07-01


 ユリコさんたちの酒盛りに付き合わされて、次に目が覚めたのは翌日の朝だった。

 一晩、明かしたっぽい。


 どうやら子供勢がリビングで雑魚寝した様子。


 不思議とサラマンダーたち三人の姿はなかった。昨日のうちに帰ったのかもしれない(なぜ俺だけ取り残されたんだろう)。

 どういう法則が働いたか分からなかったが、寝転がる俺のふとももに、妹の頭が乗っていた。結局俺を枕にするのか。


 頭痛をこらえながら起き上がる。

 シミズさんたちはどうしたのだろう。姉妹を残しているということは、どこか別の部屋を借りたのか。

 

 タクミとるーもいなかった。最年少組を雑魚寝させるのを親たちが避けたのだろう。


 つまりこの場で寝ていたのは。


 俺、妹、幼馴染、屋上さん、後輩、の五人。


 男が俺ひとりだった。


 毛布がもぞもぞと動く。誰かが動いたらしい。

 慌てて立ち上がって、勝手に洗面所を借りる。


 二日酔い。顔色は悪くないものの、飲まされた気配がする。夜のことはほとんど覚えていない。


 顔を洗うと少しだけ意識が冴えたが、頭痛と体のだるさのせいで眠りたくて仕方なかった。

 リビングに戻って時計を見ると、針はまだ五時半を差している。


 寝なおそう。

 床に敷かれた毛布の一枚に潜り込んで、俺はふたたび眠りに落ちた。


 

 再び目を覚ましたとき、なぜか屋上さんが腕の中にいた。


 混乱する。

 心臓がばくばくする。


 このままじゃまずい、と思う。


 とりあえずできる限り静かに、ゆっくりと、腕を引き抜いていく。起こさないように。


 動揺のあまり「せっかくだし観察しよう」とか思える状況じゃなかった。

 ていうかいっそ恐怖すら覚えた。

 このラブコメ的イベントの連続はなんなのか。


 絶対なんかの予兆だろ(被害妄想)。


 なんとか体を引き抜いて、屋上さんからじりじりと離れる。

 立ち上がる。達成感。よくぞここまでがんばった。


 でも振り返るとみんなが起きていた。

 

 めちゃくちゃ見られてた。


 ユリコさんがニヤニヤ顔でこちらを見ている。やっぱこういうイベントか。

 なぜかからかったりしてくる人はいなかった。逆に怖い。


 その後、片付けやらなにやらが始まったので、なんだかんだでうやむやになる。


 相当後になってから分かったことだが、このとき屋上さんは狸寝入りをしていたらしい。





 日が出て、それぞれが身繕いを終わらせてから、ちょっとのあいだ空白の時間ができた。


 大人たちはテーブルについて談笑している。るーとタクミはそこで一緒にお茶を飲んでいた。


 暇を持て余す。とはいえまだ帰るには早い。


 昨日の夜の記憶がほとんどない。

 そこまでひどいことにはなってないはずだが、なんとなく嫌な予感もする。


 幼馴染に昨日の夜の出来事を尋ねてみる。


「昨日の夜、俺、どんなんだった?」


「結婚を前提にお付き合いしてくださいって言われたよ」


 簡単そうに言った。

 それって親の前でか。

 恥ずかしすぎる死にたい。


 ホントに? と屋上さんに聞いてみる。


「私も、僕と同じ墓に入ってくださいって言われたけど」


 どうでもよさそうに彼女は言った。

 冗談だろ、と思った。

 他人事のように横で見ていた後輩が、けらけら笑い出す。笑い事じゃない。


 妹を見る。


「私も、毎朝俺のために味噌汁を作ってくださいって言われた」


「それもう作ってるじゃん」


 急に冷静になった。

 でももう酒は飲まない。


「別にお兄ちゃんのために作ってるわけじゃないから」


 否定される。ツンデレ(希望的観測)。


「この女たらし」


 幼馴染が笑いながら言う。

 ひょっとしてからかわれたんだろうか。


 昼前に解散になって、みんな家に帰った。

 

 家に戻ると、なんだか急に静かになりすぎて落ち着かない。

 二日酔い。腹の辺りに何かが埋まっているような不快感があった。そして頭痛。

 なんだか疲れているのを感じて、寝なおすことにする。


 目が覚めたのは夕方で、ちょうどすさまじい勢いの夕立が降り出したときだった。


 その日は何もする気になれず、結局ほとんど寝っぱなしだった。


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