05-05
翌朝は幸い二日酔いにならずに済んだ。
準備を終わらせて幼馴染の家に向かう。
車の中ではしりとりをしながら時間を潰した。なかなか白熱する。
妹が「り」で俺を攻める。俺はなんとか回避する。幼馴染が「み」で妹を攻める。
飽きた頃には海が見え始めた。
港だけど。
目的地は寂れた水族館だった。寂れた、というところが絶妙で、本当に寂れている。
さして大きくもなく、目新しさがあるわけでもない。人も少なくてがらんとしている。
でもまぁ、水族館は水族館だった。
適当な駐車場に車を止めて、海沿いの道を歩く。十分もせずに目的地についた。
ちょうどアシカショーが始まる五分前だったらしい。
せっかくなので見た。
どう考えても安っぽいセットにあんまり綺麗とはいえない客席。
座る。
見る。
案外ワクワクする。
すげえ、ってなる。
「うおー! すげえ!」
終わったときにはテンションが上がっていた。
単純。
大量のペンギン。
写メってキンピラくんに送った。
『俺はペンギンよりシロクマの方が好きだ』
謎の返信内容だった。
館内にシロクマはいなかったので、デフォルメされたシロクマの看板を撮影して送信する。
返信は来なかった。
クラゲ、イルカ、ワニ、あとなんかいろんな魚(名前は見ていない)。
いっそグロテスクですらある見た目をしている魚もいた。
壁は水槽。周囲は薄暗い。
ワクワクする。
「サメ、ちっちゃいね」
幼馴染は残念そうに言った。
妹はというとクラゲをじっと眺めている。
「超癒される……」
超って。
ユリコさんは一人でイカ焼きを食べていた。それはなんか違わないか。
一通り見終わってから土産物屋を見る。
シロクマのぬいぐるみがあった。
超かわいい。
「俺これ買うわ」
即決した。
サメの牙のアクセサリーとか、魚型のストラップとかもあったけれど、琴線には触れない。
妹は亀がたのぬいぐるみを欲しがった。なぜ亀?
「買う。これ買う」
妹は、一見どうでもいいようなものに強い執着を示すときがある。今だ。
祖父母や両親向けにお土産にお菓子を買っておく。あと自分たち用。
水族館を出る。一時半を過ぎた頃だった。
「どうだった?」
ユリコさんは串焼きのイカを片手に尋ねた。
「クラゲもうちょっと見たかったです」
「満喫しました」
大いに満足した。アシカショーとか。
帰り際に、ユリコさんが付近で売っていたカレーパンを買ってくる。なぜカレーパン? 彼女は食べっぱなしだった。
俺たちもご相伴に与る。美味かった。
◇
家についたときには、父が帰ってきていた。
夕食を一緒にとってからお土産のクッキーをかじる。
父はユリコさんにお礼の電話をかけた。
大人の会話を横目に見ながら俺と妹はリビングでお茶を飲む。
暑いときこそお茶をすするのです。
その後、親子三人で花札をした。点数計算ができないので勝敗は適当だった。
翌日は部活があったので学校に向かった。
ひんやりした空気。
人のいない教室。
遠くに聞こえる運動部の掛け声と、吹奏楽部の練習の音。
窓からグラウンドを見下ろすと、陸上部が走っていた。
そのなかに屋上さんの姿を見つけて立ち止まる。
軽快な速さで彼女はグラウンドを縦横無尽に駆け巡る。ハードルを越える。
彼女の雰囲気も、夏休みが始まる前とでは、少しだけ違っているように見えた。
部室に行くとほとんどの先輩は来ていなかった。とはいえ人数は結構いる。
そもそも何をする部でもないので当たり前といえば当たり前なのだが。
部活では何をするわけでもなくぼーっと座っていた。
部長はしずかに本を読んでいた。邪魔をするのも悪いと感じる。
持ってきておいた課題を進めておく。早めにするに越したことはない。あとが楽でいい。
部活はつつがなく終了した。帰りに近場のコンビニに寄ると、屋上さんと遭遇する。
「ひさしぶり」
屋上さんは小さく頷き返した。
彼女と少しだけ言葉を交わす。夏休みの前とたいして変わらないバカ話。
でも、会えないのはちょっと不便だ。
「携帯のアドレス教えてよ」
「いいけど」
頼んでみるとあっさり許可が出た。
「じゃあ今度メールするね!」
「その口調やめて」
屋上さんのメールアドレスを教えてもらった。
家に帰ってから屋上さんにメールをする。
屋上さんのメールの文面はそっけなかったが、その割には返信がすぐに来た。
どうでもいいメールを交換しあう。
メール文化は馴染めないけれど、悪くない。
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