧嘩していた。

 最終的に分け合うことになったらしい。素敵な話。泣けてくる。


 椅子に座って買ってきたジュースを飲む。後輩が話しかけてきた。


「ちい姉と、何話してきたんですか?」


「何って、結婚の約束の話だけど」


 俺は正直に話した。


「まじで?」


 後輩の言葉から敬語が取れた。

 俺には聞き返される意味が分からない。


「マジでも何も」


 そのままの意味です。


「兄さん」


 妹に呼びかけられる。なぜか呼び方が普段と違う。


「その言い方は語弊があると思います」


 なぜか敬語がついていた。


「正確に言ってみてよ」


「……屋上さんが、子供の頃、近所の男の子と結婚の約束をしたことがあるそうな」


 へえ、と後輩は感心したように頷いた。

 なんだったんだ、さっきの態度は。


「現実にあるんですね、そういうの」


 え、ないの?

 ――とはさすがに言えず。


「あるみたいだね」


 他人事のように返すことしかできなかった。


「私たちもあるしね」


 妹が不意に言った。

 

「誰と?」


「お兄ちゃん」


「……まじで?」


「まじで」


 まじでか。後輩がからから笑っていた。どう反応すればいいか分からない。


「お嫁さんにしてくれるって言った」


「言ったっけ」


「言ったのです」


 子供の頃の俺っていったい何者だったんだろう。

 深く考える気にはなれなかった。


 だらだら過ごしても仕方ないので、昼過ぎに出かけることになった。といっても、またファミレスなのだが。

 全員で座る。七名。大人数向けの席に案内された。


 注文を済ませる。家の中にいると忘れそうになるが、外に出ると夏を感じる。

 夏休みも、半分近く消化した。そこそこ充実した毎日だったんじゃないだろうか。


 課題も終わらせたし、憂いはない。

 後は遊ぶだけなのだが、最近は遊びに行くというよりも、みんなでがやがや騒いでいるばかりだ。

 というか、だいたいのイベントは消化してしまったため、何をして遊べばいいか分からない。


 残っている目ぼしいイベントなんて、夏祭りくらいしかなかった。


 どこにいたって、七人もいると、話に入れない奴は出てくる。

 俺だ。


 幼馴染、妹、屋上さん、後輩、るー、タクミ。


 それぞれ二つぐらいに分かれて話をしている。

 混ざろうと思えば混ざれなくはない、が、なんとなく憚られる。


 仕方なくドリンクバーに立った。どれにしようかと悩んでいると、肩を叩かれる。

 振り返ると茶髪がいた。


「よう」


 声を掛けられる。


「よう」


 驚きながらも返事をする。

 茶髪の後ろには、部長もいた。

 ホントに仲いいんだ、この人たち。


 せっかくなので一緒するかと思って、席に連れていく。

 追加注文。昼時の忙しい中、店員さんには申し訳ないことをした。


「なに? この人数」


 茶髪はまず最初にそこに触れた。七人。子供二人、女四人、男一人。そりゃあ戸惑う。


「この女たらし」


 不本意なあだ名をつけられた。

 茶髪と久しぶりに話をすると、なんだかひどく落ち着く。

 

 部長はメロンソーダをすすりながら俺と茶髪の話を聞いて、時折口を挟んだ。


 話の内容はもっぱら会わなかった間のことで、どんなことがあったのかとかを互いに話した。

 茶髪はろくに出かけなかったし、ろくに課題もしていない、と言う。


 彼女は自分がバーベキューに誘われなかったことにひどく憤っていた。たしかに好きそうだけど。


 部長の方もほとんど同じだったようだ。とはいえ、勉強などは忙しかったらしいが。


 食事を終えてさあ帰るか、となったとき、彼女ら二人も俺の家に来ると言い出す。

 ……九人。


 多ければいいってもんじゃない、と俺は思う。




 

 結局その日は夕方まで騒いだ。

 遊んだり喚いたりしながら時間を過ごし、帰るときにはみんな疲れきっていた。

 

 夜、数日後に夏祭りが迫っていることを思い出す。

 期間は三日間。それが終わると、今度は隣街で大きな祭りがある。

 全部行く気にはなれないが、それだけ続くとなると気分が盛り上がるのも仕方ないだろう。


 少しだけ楽しみだったけど、今のところ誰とも約束はしなかった。

 今のままなら、たぶん、みんなで集まることになるだろうけど。


 それを思うと、少しだけ気分が楽になる。次がある、というのは、ある種の安心を産む。


 その夜はひどく蒸し暑く、夜中に何度も目が覚めた。起きるたびにキッチンに行って水を飲む。

 なんだか落ち着かない。


 その日、眠れるまでだいぶ時間がかかった。


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