06-08


 翌朝、リビングに下りると、妹が既に起きてキッチンに立っていた。

 病み上がり。

 

「ご飯、すぐにできるから」


 嫁みたいな台詞を言われる。

 顔色はいつもと変わらない。治ったようではある、が。


「熱はかった?」


「計ってないけど」


「休んでなさい」


 料理を引き継いで妹をリビングに座らせる。不満そうにしていたが、ぶり返しでもしたらそれこそ困る。

 それでも一応、風邪は治った様子で、多少動いても平気そうにしていた。


 あまり無茶をしなければ、もう大丈夫だろう。


 妹が部屋に戻って課題をやるというので、俺は暇を持て余した。昨日の今日なので誰もうちには来ない。


 部屋に戻ってギターで「太陽は夜も輝く」を弾き語る。かっけえ。俺超かっけえ。

 すぐに鬱になる。いったいいつになったら上達するんだろう。


 ふと気になってテレビを見る。台風は大きく逸れていったそうだ。期待させやがって。


 ギターをスタンドに立てかけて課題を進める。

 

 昼時まで集中すると、結構進んだ。あと二日もあればだいたい終わるだろう。


 妹と一緒に昼食をとり、また部屋に戻る。

 昼過ぎに幼馴染が一人でやってきた。


「リンゴ持って来たよ」


 妹の様子をみて、幼馴染も少しばかり安心したようだった。リンゴを剥いて三人で食べる。美味い。


「バーベキュー、明日だって」


「明日?」


 また急な話だ。

 ていうか妹はまだ病み上がりだ。


「思い立ったが吉日だって言ってた」


 思い立ったのはだいぶ前だと思うが、ユリコさんに理屈は通用しない。


「連絡しておく。みんなに」


 その前に、明日は部活があるのだが。


「うん。そんな感じで」


 幼馴染はリンゴをしゃりしゃりかじりながらぼーっと周囲を見回した。

 特に意味のある行動ではなさそうだが、妙に気になる。

 訊いてみることにした。


「どうかした?」


「え? なにが?」


 無意識だったらしい。

 

「そういえばさ」


 ふと夢のことを思い出して、訊いて見る。


「指輪を渡したこと、あったよな?」


 幼馴染は一瞬変な顔をして、


「ああ、うん」


 小さく頷いた。


「ちゃちな玩具の」


「ちゃちって言わない」


 なぜか怒られた。やっぱり指輪のことは覚えているらしい。


「それがどうかしたの?」


「別に」


 そこで会話が終わると、幼馴染は不満そうな顔になった。なぜ?

 リンゴを食べ終える。

 幼馴染は早々に立ち上がって、帰る準備をした。


「じゃあ、明日のこと、よろしく。一応必要なものは揃えとくみたいだから」


「はいはい」


 彼女が帰ったあと、夕食の準備を始めた。妹が手伝いたがった。仕方がないので分担する。 

 

 夕食を食べ終えたあと、部屋に戻った。

 課題を進める。一問でも解いておけば、あとで使える時間が一問分増える。時間を貯金している気分。


 その夜は雨が降った。


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